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- 2020/12/01 掲載
コンビニは流通業の覇者の座を守り続けられるか? 対EC事業者の「秘策」とは
【連載】成功企業の「ビジネス針路」
コンビニのアマゾンエフェクト対抗策
アマゾンエフェクト(Amazon effect)という言葉がある。これは、インターネット通販サイトのアマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)の登場により、既存の流通業がマイナスの影響を受けることを示した言葉だ。アマゾンの本場アメリカでは、アマゾンエフェクトにより、収益下降が見込まれる関連銘柄として、「アマゾン恐怖銘柄指数」なるものが指定されているほどだ。アマゾンはその進化を止めず、2016年から「Amazon Go」(無人/レジ無しコンビニ)の実験を開始したほか、2017年にはアメリカの高級スーパー「ホールフーズ・マーケット」を買収し、ネット専業からリアル店舗への展開を始めた。また、2018年には一般消費者向けのサービスをスタートさせている。
アマゾンエフェクトはアメリカだけにとどまらず、日本でも既存の流通業者がアマゾンをはじめるとするネット専業者の影響を口にする機会も少なくない。
迎え撃つ流通事業者は、店舗を活用した消費者との「近さ」に着目し、「ラストワンマイル(消費者に届ける最後の配送区間)」物流の強化に活路を見出している。
消費者との「近さ」の観点から言えば、国内で5万店を超えるコンビニエンスストア(以下、コンビニ)は消費者にとってもっとも身近である。コンビニが優位に立つように映るが、果たしてこのままコンビニはラストワンマイルの覇者となるまで走り抜けていけるのだろうか。
いかにしてコンビニは流通業の覇者へと昇りつめたか
今、「近さ」という軸が出てきたが、「近さ」が消費者に提供する価値とは、買い物体験(UX)が短く済むこと、すなわち「時短」ニーズへの対応と言える。つまり、コンビニが提供する“利便性”を乱暴にもまとめるならば、「早い」ということに他ならないのだ。そこで、少し脱線になるが、この「時間」という視点で流通業の進化の過程を振り返ってみたい。
流通業界の近代化が図られる前、消費者が買い物をする主要な場所は、商店街などを中心としたパパママストア(家族経営の小規模商店)であった。
このことは、当時は業種(八百屋や魚屋など事業の種類、いわゆる「何を売るか」)によって流通業が分類されていたことを示している。消費者はさまざまな店舗を回らねば買い物が完結せず、さらに同じ業種の店舗でも、小型店ゆえに品揃えには限界があり、足りないものは他店に求めるという消費行動が主であったのだ。
必要なものを買い揃えるのに、「時間」をかけていくつかの店を巡り、その過程において、店主との会話を重ねたり、時に魚もさばいてもらったりと、買い物には「時間」を要していた時代と言える。
その後、高度成長もあり、日本の人口が大きく増えていく。そこで生まれたのが総合小売店(GMS:General merchandise store)を中心とした大型店であり、これは大規模な店舗にさまざまな商品を取りそろえた「セルフ型店舗」である。
GMSは、広々とした駐車場を完備することで大規模商圏にて遠方の消費者を集めることができる。また、消費者は複数店舗を巡る必要がなくワンストップで買い物が完結するほか、販売員の接客サービスを受けずに顧客自身で買い物が完結する、いわゆる「セルフ販売」ゆえに、買い物にかかる「時間」を短縮できた(もちろん、バイイングパワーを活用した商品価格の安さも特徴であった)。
ここから、流通業の戦いは業種競争から“業態競争”(売り方による分類、いわゆる「どう売るか」)に発展していく。
GMSは食品から住衣料まで幅広く品揃えしているものの、食品と住衣料では購買頻度が異なる。そこで台頭したのが購買頻度の高い商品、すなわち食品を中心とした品揃えに特化し、より小型フォーマットで中規模商圏をターゲットにした「食品スーパー」である。より消費者の近くで、日常使いという観点ではコンパクトな店舗フォーマットゆえに、買い物はさらに手短になった。
こうした“業態競争”の進化系とも言えるコンビニは、より小商圏、かつ品揃えのコンパクトさにより、一日に複数回足を運んでも良いほどの「時短」という顧客体験を提供し、成長してきた。
店舗が多数出店する中心地においては、まるで「自宅の冷蔵庫替わり」と言われるほどである。このようにコンビニはその消費者との「近さ」を武器に、最も顧客体験が短い時短サービスとして、「時間」競争の覇者へと昇り詰めていったのだ。
【次ページ】EC事業者に対抗、セブン-イレブンの「御用聞き」戦略とは
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