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  • 2020/12/02

モデルナとはいかなる企業か? ワクチン開発競争が示す、製薬業界の大転換

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発が進んできた。中でも米国のバイオ技術企業の「モデルナ(Moderna)」が開発したワクチンは、臨床試験で高い有効性を示し、17日にもFDA(米国食品医薬品局)の承認を受けられる見通しになってきた。有効性・安全性・供給体制などを注視する必要はあるものの、モデルナのワクチンはコロナ禍を収束させる期待を世界中から集めている状況だ。今回はこのモデルナについて、スペインの医療系ベンチャーに所属する著者が解説する。

在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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新型コロナウイルスでその力を世界に示したモデルナ。写真はケンブリッジ本社の様子
(写真:AFP/アフロ)

モデルナとはいかなる企業か?最大規模のIPOを果たしたワケ

 モデルナとは、これまで有効な対処法がなかった病気に対するmRNAを活用した新薬開発を強みとしてきた企業だ。同社は2019年の時点で約830名の従業員を有し、約半数は修士や博士を取得している。本社は米国マサチューセッツ州にあり、2016年には自社でワクチンを内製する工場を建設した。

 モデルナの共同創業者はハーバード大学で幹細胞の研究を行っていたデリック・ロッシ(Derrick Rossi)氏。京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を受けたiPS細胞の研究をもとに、ワクチンとしてより安全で効率的な手法を探った結果が、mRNAの成果に至ったと言われる。この技術を商用化するため、Flagship Ventures(現Flagship Pioneering)から投資を受け、2010年にモデルナの創業に至った。

 臨床試験を実施しているワクチンには、ジカウイルス感染症、RSウイルス感染症、CMV(サイトメガロウイルス感染症)などが含まれるが、実は現時点で承認された医薬品はない。

 それでもモデルナは、mRNAという新技術に着目した大手製薬会社との共同開発を多く進めている。たとえば、がんワクチンについては、1億2500万ドルを投資したメルク社と、利益分配する提携を行った。他にもアストラゼネカやVertex社と共同開発を行い、3億ドル以上に達する研究開発費の支払いを受けている。

 投資家からの期待も大きく、20億ドル以上の資金を調達した後、2018年にIPO(新規株式公開)を行った。このIPOは、当時、バイオテクノロジー企業として最大規模だったと報じられている。さらに、20ドル前後だった株価も、コロナ禍によって注目を浴び、2020年11月のワクチン開発報道を受けて、その株価は100ドル以上まで上げてきている。

 これだけ株価が上昇しているのは、新型コロナウイルス向けのワクチンが業績に大きく影響を与えることが予想されているからだ。ワクチン接種1回あたりの費用が30ドルと仮定し、1年で8億回分のワクチンを販売したとすれば、240億ドルの売り上げに達する。毎年、製造を続ければ、売り上げは継続して発生する計算だ。

 Market Study Reportの調査によると、mRNAを活用したワクチンや治療法の市場規模は、2019年の18億7420万ドルから年率34.7%で急速に拡大し、2025年には61億6630万ドルに達すると予測された。中でもモデルナは市場を牽引する存在として認識されている。

 モデルナは、研究開発に投資している段階なので、もし新型コロナのワクチンの開発が成功すれば財務状況が一変することになる。2020年10月の発表では、1億5,700万ドルの売り上げに対し、2億3,300万ドルの損失を出していた。うまくいけば、これまでの累積してきた研究開発に対する費用を回収できる期待がなされる。

 同社の予測では、2021年に5億~10億回分のワクチンが配布される見込みとなっている。ここには、米国への1億回分や、欧州の8000万~1億6000万回分が含まれる。また、日本に対しては、政府と武田薬品工業が協力し、5000万回分の配布が計画されている。その価格や配布方法については、国際的な議論が行われている最中だ。WHO(世界保険機関)が推進する「COVAX」という取り組みでは、全世界が公平にワクチンを供給されるよう、計画が進められているという。

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モデルナの研究開発及び供給体制(次ページで詳細を解説します)

遺伝子技術によってワクチンの早期開発が促進

 そのモデルナが2020年11月、新型コロナウイルス感染症COVID-19に対するワクチンについて、94.5%の有効性が確認されたと発表した。正式な論文が査読を経て受理されていない段階であり、その有効性や安全性が完全には担保されていない段階ではあるが、コロナ禍を収束に向かわせる大きな一歩として期待が高まった。FDA(米国食品医薬品局)をはじめ、各国が緊急認可申請を進め、大規模な配布へ向かう流れとなっている。

 モデルナと同時期に、米ファイザーと独ビオンテックが開発するワクチンも95%の有効性が確認されたと発表している。一般的なワクチン開発には10~15年が要すると言われる中、異例の開発競争が繰り広げられてきた。モデルナとファイザーのワクチンに共通するのはmRNA(メッセンジャーRNA)という手法を用いている点だ。この手法は、これまでワクチンとして使用された例がなく、今回、新型コロナ向けに承認されれば、初めてのケースとなる。

 人の細胞内ではDNAの遺伝情報をもとにタンパク質が生産され、タンパク質が生命に必要なあらゆる活動を行っている。mRNAは、DNAの遺伝情報をコピーし、その遺伝情報に従ってタンパク質を作るよう指示する役割を担う。新型コロナの遺伝情報を持ったmRNAワクチンは、無害な形でウイルスのタンパク質を体内に作らせる。人体では、そのウイルスを攻撃する免疫細胞が活性化されるため、この免疫反応により、新型コロナに対する抗体が獲得できる流れだ。

 従来のワクチンは、弱められたウイルスのタンパク質を外から投与するのに対し、mRNAワクチンの場合、ヒトの細胞をワクチン工場のように働かせ、体内でウイルスのタンパク質を生成するという違いがある。 モデルナやファイザーが新型コロナのワクチンを早く開発できたところに、このmRNAワクチンの特徴が現れている。mRNAワクチンは、ウイルスの遺伝情報さえ分かれば、その仕組み自体は、どの病気にも対応可能なのだ。新型コロナの遺伝情報は、2020年1月から継続に解析されており、mRNAワクチン開発に活用された。

 mRNAワクチンの利点として、従来のワクチンよりも構造が単純であるため、製造が容易な点が挙げられる。小規模な設備であっても素早く製造できるため、世界全体に配布する大量生産にも有利に働く。

【次ページ】モデルナとファイザーのワクチンの違い、日本での動きは?

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