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  • 2018/11/02 掲載

「とにかく自前主義はダメ」、“日本型技術革新”のキモとは

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オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)はこの6月、「オープンイノベーション白書 第二版」を公表した。オープンイノベーションの必要性は声高に叫ばれているものの、日本のオープンイノベーションは進んでいるとは言い難い。白書を通じて見えてきた日本における課題や成功に必要な要因を、事務局が設置されているNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のイノベーション推進部に聞いた。

編集者/ライター 飯田樹

編集者/ライター 飯田樹

国際基督教大学教養学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修了。株式会社マイナビにてニュースサイト「マイナビニュース」の編集記者、Webメディア企業での編集者を経て、現在は編集と執筆を中心にフリーランスで活動。キャリア、教育、ビジネス系を中心に、Web/紙媒体での編集、取材・執筆などを手がける。

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イノベーション推進部 スタートアップグループの吉岡恒グループ長 統括主幹(当時)と、谷口信志主査

イノベーションを起こす文化を啓蒙する

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 「オープンイノベーション白書」はオープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)とNEDOにより公表されている。JOICは日本企業でのイノベーションの創出と競争力強化のために、推進事例の共有やオープンイノベーション動向の把握、啓発・普及活動をしている組織だ。

 JOICの運営事務局が設置されているNEDOは「エネルギー・地球環境問題の解決」と「産業技術力強化」をミッションに、経済産業省の政策に沿い、今後の日本に必要な技術開発のためのプロジェクトを推進している機関である。

 イノベーション推進部 スタートアップグループの吉岡恒グループ長 統括主幹(取材当時)と、谷口信志主査が所属するNEDOのイノベーション推進部スタートアップグループでは、スタートアップ企業の支援を行っている。

 オープンイノベーション白書の目的について、吉岡氏は「外から技術を取り入れてイノベーションを起こす文化を啓蒙する」ことにあると語る。

「昔はイノベーションを起こしてきた企業がたくさんありましたが、今は企業が大きくなりすぎて小回りが利かなくなってきました。技術も多様化し、一社だけで新しいイノベーションを起こすのは難しくなっています。『オープンイノベーションなくしてイノベーションは起こらない』というのは海外では常識ですが、日本は自前主義が深く根付いており、雇用の流動性も低い状況です。そこで成功事例を紹介して、オープンイノベーションを促すための白書をまとめました」(吉岡氏)

 科学技術が多様化している現在、「バイオの専門家でもITの知識が必要になるなど、一つの専門分野だけではイノベーションが起こせなくなっています」と吉岡氏。イノベーションは、いろいろな分野が融合することで生まれてくる。それが、「オープンイノベーションなくしてイノベーションが起こらない」と言われる所以(ゆえん)だ。

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データに見る国内オープンイノベーションの現状 日本の「自前主義」が示されている
(出典: NEDO報道発表

変革にはトップダウンが必要

 なぜ日本ではオープンイノベーションが活発ではないのだろうか。産学官それぞれの課題を聞いた。まず、企業については、人材の流動性が低いことに加え、「大企業の中央研究所が大きな力を持っている」ことが課題だと吉岡氏は指摘する。

「研究者たちは『自分たちでできるから』と、外部の技術を持ってくることを嫌がります。特に抵抗するのは中堅社員です。日本には終身雇用制があり人が動かないため、外のメンバーを入れるきっかけもありません」(吉岡氏)

 変化を起こすためには、経営企画のトップダウンで専門の組織などを作ることで、社内をオープンイノベーションができる土壌に変えることが必要だという。白書でも、トップダウンで組織を設置した事例が多く取り上げられている。

 大学側の課題には、「経営人材とのマッチングがうまくいっていない」ことと、大学教員の意識の問題があるという。

「大学にはいろいろなシーズが眠っていますが、社会実装に結びついていません。経営人材がいないことが一番の理由です。アメリカには“流し”の経営者がいるのでマッチングをしやすいのですが、日本には少ないため、いいアイデアがあっても研究のままで終わってしまいます。また、先生方は自分のシーズを社会に出したいと思っていらっしゃいますが、経営や儲けにはあまり興味がありません。技術可愛さに『金儲けのためにやっているんじゃないんだ』となってしまうと、ベンチャーはうまくいかないのです」(吉岡氏)

 大学と企業の共同研究では、知財がネックになることもある。どちらかが知財を所有するアメリカと異なり、日本では企業と大学の両方が所有者となる傾向にあるため、知財を活用しづらくなるということだ。

 そして、「官」の課題は人材だという。経営人材と研究者とのマッチングをしようとしても、経営人材が足りないのだ。人材流動性が高い国では、オープンイノベーションに成功した企業にいた人物や、ビジネススクールの学生が起業に関わっているが、日本にはその文化はない。

 成功した経営者が自らの会社を売り、次のベンチャーの投資や経営に向かうといったエコシステムができていないことが、オープンイノベーションの土壌として弱みになっている。

オープンイノベーションの成功要因

 では、日本でオープンイノベーションを成功させるためには何が必要なのだろうか。白書の第5章には、オープンイノベーションにおける課題・阻害要因と成功要因がまとめられている。

要因 大項目 小項目
組織戦略 戦略・ビジョン ●会社戦略の策定
●全体戦略におけるオープンイノベーション戦略の位置づけ明確化
●自社のケイパビリティを超えた目標設定
組織のオペレーション 組織 ●オープンイノベーション専門組織の設置
●組織に明確なミッションが与えられて、ミッションの遂行のために必要な権限、人材、予算等が配分されている
外部ネットワーク ●外部ネットワーク・コミュニティの形成
●外部仲介業者の活用
内部ネットワーク ●内部ネットワーク・コミュニティの形成と巻き込み
ソフト面の要素 人材 ●トップ層の理解・コミットメント
●ミドルによる「橋渡し(コーディネート)」機能の構築
●現場における「イノベーター人材」の発掘・育成・活用
文化・風土 ●イノベーションを創出する組織文化・風土の醸成
●成功体験の付与
オープンイノベーション成功要因の分析
(『オープンイノベーション白書 第二版』PDF版 251~252ページより引用)


「白書ではまず、各企業の成功事例のヒアリングからまとめた、組織戦略、組織のオペレーション、ソフト面の要素に関する成功要因を示しています。続いて、それらの条件を企業さんに当てはめてみた時の成功事例を紹介し、最後にそしてそれらを、海外事例と比較した時の成功要因としての共通化をしました」(谷口氏)

【次ページ】積水化学工業、森永製菓、高砂熱学工業の事例

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