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  • 2020/11/02 掲載

ナイキに挑むオールバーズ(Allbirds)社、スニーカー市場に起きた「番狂わせ」とは

【連載】成功企業の「ビジネス針路」

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競争の激しいスニーカー市場へ参入後、わずか2年で100万足を売り上げた企業、それが「オールバーズ(Allbirds)」です。2020年1月には、同社の日本1号店が原宿にオープンし、休日は入店のための整理券が配布されるほどの人気となっています。ナイキやアディダスなど大手メーカーがひしめくスニーカー市場で、同社はなぜ一躍トップランナーの地位を確立することができたのか。同社の優れた差別化戦略を紹介します。

執筆:社内企業家 平塚隆介

執筆:社内企業家 平塚隆介

大手エネルギー会社勤務。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得後、給油所での個人向けカーリースを会社に提案し、初期投資2億円でゼロから1,500億円のマーケットを創出。その後も新規事業に携わり、現在はプロジェクトの責任者として黎明期にある国内での洋上風力発電事業に携わる。専門はビジネスモデル、事業戦略。500以上の事例をもとに、弱い企業が強い企業に打ち勝つための方法論を構築し、日々実戦で活用を行っている。

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創業からわずか2年で急成長を遂げた「オールバーズ(Allbirds)」。同社の成功要因を探るため、大手メーカー「ナイキ」と7つの観点で比較する(2社を比較した図を後ほど詳しく紹介します)
(Photo/Shutterstock/アフロ)


2年で100万足売り上げたオールバーズ社とは

 オールバーズは、ニュージーランドの元プロサッカー選手であるティム・ブラウン氏と、再生可能エネルギー分野の専門家であるジョーイ・ズウィリンガー氏によって、2016年にサンフランシスコで創業されました。

 同社は、ニュージーランド政府の支援を受けて開発した同国産のメリノウールのスニーカーなど、天然素材を使ったスニーカーの製造販売を行っています。同社のスニーカーは、ニューヨークタイムズ紙から「世界で最も快適なシューズ」と評されているほか、環境活動に熱心なことで知られる俳優のレオナルド・ディカプリオ氏も、同社のビジョンとスニーカーにほれ込み、出資しています。

 スニーカーと言えば、ナイキやアディダスといったブランド力の高い巨大企業が、デザイン性や機能性の高い商品を提供しています。最大手のナイキの売上高は4兆円を超え、年間に約8億足のシューズを販売しています。近年では、これらの大手メーカーも、再生プラスチックなど、サステナブル素材を利用したスニーカーの開発に力を入れています。

 しかしながら、オールバーズは、そのような大手メーカーがしのぎをけずるスニーカー市場にあって、創業からわずか2年間で100万足以上を売り上げました。英国や中国など海外へ進出するなど事業を拡大しており、ウォール・ストリート・ジャーナルなどによれば、現在の企業価値は約1,500億円に上ると報じられています。

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ナイキやアディダスなど、巨大企業がひしめくスニーカー市場で、オールバーズ(Allbirds)社は、いかに売上を伸ばしていったのか
(Photo/Getty Images)

成功要因:大手との7つの差別化のポイント

 なぜオールバーズは、巨大企業がしのぎをけずるスニーカー市場で、急速な成長を遂げることが出来たのでしょうか。その理由は、「天然素材を使った履き心地の良いスニーカー」という製品面の魅力だけではなく、徹底した大手メーカーとの差別化戦略にあります。

 大手メーカーとオールバーズの違いを以下の7つの観点から分析してみましょう。



(1)顧客ターゲット

 オールバーズのスニーカーは、バラク・オバマ前米大統領やグーグルの元共同創業者ラリーペイジなどのセレブ層に愛用されることで、一躍有名になりました。同社のスニーカーは、20~30代がメインターゲットですが、ミニマルなデザインのため、年齢、性別問わず幅広い層に支持されています。また、IT企業をはじめとして、ビジネスシーンでも人気となっています。

大手メーカーの場合は…
派手なロゴのあるカラフルなデザインのスニーカーが人気となっています。これらのスニーカーは特定の層をターゲットとしており、顧客層や利用シーンは限定されます。

(2)製品・サービス

 オールバーズのスニーカーには、ほぼすべての部分にリサイクル可能な天然素材が使われています。たとえば、足の甲を覆うアッパー部分にはメリノウールやユーカリのパルプから作られた素材が使用されているほか、靴底にあたるソール部分にはサトウキビ由来の素材、靴紐は廃プラ、靴箱にはリサイクル紙を使うなど、隅々までこだわって作られています。商品点数は絞り込み、顧客からの意見を基に、継続的かつ頻繁に製品改良に取り組んでいます。

大手メーカーの場合は…
メーカーロゴや新素材を捨てて、天然素材のみを使ったミニマルな製品に絞り込むことは困難です。また、シーズン毎に新製品を投入しており、継続的かつ頻繁な製品改良は困難でしょう。

(3)価格

 オールバーズのスニーカーは、大手メーカーより少し高めの価格帯(主力モデルは12,500円)ですが、天然素材にこだわっていること、また生産ロットが限られていることを考慮すると、かなりリーズナブルと言えます。一方で、同社は値引き販売を行っていません。

大手メーカーの場合は…
多くの資産を抱え、多額の広告・営業費用を投入していることに加え、小売店側の利益も必要なため、商品のマージン設定は高めになります。また、シーズン毎に新製品を投入するため、在庫処分のための割引セールが必要となります。

(4)販売チャネル

 オールバーズのスニーカーは直販チャネルのみで販売され、そのうち8割は自社サイトによるオンライン販売です。このため、流通在庫を最小限に抑え、ダイレクトに顧客の声を吸い上げることができます。加えて、世界で20以上の直営店舗を運営し、ブランド発信、フィッティングや顧客ニーズの収集を行っています。

大手メーカーの場合は…
日本で言うABCマートなどの小売店を通じた販売が約7割となっています。これらのチャネルでは、店頭や倉庫での在庫が膨らみがちなうえに、顧客ニーズの収集は困難です。

(5)プロモーション

 オールバーズは、「環境にやさしいサステナブルな原料を使ってより良い社会を作ること」をビジョンとして掲げ、紹介記事や口コミなどにより、ローコストでファンを増やしています。また、理由を問わず30日間は無料で返品することが出来きるほか、返品されたスニーカーの一部は慈善団体(Sales4Soul)に寄贈されています。

大手メーカーの場合は…
天然素材を声高にアピールすると自社の他の商品の否定に繋がる可能性があります。また、返品保証は、返品対応に対する店舗側の反発もあるため容易ではありません。

(6)自社の資産

 オールバーズは、直販のみであり、小売店向けの営業スタッフは不要です。また、商品数や販売チャネルがシンプルなため、管理コストは安くなり、流通在庫は少なくて済みます。定番商品のため廃棄ロスも限定的です。同社のスニーカーは韓国や中国などの提携工場によって生産され、ローコストなECシステムにより販売されます。これにより、原料費が高くても利益を上げることが出来ます。

大手メーカーの場合は…
多数の工場や研究所、物流センター、システム、スタッフを抱えています。商品や販売チャネルの絞り込みは、これらの資産が負債となってしまうため、容易ではありません。


(7)パートナー:新規パートナーを獲得

 オールバーズの製品開発は、原料を提供する現地人もパートナーとして加わり、カーボンフットプリント(製品ライフサイクルにおける二酸化炭素排出量)を削減するという共通の目標を持って行われます。また、開発した技術は一般にも公開されます。同社のこうした姿勢は、さらなるパートナーの拡大につながっています。

大手メーカーの場合は…
パートナーとの協業はクローズドな形で行われ、多大の時間と費用をかけて開発した技術を社外に提供することは、通常は困難です。


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次のページでは、「ナイキ」と「オールバーズ」を比較した図表を紹介します

【次ページ】なぜオールバーズ社は強いのか

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