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倉庫業界は成熟産業であり、かつ景気の影響を受けやすい業界である。B to Bがビジネスの中心であり、競争も激しいことから、価格の主導権を倉庫会社がとりにくい状況が続いている。新規顧客を開拓しようと思っても、地理的制約があり、倉庫の立地に無関係なエリアには進出しにくい。こうした難しい事情がある中で、業界中堅の「寺田倉庫」は、なぜ他社と差別化を図り成功することができたのか。その秘密を探る。
「モノ」から「モノの価値」を預かる事業へ
寺田倉庫は1950年にコメ倉庫として東京天王洲に創業し、かつてはほかの倉庫会社と同様、トランクルームや文書保管、運送、印刷などに事業を多角化してきた。ちなみに同社のトランクルーム事業は、関東運輸局から第1号の事業認定を受けたものである。
しかし、どれもが価格競争に陥り、苦戦を続けていた。そこで1975年から美術品・貴重品の保管を開始、1994年にはワインセラーも開始した。
創業以来、創業家による経営が続いていたが、2012年にまったくの異業種にいた中野善壽氏を代表取締役に招聘した。中野氏の前歴は、伊勢丹を経て、鈴屋の代表取締役専務など、倉庫業とは縁のないサービス業の経営者だった。
中野氏は勝ち目のない事業から撤退し、社員も14分の1に削減した。同時に、高級ワインや美術品・コレクションの保管を強化するなど、付加価値の高い事業に重心を移した。ワインや絵画、貴重品では、厳重な温度・湿度管理およびセキュリティ管理を行っている(ちなみにセキュリティは生体認証などによる10段階認証)。ソムリエや美術品を取り扱う専門スタッフも置き、2015年には、楽器専用保管サービスも開始した。
ワインは保管することが消費者の目的ではなく、おいしくなるまで寝かせて、「その後おいしく飲む」ことにこそ価値がある。すなわち、保管後の価値を上げるために、寺田倉庫は保管サービスを行っている。また、同社の倉庫が立ち並ぶ天王洲一帯を、アートギャラリーやレストラン、イベントなどを開催する観光スポットに変えた。
なお、中野氏は2020年6月に退任し、東方文化支援財団の代表理事になった。後任には創業家の寺田航平氏が就いている。
倉庫業界では画期的な新規事業を開始
こうした寺田倉庫だが、今回注目したいのは2012年から、B to C向けに提供を開始した「minikura(ミニクラ)」というサービスだ。
基本プランの「minikura HAKO」の場合、利用者は預けたい品を段ボールに入れて寺田倉庫に送り保管してもう。利用者は保管期間に応じて料金を支払う仕組みだ。利用者が送った段ボール(3辺合計120㎝)の保管料は、月額200円(2020年6月から250円)、箱の中身を取り出す際の費用は、預けて1年未満の場合は、850円(同1,000円)であるが、1年以上の場合は送料無料である。
次に始めたのが「minikura MONO」のサービスであった。「minikura MONO」の場合には、利用者が送った荷物を寺田倉庫側がいったん開封し、中味を1点ずつ撮影し、利用者専用ページにアップしてくれる。これにより、利用者はいつでも預けた荷物を専用ページから確認できる。月の保管料は250円(2020年6月から300円)であるが、1点単位での取り出しにも対応しており、利用者が必要な品が出てきたら送料800円で送ってくれる。
従来倉庫業では、「顧客の荷物は開封しない」というのが業界の常識であったが、寺田倉庫は、1品ずつ写真に撮り、顧客が何を預けているか明確にすると同時に、1品ごとの取り出しも可能にしたのである。これは倉庫業では、画期的なことであった。
こうしたサービスを始めると、顧客からひんぱんに取り出しの要求が出てくると想像されるが、実はその頻度は多くない。倉庫業は、物さえ動かさなければ費用はほとんど発生しない。預けた品物の多くは、実は動いていないのである。
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