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  • 2019/01/30 掲載

企業が「廃校」を活用する、計り知れないメリット

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少子化に伴って1年に全国で500校前後の学校が廃校の運命をたどっている。しかし、その建物や設備を活用して民間の観光・宿泊施設や事業所などへの転用を促すプロジェクトが文部科学省主導で進められている。「元・学校」は住民にとっては単なるハコモノを超えた存在で、それが進出企業に見えざるメリットも提供してくれる可能性がある。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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企業による廃校活用には、単なる設備投資軽減以上の効果がある
(©kengo miura - Fotolia)


千葉の廃校、サテライトオフィスになる

 2018年12月20日、千葉県商工労働部企業立地課とちばぎん総合研究所は「空き公共施設」の視察バスツアーを開催した。15団体22人が参加し、県南部の鋸南町、南房総市の活用事例と、最近廃校になった小学校跡を見学した。

 見学先の一つ、南房総市(旧・和田町)で廃校になった丸小学校・幼稚園の校舎(園舎)は、2017年、官公庁向けに制服を製造するアパレルメーカー、グロリアの事業所に生まれ変わった。校舎と体育館は縫製工場、オフィス、倉庫、食堂、社員寮などに改装された。本社をそっくり移転した永井実社長によると、すべて新築するのと比べると費用は約半分ですんだという。

 千葉県は2016年度以後で12カ所の空き公共施設で20件が成約し、すでに活用されているが、そのほとんどは「廃校」である。2018年1月25日には東京・日本橋で「活用フォーラム&マッチング会」も開催された。

 千葉県で活用されている廃校にはIT企業のサテライトオフィス(本拠地から離れた場所にあるオフィス)もある。

 東京・秋葉原に本社があるインターコムは2016年、太平洋沿岸の南房総市(旧・千倉町)の旧・千倉保育園の建物を改装し「インターコムR&Dセンター」を設立した。

 同センターは親会社のインターコムからソフトウェア研究開発、ソフトウェアの品質管理・検査、商品組立、配送センター、コールセンターの業務を受託する。人材は地元から募集し、農業、漁業、観光が主産業の旧・千倉町に安定した新規雇用を創出した。インターコムの創業者で会長兼CEOの高橋啓介氏は旧・千倉町の出身で、廃校の活用は郷里への恩返しでもあるという。

 千葉県南部は東京湾アクアラインを利用すれば東京からクルマで約1時間という地の利があるが、廃校の活用は都心部、大都市近郊、地方都市、農村部を問わず、文部科学省のバックアップを受けて全国的に進んでいる。

年間約500校がつぶれる時代、「みんなの廃校」プロジェクトが動き出した

 2019年4月末で終わる「平成」は少子化によって子どもの数が減少し続けた時代だった。文部科学省の「文部科学統計要覧」によると、1989年(平成元年)の小学生の数は約960万人、中学生の数は約561万人だったが、2017年(平成29年)には小学生は約3分の2の約644万人、中学生は約4割減の約333万人まで減っている。

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小学校、中学校の在学者の推移

 公立の小・中学校を抱える全国の自治体が学校の統廃合を進めた結果、多くの学校が廃校になっていった。文部科学省の統計によると、2002年度から2015年度までの14年間に全国で6811校、年平均486.5校が廃校になっている。

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公立学校の年度別廃校数の推移

 小学校は明治時代、地元の名士が土地を提供したり、資金を出しあって建てたところもあり、古い城郭や寺院の跡地など、その地区で最も優れた土地に災害に強い頑丈な建築物が建てられていることが多い。たとえ木造で建築年代が古くても、大型で比較的安全で利用価値が高く、取り壊すのはもったいないものばかりだ。そのため、それを他の用途に転用して活用しようと文部科学省自ら動き出している。それが2010年9月に始まった「みんなの廃校」プロジェクトである。

 財源確保を目的にプロジェクトに関する説明資料を作成するために、文部科学省は2016年5月1日現在の公立学校の廃校活用状況をまとめている。2002年度から2015年度までの14年間に廃校になった6811校から、震災や火災などで施設が現存しないものを除くと5943校ある。そのうち、すでに別の用途で活用されているものが70.6%あり、用途決定済みも5.3%あるが、21.2%にあたる1260校は用途が未定のまま。老朽化や耐震性の問題などで取り壊される予定のものは2.9%しかなかった。

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公立学校の廃校活用状況

 この、「用途未定」の約2割の廃校を行政の支援で減らしていこうというのが「みんなの廃校」プロジェクトである。文部科学省は自治体から廃校情報を集約し、積極的に外部に情報を提供。活用事例集を公表してマッチングイベントを開催している。建物の改修費用などは、文部科学省、厚生労働省、総務省、国土交通省、内閣府など各省庁の補助金や助成金、交付金の制度が利用できる。

 農林水産省も農山村地域での定住を促進する目的で「廃校利用」に関心を寄せる。たとえば廃校の商業利用によって買い物困難者の解消を図ろうと、農山漁村振興交付金で支援する地域協議会に専門家を派遣している。「地方創生」を掲げる政府や省庁にとっても、自治体にとっても「廃校の活用」はやり方次第で雇用拡大、定住促進、地域おこしに直結する「好素材」である。

 なお、廃校は過疎地の問題だと思っている人がいるが、大都市の都心部でも「ドーナツ化現象」で廃校になる小・中学校が存在する。以前は人口が急増して学校建設や教員確保に追われていたベッドタウンも、今は廃校をどう活用するかという問題に直面している。文部科学省の統計によると、廃校の数が多い都道府県の第1位は北海道、第2位は東京都、第3位は岩手県だ。

 もっとも、東京や大阪などの都心部や大都市近郊は地価が高く、まとまった床面積の物件への需要が強いので廃校の活用希望も多く、話はすぐにまとまる。「用途未定」の廃校が多い県は九州地方、中国・四国地方、東北地方に固まっている。活用がなかなか決まらない廃校はやはり過疎地に多い傾向があるといえる。

【次ページ】企業が「廃校」を活用する、意外なメリットとは?

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