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- 2021/03/23 掲載
DTx(デジタルセラピューティクス)とは何か。デジタル治療の市場、サービス、課題は
DTx(デジタルセラピューティクス)とは何か
DTxの定義はまだ1つに定まっていないが、「医師の管理下で患者自身が使用する治療目的のプログラムであり、疾病の予防、診断・治療などの医療行為をデジタル技術を用いて支援、または実施するソフトウェア」(松田氏)として、本稿では説明していく。もう少しかみ砕くと、スマートフォン(スマホ)やタブレット端末に搭載されたソフトウェアを活用して、疾患の予防や管理、治療を行うシステム全般と言える。日本では「治療用アプリ」と呼ばれることもある。
人の健康に関連するスマホ向けアプリというと「歩数計測」や「ダイエット・食事記録」「服薬管理」などの機能を備えているものがイメージされやすいが、DTxは、それらとは明確に区別されている。一部のDTxは医療行為に相当するものも含まれているため、医薬品医療機器法(薬機法)など各国の規制当局から承認されたものが該当する。
松田氏は「生活者が自由に使えるものではなく、科学的な根拠(エビデンス)に基づいた臨床的な検証などを踏まえて、医師の管理下で処方される治療支援プログラム」と説明する。先行する米国などで開発中や承認されたDTxは、神経・精神領域や生活習慣病を対象としているものが多く、後述するが「糖尿病患者向けアプリ」「ADHD患者向けアプリ」などがその一例だ。
DTxに近しい用語としては「Digital medicine」がある。Digital medicineとしては、これまでの医薬品による治療と異なってソフトウェアの使用を通じて生活習慣を変容させることによる治療効果を期待する治療を基盤とする「デジタル医療」や、2017年に米国FDAで承認された抗精神病薬「Abilify」の錠剤に極小センサーを組み込んだ「Abilify MyCite(エビリファイマイサイト)」といった「デジタル医薬品」などが含まれる。
DTxが生まれた背景と、期待される役割
DTxは、2017年に設立されたデジタルへルス分野の業界団体「Digital Therapeutics Alliance」が提唱したことが始まりとされている。日本では2018年の厚生労働省「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」において取り上げられた。DTxは「スマートフォンの登場・普及」「医療情報のデジタル化」といった時代の流れを受けて生まれた。デジタル化が進むことで、情報を集約してより価値のある医療サービスの提供が可能になってきたのである。
DTxに期待されることの1つが「医療の適正化」だ。世界中で医療費の高騰が問題視される中、これまでの医療サービスが支払い金額に対して適正な品質であるか疑問が呈されている。デジタル化によって業務の効率化が進む中、「医師や患者にとって質の高いサービスを提供する道具の1つ」として位置付けられつつあるのだ。
DTx活用によるメリット・デメリット
DTxを活用することで、どのようなメリットがあるだろうか。提供側のメリットとしては「従来の医薬品と比べて、企画開発から提供開始までの期間が短く、投資コストを低く抑えられる」点が挙げられる。
通常の医薬品開発では、創薬探索から実際に患者が使用できるまでに、時間的にも金銭的にも膨大なコストがかかる「ドラッグ・ラグ」(新薬承認の遅延)という課題がある。デジタル化されたDTxではそうした物理的な制約がかからないため、従来の医薬品の代替や補完するものを短期間でより低コストで提供可能になる。
その結果、患者側も「安い治療費で、従来の医薬品を補完する治療を受ける」ことができるようになり、結果的に医療費の高騰を防ぐことにもつながる。
しかし、「物理的ではない新しい治療方法である」点は逆にDTx活用のデメリットにもなり得る。物理的な新薬ができた場合、万人に使えるものとして医療行為は受け入れやすい。ただ、デジタルツールの場合、患者側でスマホを保有する必要があったり、ITリテラシーに依存してしまうことがある。また、服薬・治療状況を誰がどのように管理するのかという新しい問題が出てくる。
医師の管理下での活用が前提となるDTxでは、医師が処方しなければ患者は利用できない。医師側のマインドとして「通常の治療方法と代替して使った方がいいのか」「自分の患者に処方してもちゃんと使ってもらえるのか」という懸念点もある。松田氏は「医療の現場でDTxがどのように受け止められるのかが不透明な部分もあり、市場形成を妨げる壁になる可能性もある」と指摘する。
【次ページ】国内外のDTx関連製品・サービス、市場予測は
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