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  • 2020/01/31 掲載

国際ロボット展で見えた、業界トレンドの明らかな変化

森山和道の「ロボット」基礎講座

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「2019国際ロボット展(iREX2019)」が2019年12月18日(水)~12月21日(土)の4日間、東京ビッグサイトで行われた。展示を細部までお伝えすることはとてもできないが、概況から、現在のロボットを取り巻く状況を改めて見ておこう。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。


顧客が求めるものはロボットではなくソリューション

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不二越のスポット溶接ロボット
 「国際ロボット展」は、一般社団法人日本ロボット工業会と日刊工業新聞社が主催するロボット専門の展示会だ。今回のテーマは「ロボットがつなぐ人に優しい社会」。人とロボットの共存・協働である。

 今は米中貿易摩擦などの不透明要素もあって設備投資は輸出も含めて一時的に冷え込んでいるが、出展者数は過去最大の637社。4日間の来場者数は14万人を超えた。人手不足による省人化需要拡大傾向、製造品質の安定化・高度化ニーズは今後も変わらないので自動化需要自体は底堅く、全体市場は今後も拡大していくと考えるのが妥当だ。

 国際ロボット展は2年に1度なので、会場をウロウロするだけでトレンドの変化がわかる。昔のロボット展は各社とも主にロボットの速度や繰り返し精度などの「機能」をアピールする展示が多かった。しかし今回は明らかに各ロボットの機能よりも具体的なアプリケーションを想定したソリューション展示、使い方それ自体をパッケージにした出展が増えた。

 背景には、ロボットをアピールする対象の業界自体が変化していることがある。ロボットは今でも自動車業界が主な主要ユーザーである。それが半導体搬送や組立など電機業界でも使われるようになった。そして今、食品・化粧品・医薬品などの、いわゆる3品業界への展開や、物流への展開が始まっている。ユーザー自体も、大企業から中小企業へと広がりつつある。ロボット自体が安価になり、既存の自動機よりもロボットを使うほうが安くなってしまうケースもあるからだ。

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「未来の生産現場」の自動化を提案するバイナスブース

 これまでのロボット業界が相手にしていた自動車業界などは、ユーザー側が生産技術部門を持っていて、自分たち自身でもロボットを活用できる技術力を持っている。だが今そこの需要はすでに満たされていて、これまで以上に飛躍的に増えるということはなかなか考え難い。

 そこで、人手不足と技術向上の後押しもあり、これまでロボットが活用されていない業界へのアピール、ということになるわけだが、こちらはこちらで、もともと人海戦術による作業を前提として設計されている現場が多く、また、自分たち自身でロボットや周辺機器をコーディネートし、組み合わせて使う技術力がない。

 そのため、現場ごとに異なるニーズを顧客以上に深いレベルで理解して工程を組み直して自動化、システム化できるシステム・インテグレーター(SIer)の需要が高まっているが、彼らもまた人手が足らない。高等専門学校(高専)やポリテク(職業能力開発センター)などが人材養成の場として期待されているが、人材はそんなに簡単に増えるわけではない。

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カワダロボティクス「NEXTAGE」

 そもそも顧客が欲しいものはロボットではなく、課題を解決してくれるソリューションである。できれば、買ってきてポンと置けばすぐ使えるようなものがいい。「ロボットは半完成品であって、そんなに簡単に使える道具ではない」というのが、これまでの業界内では当たり前の常識だったが、そういうことをいつまでも言い続けているようでは、結局のところ市場は広がらない……。こういったことが、ようやくコンセンサスになり始めた。

 その結果、最初からロボットを据え付ける架台やカメラ、各種センサーなどもすべてセットで、それなりのセッティングさえすれば短いリードタイムで立ち上げられる、パッケージとしてのロボットシステムの展示がだいぶ増えた、というわけだ。顧客の要望に、ようやくメーカーが応え始めた。

 どこまでパッケージ化を進めるべきかという問題は、要するにどの程度まで標準化するのが一番ニーズに応えられ、かつもうけられるかということなので、経営判断となる。おおむね、セルレベルまで、ある程度の標準化を行うのがメーカー、SIer、ユーザーそれぞれにとってベターだと考えている会社が多いように見えるので、その辺に着地するのかもしれない。




AIが「ロボットを使いこなす」技術を一般化

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エクサウィザーズによるロボット用AI「COREVERY」の展示

 もう1つ、目立ったのがAI活用関連だ。こちらは今の流行もあるだろうし、もちろん、ロボットの使い勝手を向上させる側面もある。たとえばタクトを上げるためのロボットアームの軌道の最適化は今は職人技で行われているが、それをAI技術で行ったり、はめ合わせが難しい高精度の組立作業を力覚センサからのデータを使って調整したり、ピッキングするワークの把持位置を検出するといった使い方だ。これまで属人的だった「ロボットを使いこなす」技術が、より標準化され、一般化されつつある。

 AIの活用の仕方自体も徐々に進化していて、人がより効率良くアノテーションを加えることで学習時間をより短縮するといった工夫を各社が行っている。熟練技術の数値化・自動化、すなわちロボットの知能化は、今後も進んでいく。また、人間にはできないレベルの作業を行うことも期待されている。



 筆者が気になったのは、米国のスタートアップ Realtime Roboticsのリアルタイム・モーションプランニング技術を使ったデモを行っていたブースが3つほどあったことだ。同社の技術を使うことでロボットはビジョンを使ってリアルタイムに干渉回避を行い、障害物を避けることができるようになる。不二越はこの技術を使ってロボットをより高密度に配置して協調動作をさせられるというデモを行っていた。ロボット同士が互いに軌道を先読みして、ぶつからない軌道を再生成しながら動作し続ける。



 またRealtime Robotics社に出資している三菱電機は、障害物が間に入っても滑らかに回避し作業を行い続けるデモを見せていた。ロボットを動かすことができる領域をカメラで常に見ることで、いちいち止まるのではなく、安全な軌道を絶えず生成しながら動き続けることができるのだ。ロボットと人による協働が進む中、こういった、生産性と安全性の双方を両立できるリアルタイムのモーションプランニングは今後どんどん使われるようになるに違いない。



 モーションプランニングといえば、物流分野でティーチレスのロボットコントローラーを展開するスタートアップのMUJINは、今回、前回にも増して大きなブースを構えて、初披露となるピースピッキングロボットと背の高い固定棚で使えるCTU(コンテナ搬送ユニット)との連携、デパレロボット(パレットからの荷下ろし)とAGV(無人搬送車)の連携などをデモしていた。少なくともブースは、もはやスタートアップの規模ではなかったし、ロボットコントローラーの会社という枠を超えていた。バラ積みピッキングソリューションのパッケージ化も行っていた。2年以下で投資回収が可能だという。



 また、ロボットが持つ機能を、より引き出すことも可能だ。不二越はロボットに新たなセンサーを追加するのではなく、既存のセンサー情報だけを用いて、ワークの微妙な違いを見分けるというデモを行っていた。ワークの重量・外観はまったく同じで、実際に持ってみても、人間ではまったく区別が付かない。だがわずかに重心バランスが異なっている。ロボットはその違いを把持してちょっと動かすだけで見極めて仕分ける。

 このような既存センサーの情報をより高度に活用することは今後さらに重要になると思う。ロボットの性能はハードウェアの上限で制約されるが、産業用ロボットの性能の上限はまだまだ上にある。それを引き出すことが、ソフトウェア、AI技術に求められる。そして単調な作業から高度な作業へとロボット活用は進んでいく。



「スマートファクトリー」化を支えるデジタルツイン技術



 将来を見据えて、これから徐々に進んでいこうとしている企業が多数出てきている領域が「スマートファクトリー」である。生産ラインの稼動データを取得し、稼動状況、生産量、品質の変化などを可視化する。そして必要に応じて工場全体で調整する。IoT、AI、ロボットなどがフルに活用される未来の工場だ。

 物理世界と同じ環境を再現する「デジタルツイン」、オフラインでのロボットプログラミングやシミュレーション技術、そして協働ロボット、またAGVやAMR(自律走行ロボット)などの移動台車とロボットアームを組み合わせた「モバイルマニピュレータ」など、ここを視野に入れた出展も当然多かった。

 安川電機によるデータ活用による自律分散型モノづくりの提案を大規模にデモしていた。作業進捗(しんちょく)全体をデジタルで把握して多品種変量生産に対応する。同社モーター工場に導入済みだという。



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左がバーチャル、右が実景。まさにデジタルツイン

 各工程の進捗や稼動状況をカメラやセンサーで捉え、工程間をアーム付きの自律搬送ロボットがつなぐといったかたちで、スマートファクトリー・ソリューションについては、方向性はほぼ各社とも似ている。だが各社ロボットメーカーも今はまだ「自社で試し始めた」といった状況のようだ。よって、現実的にはまだちょっと先の提案だと思うが、じわじわと始まっている。各ロボットメーカーのほか、工作機大手のDMG森精機の自律走行マニピュレータも注目されていた。



 いっぽう、今回のロボット展でSNSを中心に大いに注目を集めたのが日立キャピタル、日立システムズ、デンソーウェーブが共同開発したRPAと連動して定型書面にハンコを押し、冊子型書類を電子化するシステムである。デジタル世界の処理を実世界で実行しているシステムだ。なかなか紙を使った処理がなくならない現実のニーズに応えたソリューションである。2020年3月から月額サービスとして提供される。



【次ページ】注目集める協働ロボット、国内大手や海外勢の動向は

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