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  • 2021/01/07

野中郁次郎教授に聞く、コロナ禍で改めて見直される「人間中心の経営学」とは

野中 郁次郎教授×AI研究者 松田 雄馬氏

新型コロナウイルスによる感染症の大流行により、企業経営のあり方は根本から見直しを迫られている。先の見えない不確実性が高まる今、ビジネスパーソンが拠り所とすべき考え方とは何なのか。次々に生まれるデジタルテクノロジーは、どのように寄与できるのか。一橋大学 名誉教授 野中 郁次郎教授と、AI(人工知能)研究者であり企業経営や一橋大学での講師も担う松田 雄馬氏による二人の対談によって、これからの時代を模索する。

聞き手:編集部 山田 竜司、執筆:星 暁雄、写真:大参 久人

聞き手:編集部 山田 竜司、執筆:星 暁雄、写真:大参 久人

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松田 雄馬 氏(左)と野中 郁次郎 氏(右)

現代経営の危機を乗り越えるには

──コロナ禍の影響で企業経営もますます先が見えない時代です。

野中 郁次郎氏:(以下、野中氏)最近の論文(注1)の冒頭に書きましたが、一昨年(2019年)7月にスコットランドのエディンバラで国際会議「新啓蒙会議」が開催されて呼ばれて行きました。まず、その話をしましょう。

注1:野中 郁次郎(2020)「ヒューマナイジング・ストラテジー」一橋大学イノベーション研究センター編, 『一橋ビジネスレビュー』 東洋経済新報社, 2020年SPR. 67巻4号.

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野中 郁次郎 氏

一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授、日本学士院会員。知識経営の提唱者。2002年に紫綬褒章受章。2017年、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールから同大学最高賞の生涯功績賞を史上5人目として授与された。

 この会議は、「ダイナミック・ケイパビリティ(注2)」のコンセプトでいま売れているカリフォルニア大学のデイヴィッド・ティースを中心に、彼の仲間でイギリスの著名なエコノミストのジョン・ケイ、それから最近人気の歴史学者ニーアル・ファーガソンが組んで主催した会議を、アダム・スミスの旧宅でやったわけです。

注2:変化に対応できる自己変革能力を指す言葉

会議の模様

 アダム・スミスは『国富論』が一般に知られているわけですけど、その前に『道徳感情論』という本を書いています。本の中で彼はシンパシー(同感)という言葉を使っているんですけども、ある種の倫理が成立した上で市場経済があるんだと。ところが市場経済が過剰に行きすぎて、企業利益、ROE(自己資本利益率)経営、株主資本主義のほうへ向かってしまい、バランスを崩している。

 アダム・スミスの『道徳感情論』は(18世紀当時の)Enlightenment(啓発)、啓蒙主義の時代において、道徳観に基づく社会秩序の維持について説いた処女作でした。今の時代も、これまでの行き過ぎた株主至上主義を反省し、利他と利益のバランスを取るような新しい啓蒙主義の発信が必要じゃないか。それがこの会議(The New Enlightenment Conference)の主旨だったんですね。そういう意味でわざわざアダム・スミスの旧宅でやったわけですよ。

新たな戦略論、ダイナミック・ケイパビリティ

野中氏:この会議の翌日に、ティースのダイナミック・ケイパビリティ論の討論がありました。学者、経営者、政治家も一部来て、オープンイノベーション論を提唱したヘンリー・チェスブローの司会でやりました。ティース、ヘンリー、僕らはバークレー派で、ざっくばらんに言うと、マイケル・ポーター(の戦略論)をいかに倒すかということなんですよ(笑)。

 僕は「ティース、お前のやっているダイナミック・ケイパビリティ論は、いわゆる市場構造分析、経済ベースで最初に理論ありきの風潮に反抗しているんだ」と言いました。

 経済学ベースの戦略論はもう機能しないということで、我々はその反抗勢力なんだ。市場の構造、戦略、パフォーマンスから演繹的に考える戦略は安定的な環境では機能したんだけど、絶えず変化するダイナミックな環境ではちょっと違うんじゃないか。もっと人間的、ダイナミックなファクターがいる。

松田 雄馬氏(以下、松田氏):まさに現代を象徴する出来事だと思います。技術的観点で世界を見たときにも、今、同じ議論が巻き起こっています。同じ議論というのは「もっと人間的なファクター」が必要であるということです。

 日本国内ではあまり話題として取り上げられることが多くありませんが、昨今、世界ではGAFAと呼ばれる巨大IT企業に対する批判が大きくなっています。

 よく話題になるのは、グーグルやフェイスブックなどの一企業が個人情報を独占することによるリスクの高さですが、事の深刻さはそれだけではありません。グーグルの検索システムそのものが、人間が本来持っている創造性を阻害しているという批判があります。

 偏った見方で世界を見てしまうというフィルターバブル問題について指摘したイーライ・パリサー氏は、未知の世界を探検するような創造的な空間であった黎明期のインターネットが、グーグルの登場によって、「検索すれば答えを示してくれる(だから自分で探したり考える必要はない)」創造性のない世界になったと指摘します。

 同様の指摘は、『グーグルが消える日』を出版して話題になったジョージ・ギルダーも指摘しており、彼は、グーグルの作った世界を「無味乾燥な決定論的発想」であり「人間の意識や創造性の入る余地はない」と強調しています。

 人間性に関する問題は今、世界の識者が注目し、解決を迫られている問題ではないかと思います。まさにそうした「人間」を中心とした戦略論を、野中先生は世界に先んじて研究してきたものと理解しています。

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松田 雄馬 氏
1982年生まれ、大阪出身。博士(工学)。京都大学大学院修了。NEC中央研究所員としてのMITメディアラボ・ハチソン香港・東京大学との共同研究を経て、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトにおける基礎研究・社会実装で博士号取得。独立して合同会社アイキュベータを設立、現在、共同代表。一橋大学大学院非常勤講師。AI/IoTを中心に研究開発と情報発信を行う。

【次ページ】コロナ禍が突きつける「人間とはなにか」

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