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  • 2018/08/24 掲載

アリババ幹部が語る、eコマースの「死」と「再生」

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消費者の「買う」体験を大きく変えたeコマースは、今また、変容の時期を迎えている。多くのブランドはオンライン市場を取ることに躍起になってきたが、チャネルごとに戦略を作っていく状況ではなくなっている。「アドバタイジングウィークアジア2018」(AWAsia 2018)基調講演で、アリババグループのジェネラルマネージャーであるクリスティーナ・ルー氏が、同社のリテール事業における新しい試みやその実践について語った。

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。CodeIQ MAGAZINEにも寄稿。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)、共編著に『オウンドメディアのつくりかた』(BNN新社)および『エンジニアのためのデザイン思考入門』(翔泳社)がある。

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アリババグループ ジェネラルマネージャー
クリスティーナ・ルー氏

eコマースは死んだのか?

 売り手と買い手をマッチングし、両者の取り引きをサポートするプラットフォーム「Alibaba.com」。1999年創業の中国アリババの最初のサービスだ。Alibaba.comは、従来、商社が行ってきたB2Bの商取引をオンライン化し、売り手と買い手のダイレクトな取引に変えた。急成長を遂げ、世界でもトップクラスのシェアを誇る。

 その後アリババはB2Bにとどまらず、B2CやC2Cとさまざまな業態に展開。さらには決済サービスやクラウド、ECに関わるインフラ提供にも及んでいる。2017年には、マーケティングプラットフォーム「Uni Marketing」をリリースした。これは中国5億人以上の購買データやECサイトの行動トラッキングデータなど、アリババが持つビッグデータを「Tmall」(天猫)の広告配信サービスに活用するというものだ。

 従来の商習慣を破りオンラインにその場を用意したことでeコマースをけん引してきたアリババだが、現在はオンラインだけにチャネルを限定するのではなく、新たなチャネルの創出を進めている。オフラインとオンラインの統合だ。

 ルー氏は、講演の冒頭で、アリババの元CEOジャック・マー氏が2016年末に公の場で語った「eコマースは死んだ」という発言を取り上げた。アリババのこの取り組みのスタートは、まさに“そこから”だった。

 「eコマースの死」と衝撃的なフレーズだけが独り歩きしがちだが、マー氏の真意はそこではない。「10年、20年後に今のeコマースは消滅し、代わりに新しい小売りが登場するだろう」とビジネスの未来を語っていたのだ。オンラインとオフライン、そこに物流のテクノロジーが融合することで、商業インフラが変わり新しいリテール(小売り)が登場するチャンスがある。

 アリババの2017年からの物語はそこから始まる。

アリババが模索する“新しいリテール”

 まず、新しいリテールとは何か?

 オンラインからオフラインへ変化したように、今度はオフラインからオンラインへ変化すると考える人もいるだろう。実際、Amazonは実店舗を開く試みを行っている。だが、オンラインとオフラインとは単純に置き換えるものだろうか。

 また、「コンシューマーとチャネルの距離感が変わることで新しいリテールが生まれる、つまり「(新しいリテールとは)コンシューマーとチャネルの関係を再定義することだ」という人もいる。「新しいリテールとは商業インフラの構造が変わることだ」という人もいる。

 こうした意見はいずれも、あるポイントでは的を射ている。だが、リテールにとって最も本質的な“価値”を履き違えてはならない。

 ビッグデータの活用やデジタル化といったテクノロジーの進化は、ものごとの効率性を上げる。実際、従来のeコマースへの変革は、ビジネスフローやオペレーションをデジタル化し、いかに効率性を高めるかに注力してきた。しかし、それが最終目標ではないはずだ。

 確かにデータとテクノロジーはビジネスを変えてきた。今、まさにテレビや映画を見ていて、映像の中のきれいな女優が身につけているアクセサリーが欲しいと思ったら、すぐに購入できるような世界になっている。テクノロジーの進化がもたらした変化だ。

 しかし、重要なのは価値を作り出す部分だ。

 本来のゴールは消費者の購買体験に価値を持たせることであり、その価値を創造するところにある。これは、決して新しい視点ではない。これまでも多くの小売業者が、買い物客のショッピングという楽しい経験を生み出すために非常に努力してきた。

 データやテクノロジーを使ったバリューチェーンの最適化は、ビジネスソリューションの価値を上げるかもしれない。テクノロジーはパワーワードだが、テクノロジーで高効率性を得ることが最終的なゴールではない。「どのようなデータとテクノロジーがショッピングという経験をどう活性化するのか」ということ、いわゆる顧客体験(カスタマーエクスペリエンス、CX)を考えなければいけない。

 ルー氏は、「従来のリテールの形態(たとえば大手小売りのテスコやウォールマートなど)ではオフラインのディティールにより、コンテクストやチャネルが非常に定義されていた」と指摘する。

 人々は非常に限定された環境にあり、ブランドや企業は住んでいる土地、属性などで厳格にそれぞれのコンテクストを定義していた。確かに私たちは生きていく上で、食べ物や飲み物、衣類など消費する。しかし、自らを消費者だと思って生きているわけではない。目標を見つけたり、あるいは自由を謳歌しながら、自らの人生を歩んでいる。

 購買行動の接点だけを見て消費者を呼んでくるだけではなく、購買行動は彼らの人生の中の多くの経験の一つだとらえることで自ずとコマースがやるべきことが見えてくる。消費者がショッピングエクスペリエンスを楽しめるよう、その経験をより良くすることが大事だということになる。この点は新しいリテールでも変わらない。

 アリババが見ている未来のリテールの根底にもそれがある。逆にそう考えることで、消費者との接点はECサイト、店舗だけではなく「コマースエブリフェア(Commerce Everywhere、いつでも、どこにでもコマースはある)だ」といえる。

 今回のセッションではコマースエブリフェアという言葉が頻繁に登場した。リアルな店舗、ECサイトなどのように、なぜこれまでコンテクストを限定し、チャネルを設定する必要があったのかというところなのだろう。

 新しいリテール、もはやそれは未来ではない。徐々に現実になっているのだとルー氏は語る。まだ実験段階とするアリババのいくつかの新しいチャレンジを通して、eコマースの未来を見ていこう。

ショッピングモールの購買機会を生み出す

 さまざまな例があるが、クリスティーナ氏が最初に挙げたのは、ショッピングモールであるTmallだ。

 Tmallで毎年11月11日に行われる「独身の日」のプロモーションは有名だが、2017年には「Pokemon Go(ポケモンゴー)」のようなAR(拡張現実)技術を組み合わせた施策「Catch the cat」が実施された。Pokemon Goは位置情報とAR技術を組み合わせ、モンスターを集めていくゲームだ。アリババでは、この舞台をショッピングモールにしたのだ。

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Catch the catは600万人を動員し、16億ドルのインタラクションを生んだ

 Catch the catのプレイヤーがゲーム上でさまざまなブランドのマスコットキャラクターをつかまえると、リアル店舗における景品やクーポン券のバウチャーと交換できる。結果として、600万人の参加者を動員し、16億ドルのインタラクションを生み、250バウチャーを発行した。そのうち、30~40%が実効されたという。

 結果、スターバックスとKFCなど、40ブランドの3万以上の店舗が出展するショッピングモールのトラフィックを促進し、それぞれの店舗に向けることができた。購買の機会を生み出したのだ。

 また、ライブストリームの中でKOL(Key Opinion Leader)が紹介したり、身につけた商品をすぐに購買することができる仕組みを導入している。KOLとは、いわゆる中国におけるインフルエンサーのこと。意味合いとして、日本のインフルエンサーマーケティングと似ているが、中国ではKOLに限らずライブストリーミングが浸透しており、生配信を通して、彼らのフォロワーにダイレクトにプロモーションするというマーケティングが大きな存在になっている。

 こうしたインフルエンサーによるマーケティングは新しいものではなく、これまでも多くの化粧品会社が行ってきたことだ。実際、メイベリンはWeiboで8400万フォロワーを持つKOLによるマーケティングで2時間で1万本の口紅を販売したという。

 アリババは、独身の日のプロモーションの一つとして8時間にも及ぶライブストリームを実施。ライブストリームでは画面を見ながら、登場するゲストが身につけたり、紹介したりし商品が気に入れば、サイドに表示されるボタンをクリックすることですぐに購入できるというシステムになっている。ニューヨークのファッションショーとのコラボレーションも実施している。

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メイベリンとWeiboによるライブコマースでは2時間で1万本の口紅を販売した

【次ページ】上海のスターバックスの事例とは? ARによるバーチャル体験も可能

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