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  • 2021/04/28 掲載

デジタル庁は「人財」が揃うのか? 成否を占う「リボルビングドア」の仕組み構築

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行政のデジタル化を図る菅内閣の重要政策として、デジタル庁が2021年9月1日に発足する予定となっている。縦割りが目立つ行政をITの活用によって効率化すると標ぼうしており、具体的にはマイナンバーの普及促進、国と自治体のシステム統一化、行政手続きのオンライン化、コロナ禍で変化が求められる医療や教育分野におけるITによる革新など、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実行が想定されている。一方で、それを行う人材をどのようにそろえるのかは、はっきりしていない状況だ。デジタル庁の取り組みについて、人材登用の観点から、米国が実施している施策を交えて解説する。

執筆:友永 慎哉

執筆:友永 慎哉

製造業向け基幹系システムの開発を経験後、企業ITの編集、ライター業に従事。ファイナンス、サプライチェーンなど、企業経営の知識を軸にした執筆に強みを持つ。インダストリー4.0など新たな技術による製造業の世界的な変革や、Systems of Records(SoR)からSystems of Engagement(SoE)への移行、情報システムのクラウドシフトなどに注目する。GAFAなど巨大IT企業が金融、流通小売り、サービスといった既存の枠組みを塗り替えるなど、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。

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参院予算委で答弁する、平井卓也デジタル改革
(写真:日刊現代/アフロ)

デジタル庁発足で期待される「リボルビングドア」

 デジタル改革相の平井卓也氏は4月6日の記者会見で、デジタル庁の発足に当たり民間の人材を4月に35人採用すると発表した。

 主に、技術者の採用を予定しており、政府情報システムの統合、自治体システムの標準化などのプロジェクトごとに募集。4月12日には、40倍という狭き門をくぐり抜けた民間採用の30人の職員が辞令を受け取り、平井氏が「やりがいはあるが簡単にできることではない。皆さんと乗り越えていきたい」とエールを送った。

 500人規模とされるデジタル庁の人員構成は、上層部にあたるデジタル相は政治家が就き、デジタル監は事務次官相当もしくは民間人の起用を想定している。

 さらに、局長級・課長級には民間から100人ほどの採用を予定する。当初は非常勤と兼業のスタートアップの技術者を中心にし、本格始動後は大手を含めた民間から常勤の幹部を招へいする考えだ。

 この人材活用において注目されているのが、回転扉を意味する「リボルビングドア」という考え方である。リボルビングドアとは、官公庁と民間企業との間で人材が流動的に行き来する仕組みを指す。

 現状の政府や自治体の情報システムの多くは大手ITベンダーが構築してきたという経緯もあり、デジタル庁にも大手ITベンダーの参加が不可欠になるとの意見が出ている。

 官民で人材が流動することで、民間が持つ新しい技術を官に取り入れる効果がある。一方で、民側の技術者にとっても、国の情報システム構築にかかわることでキャリアとして大きなステップになる。

 リボルビングドアの取り組みを以前から進めている米国では、軍事分野も含めた国家の取り組みに関わることが、大きなステップアップにつながっているという。

リボルビングドアで成功させた米国PIFの取り組み

 各分野のデジタルによる革新のために、米国で組織されているリボルビングドアを実践する組織はPIF(大統領イノベーションフェローズ)、18F、USDS(米国デジタルサービス)などいくつかある。

 この中でも、PIFプログラムは、民間、非営利団体、大学など、政府外の組織から優秀なIT専門家や起業家を一定期間迎え入れ、政府機関と共同で、特定の政府サービスや政府ITの変革を目標に、ホワイトハウス科学技術政策局が2012年に組織した。

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PIFのWebサイト
(出典:PIF

 18Fや米国デジタルサービス(USDS)など、その後の組織結成の足がかりを作ったことで知られている。

米国の官公庁でリボルビングドアを実践する組織の例
組織名 創設 内容
PIF
(大統領イノベーションフェローズ)
2012年8月 数カ月を目安とする短期間で政府の重点的なIT プロジェクトでイノベーションを実現する
18F 2014年3月 政府機関にリーンスタートアップの実践手法を教示する
USDS(米国デジタルサービス) 2014年8月 大統領の掲げる主要政策を実現するため、指揮の方向転換が必要な政府 IT 事業に加わり指導する
ATC(米テクノロジー評議会) 2017年5月 各政府機関によるデジタルサービスの構想、戦略、方向性を調整する
(出典:著者作成)

 最近では、PIFが新型コロナウイルス感染症でHealth Resources and Services Administration (HRSA)や米保健社会福祉省などと協力し、遠隔診療の認知拡大に貢献した

 この取り組みでは、従来の個別の対面診療を求める一方で、自分自身や家族、医療関係者にリスクを拡散してしまうことへの対応が課題だった。

 ITを活用して代替する診療を自宅から受けることで、患者は画面を通じて医者と話ができ、適切な医療サービスを受けられるようになる。特に新型コロナの患者が多い米国では重要なテーマだ。

 PIFが解決策を探す際に、医療提供者と患者がともに、最新のツールを活用する方法について、政府が持つ情報が必要になることがユーザー調査でわかっていた。

 そこで、PIFは政府のウェブサイト「Telehealth.HHS.gov」の開発と立ち上げをリードした。遠隔診療について、わかりやすい言葉で説明し、医療提供者向けにツールやリンク情報を提供することで、全米で100万人以上いる医療提供者と3億人のユーザーに、コロナ禍の混乱期に安心を提供した。

 PIFはこのほか、国家安全保障のための商業技術を担当し、中国の技術移転について詳しく調べるなど、国家の競争力を維持、向上するためのさまざまな取り組みを実施している。

 中国が投資している技術は米国企業が投資している技術と同じ分野であり、人工知能、自動運転車、拡張/仮想現実、ロボット工学、ブロックチェーン技術など将来のイノベーションの基盤になることを指摘した。

 さらに、米軍が技術的優位性に基づいて構築することを意図し、米国防総省が関心を持っている分野と一致していることも確認したという。商業面にも軍事面にも利用できる技術の開発スピードを持つ存在が、米国にとって深刻な影響を持つといった内容のレポートを提供している。

【次ページ】人材募集から見えること

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