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  • 2020/05/27

台湾の庶民派スーパー「PX Mart」が中高年にもスマホ決済を普及できたワケ

連載:中国イノベーション事情

キャッシュレス決済の普及のカギを握る「スマホ決済」。コロナ禍で現金に対する衛生上の懸念もあることから、これを機にスマホ決済を始めた人も多いのではないだろうか。使い始めると便利だが、「使いこなすまでのハードルの高さ」がその普及を阻む最大の課題といえる。この課題をユニークな手法で解決したのが台湾の大手スーパー「全聯福利中心(PX Mart:ピーエックスマート)」だ。独自のスマホ決済を主要顧客の中高年層に浸透できた理由は、意外にも「人の介在」にあった。

ITジャーナリスト 牧野武文

ITジャーナリスト 牧野武文

消費者ビジネスの視点でIT技術を論じる記事を各種メディアに発表。近年は中国のIT技術に注目をしている。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『任天堂ノスタルジー』(角川新書)など。

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台北市ではあちこちにある「全聯福利中心(PX Mart)」。大型店からコンビニサイズのミニ店舗まで幅広い規模で展開している
(写真:筆者撮影)

キャッシュレス決済普及のカギ「スマホ決済」

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、衛生上の理由から現金に対して懸念の声が上がっている。5月4日に厚生労働省が発表した「新しい生活様式」にも「電子決済の利用」が含まれており、実際に現金決済の機会が減った人も多いのではないだろうか。

 MMD研究所が2019年12月26日~2020年1月5日の期間に行った「2020年1月スマートフォン決済利用動向調査」によると、スマホ決済を普段の支払いに使っている人は29.6%になっている。

 コロナ禍で現金決済が減ったことを考えると、2018年4月に経済産業省が公表した「キャッシュレス・ビジョン」に掲げられている「2025年までにキャッシュレス比率40%」はすでに達成できているのではないかと思われる。「キャッシュレス・ビジョン」の次の目標は、世界最高水準である80%を達成することだが、個人的にはスマホ決済の比率を高める目標も設定してほしかった。

 なぜなら、クレジットカードや電子マネーカードというのは、単なる現金の置き換えにすぎないからだ。スマホ決済であれば、アプリと組み合わせることで、モバイルEC、モバイルオーダー(店舗の外からメニューを事前注文)、クラウド決済(タクシーをアプリで呼んで、降りるだけで自動決済)など、さまざまな新サービスが展開できるようになる。

 そこに新たなプレイヤーが登場し、人々の消費スタイルが進化していく。中国のEC、小売業が強みを見せているのは、まさにスマホ決済を起点にしてさまざまなモバイルサービスが登場し、人々の消費を刺激しているからだ。

 日本ではすでに交通系ICカードのSuicaは、モバイルSuicaとしてアプリ化されており、また、多くのクレジットカードはApple Pay、Google Payなどに登録をしてスマホで決済をすることができる。今後は、このような「スマホ決済」の比率をどうやって上げていくかがキャッシュレス決済普及のカギ、ないしは日本の消費スタイルの進化のカギを握っていく。

主要顧客は中高年、台湾のスーパー「PX Mart」が挑んだスマホ決済

 ただし、スマホ決済の最大の課題は、使うためのハードルが高いことだ。いわゆる「スマホ決済」と呼ばれるものには、PayPayなどのQRコード方式と、クレジットカードなどをスマホに登録しNFC(近距離無線通信)を使ってタッチ決済をするものの大きく2種類がある。

 いずれもアプリをインストールしたり、銀行口座と連携させる設定には手間がかかる。決済の方法もQRコードのスキャン・提示やNFCなどさまざまあり、何度か試さないことには慣れていかない。若い世代は、好奇心やポイント還元のメリットから比較的ハードルが低いが、中高年層はどうしても使い慣れたクレジットカードに頼ることになりがちだ。

 ところが、中高年層が主要顧客である台湾のスーパーマーケット「全聯福利中心(PX Mart:ピーエックスマート)」では、全店舗で独自のスマホ決済を導入することに成功している。

 PX Martは、台北市を中心に約1000店舗を展開する大手スーパーチェーン。大型店からコンビニサイズのミニ店舗など幅広い規模で展開し、各店舗の徒歩20分圏内を合計すると国内人口の80%をカバーしている。低価格を売りにする庶民派スーパーで、同社によると、主要な顧客は「ママとおばあちゃん」というほど中高年層から支持をされている。

 しかし、経営には大きな課題があった。ECの進出だ。PChome、momo、ShoppeeなどのECの利用率が高まり、次第にPX Martの売上は圧迫され始めていた。

 店舗スーパーチェーンの活路は「新小売化」だろう。店舗に来店して買うことも、スマホから注文して宅配することもできるようにし、ECと同等の利便性を提供する必要がある。しかし、PX Martの多くの顧客は現金決済を基本にしていた。そこで、PX Martは2018年からキャッシュレス化に対応するところから始めた。キャッシュレス化にとどまらず、現在では“新しい販売方法”に挑戦するPX Martの改革をみていこう。
 

日本と似ている? 台湾のキャッシュレス事情

 台湾も、日本と同じく、スマホ決済の普及が遅れている国の1つだ。その理由は、現金だけでも不自由しない環境が構築できていることにある。

 日本のSuicaに相当する交通カード「悠遊カード」は、地下鉄やバスだけでなく、コンビニやスーパーでも利用できる。しかも、コンビニのレジでもチャージができるため、日常の少額決済は悠遊カードのみで済んでしまう。

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台湾版suica「悠遊カード」
(Photo/Getty Images)

 さらに、便利なのがセブン-イレブンに置いてあるibon(アイボン)と呼ばれる端末だ(他のコンビニにも同様の端末がある)。新幹線、鉄道、長距離バスなどのチケットは、ibonで空席を調べてそのままチケットを購入することができる。映画、観劇などのチケットも同様で、さらに住民票などの公的証明書も出力することが可能だ。

 このibonが便利なのは、支払いはコンビニのレジで行う点だ。もちろん、クレジットカードでも悠遊カードでも現金でも支払うことができる。つまり、現金しか支払い手段を持っていなくても、便利に暮らせるようになっている。これが、台湾のスマホ決済比率が上がらない原因の1つになっている。

 日本同様の現金だけでも不自由しない環境の中で、PX Martは中高年層にどうやってスマホ決済を普及させていったのだろうか。

【次ページ】まずはキャッシュレス慣れを

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