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  • 2019/12/10 掲載

アマゾンの人材戦略、「“まじめな社員”が会社にとって命取り」と言えるワケ

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人手不足の昨今、「空いているポストを早く埋めなければ」と急いで採用を決めざるを得ない会社もあるだろう。だが、それで会社の業績が上がらないのだとしたら、その焦りによる間違った人材の採用が一因かもしれないと、元アマゾン幹部のジョン・ロスマン氏は指摘する。また、同氏によれば、“まじめな社員”が時としてアマゾンの命取りになったともいう。では採用担当者はどのような採用プロセスを踏み、どのような人材を採用するべきなのだろうか? 同氏が、常に最高で最適な人材が集まっているアマゾンの人材採用戦略について解説する。

ジョン・ロスマン

ジョン・ロスマン

アマゾン社の元幹部であり、「アマゾン・マーケットプレイス」の立ち上げ、また、Target.com、NBA、Toys R Us その他のトップブランドの責任者として、エンタープライズサービス事業を率いた。現在、ロスマン・パートナーズにて、デジタル時代におけるクライアントの成功と繁栄を支援するビジネスアドバイザー業務を行なう。ゲイツ財団、マイクロソフト、ノードストローム、T-Mobile、ウォルマートなどの取締役顧問。ニューヨークタイムズ、CNBC、ブルームバーグ などにも出演。

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アマゾン CEO ジェフ・ベゾス氏が行っている人材採用戦略とは?
(写真:AP/アフロ)


焦りが「採用ミス」につながる

 私と同じくらい長くビジネスの世界にいる人なら、きっと何度かミスを犯しているだろう。これまで私が犯した最大のミスは何だろう? 難しい問いかけだが、おそらく雇用に関することだ。雇用に関するミスの本当のコストを計算するのは難しい。時間、文化、事業、好機、自信など、多くの損失がある。

 雇用上のミスの根本原因を掘り下げると、ミスが起こるときの共通点は焦りだ。前日に空いたポストが1つあれば、雇用のプロセスを急がなければならない。その焦りから採用マネジャーは妥協して、その職に合わない候補者を雇ってしまうかもしれない。

 そのような採用が、先々で資産ではなく負債になるのは避けられない。こうした採用ミスはどうすれば防げるのか。それは体系的にミスを防ぐための雇用プロセスを構築することだ。アマゾンではそれを“バー・レイザー”(選抜の基準を引き上げる人)と呼ぶ。

 雇用にかかわるミスの根本原因を体系的に防ぐ雇用プロセスを構築する。そのアプローチは明確で、計算され、体系的であること。ただ今日の仕事をこなすためではなく、成長と適応、そして変化のための雇用でなければならない。


「目に見える候補」からのみ採用するわけではない

 アマゾンの雇用面接のプロセスは過酷である。私が入社したときは2か月以上かけて、23人と面接をした。これが標準ではないが、この例から、アマゾンが雇用をどれほど真剣にとらえているかがよく分かる。それぞれの面接に特別な役割と目的がある。内容は細かく記録され、面接官の間で共有される。報告は適宜、必ず行う。これは1つのプロセスである。つまりそのやり方は明確で、計画的で、体系的である。

 「アマゾンほどプロセスにこだわる企業はありません」と言うのは、フェイスブックやツイッター社をはじめとする、シリコンバレーの企業を顧客に持つ、カリフォルニア州メンローパークにある人材コンサルティング会社のヴァレリー・フレデリックソンだ。

「アマゾンは目に見える中で最高の人材を雇うだけではありません。適切な人材を常に探そうとします」(Greg Bensinger, 2014.)

 バー・レイザーは特別な訓練を受けた人で、雇用チームからは独立している。つまり雇用をしているチームの一部ではないので、雇用チームのミスを誘発する可能性がある“焦り”の影響を受けることがない。バー・レイザーの第1の目的は、候補者が(募集している以外の)仕事もできるかどうか判断することだ。新しい役割や、新しい事業分野の仕事をする力がない人を雇えば、会社の将来の柔軟性が失われる。

 第二に、バー・レイザーは、一般的な職務全体のレベルを引き上げる。この考えについてのベゾスの言葉はよく知られている──5年前に雇われた社員が「あのとき雇われていて良かった。今では入れないから」と考えるくらい、会社のレベルが上がっていなければならない。

「空いたポストの仕事ができるというだけでなく、会社の中の新しい他の仕事もできる人がほしいのです」

 アマゾンも以前は契約していた人材コンサルティング会社リクルーティング・ツールボックスの代表、ジョン・ヴラステリカは言う。

「時間がかかるので高くつくプロセスかもしれないが、間違った人材を雇うことがどれほど高くつくか考えてみてほしい」( Ibid.)

 バー・レイザーは報告のプロセスに参加し、全員の意見を聞いて自分の意見を表明する(イエスかノーか決めるだけのこともある)。これは雇用マネジャー、バー・レイザー、雇用チームの他のメンバーの間のパートナーシップである。合意による決定だが、バー・レイザーは拒否権を持つ。他が全員イエスでも、バー・レイザーがノーと言えば、それはノーとなる。

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企業に多大な損失を与える「雇用ミス」の一因は、採用担当者の“焦り”だ
(Photo/Getty Images)

過去に自分がやったことを未来の役割にどう応用できるのか

 “バー・レイザー”に指名されることは、相当な名誉である。選抜はその人が雇った社員の業績と離職率に基づいて行われる。しかし拒否権を持つため、雇用チームのマネジャーと正反対の立場になることもある。バー・レイザーは外部の声であり、独立した力であり、ときに拙速で近視眼的な決定につながる雇用のプレッシャーからは免れている。

 グレゴリー・ラティはアマゾンのバー・レイザーだが、最初に就職したのは、ニューヨークの出版社だった。彼は2016年「ピュージェット・サウンド・ビジネス・ジャーナル」のインタビューで、自分の編集能力は、最初に面接を受けたアマゾン・ブックスの仕事には向いていなかったが、それでも雇われたと述べている。「私は典型的なアマゾン従業員ではありませんでした」とラティは言う。

「私はエクセルの使い方も知りませんでしたが、アマゾンは──何よりも──才能と野心があって熱意にあふれた人材を求めていました。過去に自分がやったことを、未来に担う役割にどう応用できるか説明するのです」(Ashley Stewart, 2016.)

 アマゾンの面接官は、ラティが同社のリーダーシップの原則、たとえばオーナーシップ、リーダーシップ、まずは行動、顧客第一といった価値観に賛同していることを評価した。また組織の中で成長し、やがて価値を生み出すと思われる、潜在力も高く買っていた。その予測はみごと的中し、ラティはバー・レイザーになったのだ。「これらのリーダーシップの要素が何を意味するか理解すること、そして自分の過去の経験を引き継ぐことが重要です」とラティは言う。

「面接について一般的に言えるのは、あなたが労働者として、そして従業員としてどういう人間なのか、具体的に示すことができる例があるといい。多くの人がそれを見落としています」(Ibid.)

 あなたがバー・レイザーでないとしても、雇用プロセスでのあなたの役割は重要である。アマゾンでは、合格したすべての志望者のキャリアは、私たち自身のものとしっかり結びついていると理解されていた。そしてそれは優位性を獲得するための最も大きなフォーシング・ファンクションである。

【次ページ】アマゾンの面接プロセスを支えるツールとは…?

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