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  • 2021/03/09 掲載

野中郁次郎教授に聞くイノベーション論、「楽しいデザイン思考」ではダメなワケ

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日本の実践知の生き方がグローバルでどういう意味があるのか。GAFAに負けないイノベーションを起こすために必要なことは何か。一橋大学 名誉教授 野中 郁次郎氏と、人工知能研究者であり企業経営や一橋大学での講師も担う松田 雄馬氏の二人が、デザイン思考などの手法を引き合いに出しながら「日本でイノベーションを起こす方法」を語った。

取材、執筆:星 暁雄、構成:編集部 山田 竜司、写真:大参 久人

取材、執筆:星 暁雄、構成:編集部 山田 竜司、写真:大参 久人

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野中 郁次郎 氏
一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授、日本学士院会員。知識経営の提唱者。2002年に紫綬褒章受章。2017年、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールから同大学最高賞の生涯功績賞を史上5人目として授与された。



日本からGAFAを上回る企業は登場するか

──松田さんにお聞きしたいのですが、いまの日本企業は物量、企業価値、投資金額などで圧倒的にGAFAに負けている。そこで違う路線で共存できるのか。それとも物量を目指さなければいけないのか。そこをどのようにお考えでしょうか。

松田 雄馬氏(以下、松田氏):日本からGAFAや中国のIT企業を越えるような世界的なIT企業が出現する可能性は、十分にあると僕は思っていますよ。

 彼らの取り組みは、黎明期のインターネットを誰にとってもアクセスしやすい世界にした、まさに、現代のデジタル世界そのものを創造したと表現してよく、便利で豊かな情報社会に私たちを誘いました。しかし彼らの作る世界が完全かというと、そうではない。日本企業が持っていたもので、彼らが持っていないもの、ここから逆算していけばひっくり返せる可能性は十分にあります。

 分かりやすい例でいうと、グーグル(Google)は非常に優れた検索エンジンを持っている。では、人々が「検索したい」という思いがどこから来るのか。つまり、新しい「知」を手に入れることを欲する本能とは何か。そこを突破する何かがあれば、Googleの世界はひっくり返ってしまう。

 もちろん、グーグルは手を打っていて、自分たちに対抗しようとするところを企業買収してしまう帝国主義的な思想を持っている。正面から戦うのとはまた違う戦い方が必要だと思います。

 イトーヨーカドーが中国に進出したときに「文化を作った」事例を紹介しましょう。かつての中国では店舗にお客さんが来ても「いらっしゃいませ」と言う文化はありませんでした。むしろ、従業員が偉そうにしていることのほうが当然で、誰も、それについて違和感を感じていませんでした。そうした文化圏に進出したイトーヨーカドーの日本人マネージャーは、「いらっしゃいませ」と言う日本文化を教えました。

 そうしたら、中国現地の従業員が次々に辞めていってしまった。途方に暮れた日本人マネージャーは、従業員の皆さんを集めたうえで、頭ごなしに言うことを聞かせるのではなく、腹を割って話すことにしました。そして、自分の想いを熱く語ったところ、従業員は、あいさつの必要性は理解できる一方で、それを押し付ける姿勢に問題があるという心の内を話だしました。

 そこで、日本人マネージャーがその姿勢について反省を示し、「本当に申し訳ない」という謝罪の言葉を述べたところ、拍手が起きたのです。そこで、日本人マネージャーと従業員との距離は急速に縮まり、最後には、皆さんで元気よく「いらっしゃいませ」と言うんだ、というぐらいの機運が高まりました。

 それからというもの、イトーヨーカドーだけでなく、お客さまをあいさつで迎え入れるという文化が中国全土に広がっていったように感じます。今や、中国の街中を歩いていると「いらっしゃいませ」と大きな声で練習している人たちがそこらじゅうにいる。それぐらい当たり前になったと。

 先ほど言っていたGAFAのプラットフォームを崩せるかというと、そう簡単ではないかもしれない。しかし、文化を作ってしまうということについては、実は日本人は得意とするところです。世界的な文化を作る役割を、日本は担えるかもしれません。AIの使いどころにしても、今まで世界が注目していなかった日本企業ならではの使い方を提案できるはずです。

 メルカリの例も参考になります。彼らの会社がなぜ大きくなったか。メルカリの創業者は世界を旅している際、いろいろなものが捨てられていくのを目にして「もったいない」と感じたといいます。「もったいない」は日本にしかない概念で、そこから来る循環型社会を作りたいというところで、フリーマーケットの仕組みをバーチャルで創ってここまで発展した。

 「もったいない」も「いらっしゃいませ」も日本の概念ですが、こうしたいろんな文化がこれからITの世界に入っていくのではないでしょうか。

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松田 雄馬 氏
1982年生まれ、大阪出身。博士(工学)。京都大学大学院修了。NEC中央研究所員としてのMITメディアラボ・ハチソン香港・東京大学との共同研究を経て、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトにおける基礎研究・社会実装で博士号取得。独立して合同会社アイキュベータを設立、現在、共同代表。一橋大学大学院非常勤講師。AI/IoTを中心に研究開発と情報発信を行う。

スパイラルを回し、組織に知恵を蓄積する

野中 郁次郎氏(以下、野中氏):重要な話です。これまでの話だと、「知識創造企業」では情報から知識。「ワイズカンパニー」では知識から知恵へというメッセージを出しました。暗黙知と形式知、それに加えてもう1つ暗黙知と形式知の相互作用を絶えずサポートするフロネシス=実践知。この三位一体がキーになるわけですね。

 実践知のリーダーシップのあり方は、この図のように、SECIスパイラルをダイナミックに回していくのがキーなんですね。状況に応じてダイナミックに、アナログも、デジタルもスパイラルに上昇していくのが実践知。実践知はリーダーシップですが、その条件が6つある。

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SECIスパイラル
(出典:ワイズカンパニー)

 1番目は、何がよい目的かを追求する。2番目に、現実を直観する。分析するにしてもまず直観する。3番目に「場」を作る。4番目に、直観の本質は、やっぱり「物語る」こと。そして5番目にそれをやり抜く。そして6番目に実践知を自律分散する、育てる、共有する、部下に成功体験をさせる。

 この6つが実践知なんですよ。この実践知が駆動して、SECIモデルを無限にスパイラル運動させていくモデルを「ワイズカンパニー」で新たに提示しました。

【次ページ】忖度せず、真剣勝負をする

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