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  • 2021/01/04

【実例】運送会社が「システム開発」に挑戦するとどうなる?得られたものは?

連載:「日本の物流現場から」

PCが苦手な従業員が多く、業務のIT化も遅れているというイメージを、運送会社に持つ人は少なくないだろう。だが、中には自らシステムを開発し、販売する運送会社も存在する。なぜ、畑違いのシステム開発に取り組むのか。中小運送会社でありながら、システム開発を行い存在感を発揮している2社を取材。運送会社がシステム開発にチャレンジした背景や、そのメリットを考えていこう。

物流・ITライター 坂田 良平

物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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必要に駆られて自社開発したシステムが、大きな財産となった
(Photo/Getty Images)


会社とトラックドライバーを、コンプラ違反から守りたい

 トラックドライバーの労働時間は、厳しく規定されている。すべての労働者に適用される労働基準法に加え、改善基準告示と呼ばれる、トラックドライバーならではの規定が存在するからである。

 図表に改善基準告示を始めとするトラックドライバーが守らなければならない労務規定のうち、代表的なものを挙げておく。見てのとおり、これはとても複雑だ。運送業に限らず、そもそも労働時間というのは、計画通りに行うことができるとは限らない。トラックドライバーの場合、現場でのアクシデントなどはもちろん、渋滞にはまっただけで、いともたやすく計画がずれてしまう。

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トラックドライバーが守らなければならない労務コンプライアンスの代表例

 改善基準告示は、ルールを理解することも、ルールを順守することも、容易いことではない、ということだ。

 そこで、トラックドライバーの労働時間を管理し、また改善基準告示に抵触する危惧がある場合には警告を発することでコンプライアンスを守るシステム、「乗務員時計」を菱木運送(千葉県八街市)が開発した。

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『乗務員時計』は、今後、話題のロボット点呼と連携することで、運送会社のコンプライアンス遵守に、さらに貢献することが期待される

 『乗務員時計』の開発に着手したのは、14~15年前にさかのぼる。菱木運送 菱木博一社長の苦い経験が『乗務員時計』開発のきっかけであったと言う。

「ある時、労働基準監督署の監査がありました。もともと私は、コンプライアンスについては、しっかり守っているつもりではあったのですが、それでも『本当にこれで守れているのか?』という多少の不安はないわけではありませんでした。そこで、当時最も改善基準告示順守に不安があった、長距離運行を行っているドライバーの運転日報を診てもらったのです」(菱木社長)

 労働基準監督署の担当者は、出されて運転日報をチェックした後、このように言ったそうだ。

「惜しいですね。たった数分ですが、足りないです。コンプライアンスを守ることができていませんね」

 その数日後、今度は陸運局の監査が入った。けげんに思った菱木社長が陸運局の担当者に、立て続けに監査が入った理由を問うたところ、労働基準監督署からの通報があったと言う。事情を説明する菱木社長に、陸運局の担当者は、苦笑いしながら言ったそうだ。

「自分から見せてしまったのですか……」

 菱木社長は、創業者である父の跡を継いだ二代目である。会社を健全に継続させることは、二代目の責務であると考えている。だからこそ、改善基準告示に限らず、コンプライアンスの順守には、人一倍、注意していたつもりではあった。

 だが、結果として改善基準告示を守り切ることはできなかった。改善基準告示は、読み解くだけでも難解だし、また社長ひとりで守ることができるものではない。トラックドライバーたちの配送予定を管理する配車マンはもちろん、トラックドライバー1人ひとりの協力がなければ、改善基準告示を守ることはできないのだが、そのハードルは極めて高い。

 もうひとつ、菱木社長が痛感したことがあった。運送会社は、立場上、「当社はコンプライアンスを守ることができていますか?」と相談すらできないのだ。労働基準監督署の態度と行動は、「守れなければアウト」を貫いている。

「改善基準告示を守るためには、仕組みでしっかりと管理するしかない」

 だから、菱木社長は、『乗務員時計』の開発に着手したのだ。

「理想の運送」を実現するために、配車システムが必要だった

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聖亘トランスネットワークの山田裕社長

 同じくシステム開発を行っている会社としてもう1社、聖亘(せいこう)トランスネットワーク(神奈川県平塚市)の例を挙げよう。同社は、私が独立起業し、現在の活動を開始する前に働いていた会社である。配車を行う配車機能と、トラックの運行状況を管理する動態管理機能を備えたシステム「トランスサポーター」を提供している。

 聖亘トランスネットワークが「トランスサポーター」を開発し始めたのは、2008年のことである。聖亘トランスネットワーク 山田 裕社長は、中堅の運送会社で配車業務を担当していた。一念発起し、聖亘トランスネットワークを起業したのだ。

「もともと、ノンアセットの運送会社(※トラックを持たない運送会社)を目指し、起業しました。そのため、トラックの運行状態を管理する仕組みが必要だと考えたのが、『トランスサポーター』開発のきっかけでした」(山田社長)

 自分の理想とする運送ビジネスを実現するための道具として、システム開発に思い至ったのだ。

 配車業務は、運送会社の売上を確定し、利益を確保するための大切な仕事である。だから、多くの運送会社では配車業務をベテランの元ドライバーに委ねている。

 積込先/配送先の事情を知り、荷物の取り扱いにも明るく、かつどのような順番で積込先/配送先を巡るのが、最も効率が良いのか?といったことを総合的に考え、トラックの配送スケジュールを組み上げるためには、熟練の経験と勘が必要だからだ。

 だが、熟練の経験と勘が必要であるということは、取りも直さず、配車業務が属人化しやすいことを示す。極端な例ではあるが、私は配車担当者が急死したため配車業務が滞り、大変な苦労をした運送会社を知っている。

 配車システムは、配車業務の属人化を回避し、標準化を促す役割を持っている。

 次ページからは、筆者自身の経験も踏まえ、システム開発が運送会社にどのような恩恵をもたらすのかを考えていきたい。

【次ページ】システムを生み出した運送会社が得たものとは?

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