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- 2020/10/27 掲載
人工知能が「漫画の神様」手塚治虫を再現できるのか? エンタメとテックが描く未来
手塚治虫の人工知能(AI)が描く漫画の裏側とは?
「2020年、もしも手塚治虫が生きていたら、どんな未来を描くだろう?」――、漫画の神様・手塚治虫氏の新作漫画を制作する「TEZUKA2020」が開始されたのは、2019年10月のこと。手塚治虫作品を学習したAIが物語の筋書きやキャラクターを生成し、その結果を人間が判断・分析して磨き上げ、クリエイター陣が実際に漫画化するという前代未聞のプロジェクトとして多くの注目や関心を集めた。その後、2020年2月に手塚治虫氏の31年ぶりの新作として「ぱいどん」が発表された。同プロジェクトの総合クリエイティブディレクターである手塚 眞氏は、このプロジェクト以前からAI技術をクリエイティブ分野に活用するというアイデアを持っていた。しかし、世界的な漫画家の仕事ぶりを身近で見てきた経験から「いきなり手塚治虫の漫画を書くというのは大胆すぎる。まだAIには漫画制作は無理だ」と感じていたという。ただ、「そこで止めてしまうのも面白くない。どうせ研究を進めるなら、最初から一番高い頂上を目指してどこまでできるかを試してみたくなった」とプロジェクト開始当時を振り返る。
このプロジェクトには、AI研究者からIT技術者、作画などを担当する制作陣などさまざまな立場のメンバーが参画した。その中で手塚氏は総合クリエイティブディレクターとして、プロジェクトメンバー間の通訳として調整役を務めたり、全員が一つの目標に向かって進むための方向性を決める役割を担ったという。
映画制作から自身のキャリアをスタートさせた同氏は「今回のプロジェクトでの役割は映画監督にも通じていた。映画監督の仕事の中には、脚本家や撮影スタッフ、俳優など、さまざまな立場の人たちの考え方や技術をまとめることがある」と語る。今回、AIが300件にもおよぶ物語のコンセプトを提案してきたという。その中にはまったく使えないひどいアイデアも混ざっていたが、「どれが優れているかを判断できるのは人間しかいない。クリエイティブな人間の目線が必要になった」と説明する。
「今回のプロジェクトでは実際の作画作業などは人手を多く介してきたので、AIが漫画を書いたという表現は正確ではない。ただ、今後さらに研究が進めばAIがそうした部分も全部担当することは不可能ではないと考えている」(手塚氏)
科学に興味を持つ子どもを育てるには?
続いて、松尾が五十嵐氏の活動内容や子供たちに接する上で心掛けている点などを尋ねた。「科学のお姉さん」として活動する五十嵐氏は、全国各地の子どもたちに向けた“サイエンスエンタメショー”の企画・運営や講師を務めている。商業施設や企業のイベントのみならず、時には道端などでもショーを開催するなど、より多くの子どもたちに科学の魅力を伝えるべく日々奮闘している。五十嵐氏のサイエンスショーの特徴として挙げられるのが、エンターテインメント要素として、実験中にヒップポップダンスを取り入れている点だ。「サイエンスショーを始めた当初は普通に実験していたが、立ち止まる人も多くなく、通り過ぎることもあった。商業施設やお祭りなど科学目的で来ていない人へ表現するときはダンスなどと絡めることで、多くの人が集まってくれるようになった」と五十嵐氏は説明する。
たとえば、ペットボトルに生クリームを入れて5分間程度振ると、その衝撃でタンパク質の膜がはがれて脂肪が固まってバターができるという実験を行っていた。しかし、5分間もかかってしまうと通り過ぎ去られてしまう。そこでヒップホップダンスを取り入れて踊りながら振ることで時間が1分半ほどに短縮できるとともに、多くの人が立ち止まって見てくれるようになったと振り返る。
五十嵐氏が科学の世界に目覚めたのは、幼いころに見た虹の実験がきっかけだという。「科学の面白さをどうすれば子どもたちに表現できるかを考えたとき、アカデミックな知識の部分と分かりやすく伝えるための表現の部分の両方が必要になると考えた」(五十嵐氏)。その両輪を回すために大学院に進学したり、東京大学大学院客員研究員やジャパンGEMSセンター特任研究員としても活動している。
近年、YouTubeなどの動画サイトでは、爆発などを含む刺激的な実験動画を多く見ることができる。五十嵐氏は、子どもたちの中にも「YouTubeで見たことがある」と言われることがあるが、その多くが実験結果を知っているだけで「なぜ爆発するのか」という部分の理解までには至っていないという。「実際に実験をしたり、自分で失敗したりすることなどを通して“なぜ、そうなるか”を理解したら、より科学との繋がりを感じることができると思う」と説明する。
また、過激化しがちな楽しみを追及したり、結果だけを知ったりというだけではなく、さらに一歩進んで「こうなる理由はなぜなのか」と考えるきっかけを作る役割を担っていきたいと同氏は語る。
【次ページ】鉄腕アトムとの共創? テクノロジーが変える未来予想図
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