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  • 2021/04/22 掲載

斎藤幸平氏が考える2030年、気候変動問題と“脱成長”の行くすえとは

連載:2030年への挑戦

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「SDGsは『大衆のアヘン』である!」という衝撃的なフレーズから始まる『人新世の「資本論」』(集英社)。マルクス主義などの哲学者・経済思想史研究者である著者の斎藤幸平氏は、上辺だけのSDGsへの対応を批判し、真に環境問題に取り組むための新しい社会の在り方を提示している。豊かな未来社会への道筋をどう思い描いているのか、斎藤氏に聞いた。

I&Wパートナーズ 児玉徳子

I&Wパートナーズ 児玉徳子

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斎藤 幸平氏
1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。現在は大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。専門は経済思想、社会思想。近著に『人新世の「資本論」』(集英社新書)
(写真:©︎五十嵐和博)

『人新世の「資本論」』が広く受け入れられた理由を分析

──中央公論新社が主催する「2021年新書大賞」の大賞受賞、おめでとうございます。25万部を超えているとのことですが、こうした反響について、ご自身ではどのように分析されていますか?

斎藤幸平氏(以下、斎藤氏):ネットでのリアクションを見ると、「SDGsは“大衆のアヘン”である」というメッセージに多くの人が衝撃を受けたようですね。。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)がやたらに注目されているけれど、「これで実際、何が変わるんだろう」と疑問に感じていた人も多かったのでしょう。そんなときに、現在日本で行われているSDGsの取り組み程度では気候危機への対応としてまったく歯が立たないという論拠をいろいろ挙げたので、「やっぱりそうだったのか」と納得してもらえたようです。

 気候変動をはじめ、環境に関する問題が無視できないものだという認識は、日本でも急速に広まっているように思います。「スーパー台風や豪雨、山火事などの自然災害として降りかかってくる。自分たちに直結する問題だ」と気がついたのです。

 いま私たちがこんなに苦しんでいるコロナ禍も、「人新世」つまり人類の経済活動が自然環境を破壊しつくす時代の産物です。森林の伐採や大規模農場の開発で、未知のウイルスとの接触の確率は格段に高まりました。資本主義の際限のない利潤の追求が、感染症拡大という形で人類に跳ね返ってくるということにも、私たちは気づいたのです。

 つまり、経済成長と持続可能性の両立は無理なのではないかと考えざるを得ない局面でこの本が刊行された。本来であったら、不人気のはずの「脱成長」を訴える『人新世の「資本論」』に共感があつまった理由のひとつはそれだと思います。



一番の関心事は「気候変動問題」

──そのSDGsは2030年までに達成すべき開発目標を掲げていますが、2030年はどのような社会になると思いますか。

斎藤氏:このままいけば地球環境は取り返しのつかない状態になり、社会の分断はますます進んでいくでしょう。『人新世の「資本論」』ではそうした状態を「気候ファシズム」と呼んでいます。そうならないようにするためにも、2020年代を時代のひとつの分岐点と考えるべきです。

 今、多くの科学者たちは「一般的に最悪の気候変動の帰結を防ぐには、2100年までの気温上昇を産業革命以前に比べて、1.5度以内に抑えないといけない」と言っています。そのためには、2050年を見据えた「脱炭素化」の目標に向けて、まずは2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量をほぼ半減にする必要があります。

 2020年はコロナの影響でCO2排出量が前年比5.8%減少したものの、すでにCO2の排出量は再びコロナ禍以前よりも増え始めています。このままでは、2030年には科学者が警告する1.5度を超える可能性があります。「1.5度という基準を2030年で超え、気候ファシズムに進んでいくのか」、あるいは「2100年までの気温上昇を1.5度に抑えるため、世界で一致団結する方向に舵を切るのか」、その分岐点となるのが2020年代だと言えます。

「緑の経済成長」では、問題は決して解決できない

斎藤氏:菅政権も2050年に向けて「脱炭素社会化の実現」を掲げ、大企業も動き始めています。ただ、日本の施策で気になっていることは、菅政権が発表した2050年の目標が「産業政策」としての脱炭素化になっていることです。つまり、再生可能エネルギーや電気自動車に積極的に投資することによって、その部門で世界をけん引するような技術革新を起こす「緑の経済成長」として、この問題が捉えられている点です。

 「緑の経済成長」は根本的な問題解決になるのでしょうか。私は解決にならないと考えています。もし、電気自動車で問題が解決するのであれば「自動車を作ればいい」と考えるでしょう。しかしそのために南米やアフリカからEV電池用のリチウムやコバルトを獲得してしまうため、結果的に自然環境を破壊しています。先進国だけが電気自動車に乗って、今までと変わらない快適な生活を続けるでしょう。

 こうして、これまでもさんざん語られてきた「南北問題」──「グローバルサウス」と「グローバルノース」の格差が広がり、グローバルサウスに負担が押し付けられてしまいます。基本的には、20世紀に繰り広げられてきた「植民地主義」や「帝国主義」がそのまま繰り返されることになります。

 「SDGsで格差をなくそう」という理念を掲げながら、今までと同じような経済成長を求めるシステムでは、別の形での格差や不公正、不平等などがくり返し再生産されてしまいます。これでは、根本的な問題解決にはなりません。

 気候変動問題やパンデミック問題を契機に、今までの私たちの生活の豊かさの背後にある抑圧や暴力性を見直し、是正していかなければなりません。しかし、それらを技術や経済成長のネタにしてしまうことで根本的な問題から目をそらしています。つまり、無限の経済成長を求める資本主義が原因だということを認識しないといけません。資本主義から決別し、まったく別の社会を構築できるかが、今こそ問われていることなのです。

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菅政権は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことを宣言しているが……。
(出典:環境省 報道発表)

【次ページ】「脱成長コミュニズム」こそ、世界を救う

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