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  • 2019/09/20 掲載

元五輪選手・為末大が考える“成長が止まってしまう人”の特徴

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オリンピックで活躍した元アスリートの為末 大氏と、ヤフーの企業内大学「Yahoo!アカデミア」で学長を務める伊藤羊一氏に、第一歩を踏み出す行動力や失敗を恐れない方法について、前編では自身の経験を交えて話を聞いた。後編では成長し続けるために不可欠な技術・マインドについて語ってもらった。

聞き手:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎、執筆:井上猛雄、撮影:大参久人

聞き手:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎、執筆:井上猛雄、撮影:大参久人

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社会人が成長し続けるには何が必要か



強いチームの証明は「統計的なゆがみ」

伊藤羊一氏(以下、伊藤氏):為末さんはこれまでの選手生活、どうやってモチベーションを維持してきましたか?

為末大氏(以下、為末氏):アスリートはそれぞれ自己流でモチベーションを高めているのですが、所属チームの空気によってモチベーションが上がることが往々にしてあります。面白いのは、日本人選手はジャマイカ人選手の記録はそれほど気にしませんが、中国人選手の記録には強く刺激を受けて記録も伸びやすい、ということです。集団の中で類似のものを無意識に見つけ「彼らができるなら自分たちもできる」とライバル視して相互に伸びていく。そんな妙な盛り上がりが、強いチーム・団体には広がっていました。

 今の短距離の男子陸上選手にはそれがあると思います。たとえば2017年、桐生(祥秀)選手が陸上男子100メートルの日本記録を更新しました(9.98秒)。これは98年以来(伊藤浩司選手。タイムは10秒00)の偉業です。長い日本陸上の歴史の中で、桐生選手ただ1人が10秒を切ったのです。しかしそれから2年間の間にサニブラウン(・アブデル・ハキーム)選手、小池(祐貴)選手と、次々に10秒の壁を越える選手が現れました。2017年~2019年夏の間で、男子100メートル歴代10傑にはなんと7人が入りました。どの年代でも誰もが毎日厳しい練習をしてきたはずなのに、なぜかスポーツにはこのような「統計的なゆがみ」がたびたび見られます。

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元 プロ陸上選手
Deportare Partners代表
為末 大氏

 集団でなく個人でモチベーションを維持する際は、「心が折れる要素」を極力排除しています。たとえばグラウンドのすぐ近くに住んで、練習に行きたくないという心のハードルを下げたり、食事制限があるときはコンビニから遠い場所に住んだりと、心が弱ったときに折れにくい環境を作っています。オリンピック選手だからといって鋼の心を持っているわけではありません。自分の心が弱ったときにくじけない「システム」を、まだ心が元気なうちから構築して備えておくのです。

伊藤氏:環境で言えば、私は新卒で銀行(日本興業銀行)に務め、文具メーカー(プラス)に転職し、2015年4月にヤフーに入社しました。合理的に考えて、この環境が自分にとってベストだ!と考えて進んできたのではなく、人との出会いや縁によってキャリアを歩んできたのですが、その時々に求められるものに応えることで、自分自身を成長させてきました。成長が環境に依存する面もあるかもしれませんが、環境を生かせるかどうかは、心の持ちようによるかもしれません。

為末氏:僕も環境や人との出会いで変わることはありましたね。選手の時はスランプに陥ると、海外チームでトレーニングしました。先ほどのように、チームから受ける影響は大きいからです。停滞しそうなとき、僕は意識的に自分自身を揺さぶっています。引退してからも、しばらく自分が同じようなことしか言っていないときはまずいと感じ、状況を変えるよう努力をしています。引退してから2年ぐらいは、オリンピック選手としての恩恵を受けていたと思いますが、やはり3年ぐらいたつと自分の発言の影響力も小さくなってきます。自分の言葉にしっかりと価値を出していなければいけないと思っています。

 選手は引退後、次の人生に進むとき、2つの不安に直面します。1つは「こんなに夢中になれることに再び出会えるのか」という不安。もう1つは「こんなことしかやっていないのに社会で通じるか」という不安です。実際、僕もマネジメントを知らないのに会社を始めて、当初は失敗ばかりでした(笑)。とにかく「自由」さえ尊重すればいいと思っていたので、オフィスで仕事をしているのは僕だけ、という状況が何日も続いたこともあります。「選手時代の60~70%」をパフォーマンスの期待値として考えていたのですが、実際には5%ぐらいでした(笑)。

ビックリ箱のフタを開ける瞬間

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為末氏:僕が現役時代に幸運だったのは、たとえば日本記録を更新した瞬間など、自分自身の常識が変わってまだ見たことのない世界に行ける感覚を味わえたことです。

 その“ビックリ箱のフタを開ける瞬間”を味わえば、寝食を忘れて練習に取り組み、自分自身の成長にドライブがかかります。その回数が多ければ多いほど、成長できる。社会人としても、リミッターを外せるように、今後もそういうことを仕掛けていきたいと考えています。

伊藤氏:ただ普通の人が勘違いしてはいけない点は、最初から世界一という目標は実現できない、ということだと思います。一流のアスリートのみなさんでも、少しずつ努力してやっている感じですよね。

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Yahoo!アカデミア学長
ウェイウェイ 代表取締役
伊藤 羊一氏

為末氏:現役時代を振り返れば、「思えば遠くへ来たもんだ」と、山登りみたいな感じでしたね。僕は以前、複数のオリンピアンに目標についてインタビューをしたことがあります。そのとき10人中1人ぐらいはメダルを目標にしていましたが、その他の9人は、「あした何をするか」だけを考えて、それを繰り返していました。

 僕は「あしたの何かを変えてみる“小さな1日のサイクル”を飽きずに回せた人が成長し、運も呼び寄せていく」という仮説を持っています。

伊藤氏:少しずつリミッターを外しながら、環境を変えていく。自分のあしたをちょっとずつ広げていくということなのかもしれませんね。

為末氏:「トンネルを掘ること」と似ていると思います。地盤を固めてばかりだと掘る速さが遅くなります。一方で、穴を空けてばかりだと崩れてしまう。ですから崩れずに進める最高速度で穴を空け、ちょっと無理をしながら、自身に「大丈夫」と言い聞かせる。そうすると、いずれ状況に慣れてきます。その繰り返しをしながら、いかに速く掘っていくかということではないでしょうか。

伊藤氏:“小さな1日のサイクル”を小さく高速で回したぶんだけ成長する、ということですね。気をつけるべきは、リミッターをまったく外さずにサイクルだけ速く回すことでしょう。自分では掘り進めていると思っていても、ただ地盤を固めているだけかもしれません。

【次ページ】すべての分野に共通、“成長”に直結する技術

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