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  • 2019/09/06

低迷する日本の地場産業・伝統産業を“ハゲタカ”が救う

外資の対日直接投資、増加中

燕の洋食器、鯖江のメガネ、関の包丁、有田焼。全国各地の地場産業、伝統産業への日本人のイメージは、決して悪くない。ものづくりの現場を見せる「産業観光」も人気を集める。しかし、需要の低迷、人手不足、後継者難に苦しむ企業が多いのも事実である。そこへかつては“ハゲタカ”とやゆされた外国企業が手を差し伸べ、外資の対日直接投資によって息を吹き返したり、発展した企業や産地がある。高品質の製品を生み出すものづくりの「匠(たくみ)の技」が、海外からの投資を呼び込んでいるのである。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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「日本のものづくり」を支える外資、という流れが生まれつつある
(Photo/Getty Images)


地場産業のイメージは決して悪くはないが……

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 信楽焼や有田焼などの陶磁器、南部鉄器、高岡銅器、江戸切子、関の包丁、輪島塗、丹後縮緬(ちりめん)、箱根寄木細工、奈良の墨、高崎だるま、野田や銚子(ちょうし)のしょうゆ……日本全国いたるところに地場産業がある。古くからある伝統産業だけでなく、燕の洋食器、鯖江のメガネフレーム、三石(現・岡山県備前市)の耐火レンガ、今治のタオルのように、明治以後に始まった地場産業も少なくない。

 生産元はほとんどが中小・零細企業だ。その多くは衣食住の洋風化のような需要の変化、安価な海外産品の流入のような産業構造の変化に弱い。輸出で成功しても、燕の洋食器のように為替が大きく円高に振れるたびに、「大変だ、大変だ」とニュースでオーバーに報じられ、「為替変動の被害者」として有名になってしまった産地もある。

 そして最近は、まるで判で押したように「需要低迷」「人手不足」「後継者難」による産業の危機が伝えられ、まるで「絶滅危惧種」の生物のようなイメージまでついて回る。

 しかし、地場産業を見る日本人の目は決して冷たくはない。

 JTB総合研究所が全国の20~79歳の男女1万人を対象に調査し、2018年3月に発表した「地域の特産品(地場産業・伝統産業品)への意識についての調査」によると、「地場産業・伝統工芸品を購入したことがある」という回答は48.7%で約半数に達する。28.3%は「意識して購入した」と答えている。

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地場産業・伝統産業品の購入経験率

 「今後も購入したい」という回答は43.7%にのぼる。「関心があるのは中・高年層だろう」と思われそうだが、意外にも20~40代の関心度が高く、「自分でも製作体験がしたい」は20~30代の女性が突出して高かった。関心を持つ理由は「日本の地域に伝わる生活・伝統文化に触れられる」が60.7%と最多で、「日本の職人のものづくりの技」に対しては良好なイメージを持っている。

 では、最近では何を購入したかというと、1位は「焼き物、陶磁器」、2位は「食器やガラス製品」、3位は「刃物」で、「ファッション雑貨」「漆器」がそれに続いた。置物や骨董(こっとう)品のようにただ飾っておく、しまっておくものではなく、「いいものを生活の中で日常使いしたい」という志向がうかがえる。

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ここ2~3年の間に購入した地場産業・伝統産業品

 上位の品目は、産地が「オープンファクトリー」と呼ばれる産業観光のイベントに力を入れている。即売だけでなく工場見学やものづくり体験もできる。たとえば、陶磁器の産地はどこでも「陶器市」が大きな集客力を見せるが、佐賀県有田市の「職人現場検証」は、製作現場が見られる人気イベントだ。

 食器は「燕三条工場の祭典」(洋食器)や「高岡クラブツーリズモ」(銅器)があり、刃物は「関の工場参観日」に観光客がつめかける。東京近郊では、下町の伝統産業品が集まる「台東モノマチ」、東京・大田区のものづくりイベント「おおたオープンファクトリー」、鋳物の町で知られる川口の「川口オープンファクトリー」も人気のイベントだ。メガネフレームでは、世界的産地の福井県鯖江市に「RENEW」というイベントがある。

 だが、こうした元気印の産地はやはり一部にとどまる。ほとんどの地場産業は、経営者や職人の高齢化、人手不足、後継者難による事業承継の問題、資金不足で設備の更新や販路の開拓がままならないなど、多くの問題を抱えている。中には廃業、転業が相次いでくしの歯が欠けるように衰退し、かつてのにぎわいが見る影もなくなった産地もある。

地場産業に外資の直接投資が入ってくる背景

 地場産業の立て直し、振興には、地元自治体だけでなく「地方創生」を掲げる政府も力を入れている。代替わりした地元の若手経営者有志が集まって、個々の企業の枠を超えて結束、奮闘している地域もある。

 そこへ、海外の企業が出資やM&Aなどを通じて、日本国内の地場産業、伝統産業へ直接投資する動きが現れ始めている。

 年末残高ベースの対日直接投資全体は、リーマンショック後の数年間は停滞したが、2014年以降、右肩上がりで伸びが加速している。経済産業省の「通商白書」、JETRO(日本貿易振興機構)の「対日投資報告」によると、2013年の19.6兆円から2017年の28.6兆円へ4年間で45.9%も伸びた。2018年は6月末時点で29.9兆円で、初の30兆円の大台に乗るのは確実になっている。

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対日直接投資残高の推移

 対日直接投資の伸びは、為替レートが円安に振れて海外からの投資がしやすくなったこともあるが、政府も産業政策として投資の呼び込みに力を入れ、「2020年までに対日直接投資残高35兆円達成」という数値目標を掲げている。

 対日直接投資は、たとえば「ルノー→日産」「ウォルマート→西友」「鴻海→シャープ」のような有名どころから非上場企業まで広範囲にわたる。業種もICTや医薬品のようなハイテク分野から小売業、サービス業まで裾野が広い。その目はいま、地場産業にも向けられている。

 背景には「日本のものづくりの技」に対する高い評価がある。現状は厳しくとも、技術・製品の優秀性を生かせば国内、海外の販路を開拓して成長できる可能性があり、それを通じて自社にメリットがはね返ってくるなら「投資価値あり」と判断できる。

 日本企業は、外国企業からの投資話を何でも“ハゲタカ”呼ばわりして排斥するような「外資アレルギー」が依然根強いように見えるが、代替わりを機に姿勢が柔軟になることもありそうだ。また、これまでファイナンスで地場産業の後ろ盾になっていた地方銀行の財務が厳しくなり、その資金供給力が衰えを見せているという事情もある。

【次ページ】関の刃物にドイツ資本、大阪の歯ブラシに中国資本

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