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DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に取り組む企業が増える一方で、かねてより担い手としてのIT人材不足が指摘され、企業にとってエンジニア採用は大きな課題だ。幅広い事業を抱え、技術人材の採用を積極的に進めているDeNAとDMMの2社が「エンジニア採用のリアル」を語った。登壇者はDeNA 常務執行役員 CTO 小林 篤氏、DMM.com 執行役員 兼 VPoE 大久保 寛氏、そしてモデレーターのアクサス 二ノ宮 銀氏(モデレーター)の3名だ。
コロナ禍で「リモート面接」が主体となった
二ノ宮 銀氏(以下、二ノ宮氏):企業のDXが進む中でITエンジニアは不可欠な存在です。しかし、IT人材不足について経済産業省の調査によると、2030年時点で約79万人もの需給ギャップが生まれると予測されています。そこで、それぞれの立場から、コロナ禍を経てエンジニア採用市場の変化をどう見ているか、教えてください。
小林 篤氏(以下、小林氏):ITを使った新サービスを創出するための担い手としての価値は高く、引き続き、エンジニアは引く手あまたの状況です。エンジニア採用を進めていく中で、コロナ禍を経て感じたことは、これまでの「東京一極集中」でなく地方の人材の活躍やリモートワークの環境整備などの重要性を感じているところです。
応募者と話をしても、「これまで事業会社でITを使ったサービスを手がけてきたが、今後はテクノロジーを活用して社会課題の解決に携わりたい」などのように、関わりたいビジネスに変化が生まれています。
二ノ宮氏:DeNAでは在宅勤務については、どの程度取り組みを進めていますか?
小林氏:2020年から本格的にリモートワークを推奨しています。「100%リモートOK」ではなく、状況に応じて出社する形でエンジニア以外も広くリモートを推奨しているところで、出社率は7%程度です。求職者も自宅で働ける安心感や働き方のスタイルを求める人が増えていると感じます。
大久保 寛氏(以下、大久保氏):DMMではコロナ前後で採用方針に大きな変化はありません。ただ、これまでと比べ地方人材にコンタクトが取りやすくなりました。また、採用ではリモート面接が前提となったため、面接の時間調整がしやすくなったというのがありますね(笑)。
二ノ宮氏:コロナ前後で採用するエンジニアに求められるスキル、人材像に変化はありましたか?
小林氏:求められるスキルに大きな変化はありません。ただ、各社とも同じだと思いますが、オフラインで人と会う機会が減りました。このあたりのコミュニケーションスキルは今までよりも重要性が高まっていると思います。
たとえば、オフィスワークでは気軽にコミュニケーション取れ、業務でスタックすることがあってもすぐに相談することが可能でした。オフライン主体の環境で円滑なコミュニケーションを行えるかが今まで以上に重要だと思います。
大久保氏:そうですね。それと、入社後のオンボーディングをどうするかというのも大きなテーマです。若い社員は一人暮らしをしている人が多く、オフィスでのコミュニケーションがなくなった結果、孤独感を感じる人もいます。そうした状況を改善するベストプラクティスを模索している状況で、懸念しています。
エンジニアが主体的に採用に関わることの意義
二ノ宮氏:コロナ禍でエンジニア採用の母数自体は変わっていないとのことですが、働き方が変わることで採用の進め方は大きく変わっています。採用設計のポイントはどのあたりにありますか。
大久保氏:DMMは手広く事業を手がけているので、何をしているか分からない状態になりやすく「この事業でこの人材が欲しい」というのが、応募側から分かりにくい課題が以前からありました。この課題はコロナ以降、より顕著になっていて、それぞれの事業でどんなことをしているか、応募者に分かりやすく説明することを心がけています。
小林氏:事業内容を分かりやすく伝える工夫として、最近では一次面接前にカジュアルな面談を挟むことがあります。そこで事業の魅力やDeNAがやる必然性を説明するようにしています。面談時には人によって言っていることがばらばらにならないように、統一された説明資料を用意するなどの工夫をしています。
二ノ宮氏:面談の実施などで採用に関わる人が増え、採用にかかる工数が増加傾向にあるのでしょうか?
大久保氏:DMMでは、エンジニアが主体的に採用に関わっていく方針を採っているので、今までと比べると採用にかかる時間は増えています。1度の面接や面談にかかる時間は増えていませんが、応募者と接触する回数が増えることで全体の時間が増えているイメージです。
小林氏:DeNAもエンジニア主体の採用を行っていますが、この意義は「自分たちの仲間は自分たちで見つけよう」という点に尽きます。仲間として迎えて、事業を大きくしていける人かどうか、カルチャーマッチングの観点からも、エンジニアが前に出て採用を進めることにメリットがあるからです。
一次面接では現場寄りのエンジニアが主に技術面のスキルを見て、二次面接では、マネジメント層がチームへのフィットや事業でどんな貢献ができるかを見ます。そして、最終面接を私が担当して、たとえばほかの事業にコンバートしたときに楽しみながら活躍できる人材かどうかを含めて見ます。各レイヤーで見えてくることが違うので、そこは意識しています。
大久保氏:DMMでは基本的には面接は2回、カジュアル面接(面談)を入れてトータル3回というのが基本です。コロナ禍で1つ変わったのが、面接官の配置です。これまでは面接官を2人体制でやってきました。リモートの面接では、3人くらいに増えても応募者に圧迫感が少なくなるので、1回の面接官が3人くらいで行うこともあります。
面接官が増えるケースには大きく2つあって、単純にその事業、技術スタックで広く聞きたいことがあるケース、そして面接官が何を聞いているか、面接官の研修を行っているケースです。1次面接は技術面を、2次ではチームや部門にフィットするかを中心に、面接官には他のチームや部門でも活躍できるイメージがあるかを見て欲しいとお願いしています。
二ノ宮氏:エンジニアが採用に関わる前後で変わったことはありますか?
小林氏:参加後はエンジニアが積極的にフィードバックを上げてくれます。寄せられた意見を元に、こちらも改善につながるし、評判のよかった施策は他のチームにも取り入れることができます。また、我々は、分析を積極的に行うことが好きなので、たとえば、入社後の活躍状況や他のチャネル経由の人とどれだけ費用が違うのか、などファクトを元にリファラル採用の効果を検証して、施策を積み上げているところです。
厳密な意味での「即戦力エンジニア」はいない
二ノ宮氏:では話を移して、即戦力となるエンジニアを採用するために、組織として行っている工夫についてお聞かせください。
小林氏:基本は事業部のエンジニアリングマネージャーとして採用に関わる人と人事担当がタッグを組んで、各事業部の採用計画や目標を持って採用活動を行っています。それとは別に、共通の採用施策に全社横断で取り組むケースもあります。
たとえば、リファラル採用も事業部単体で考えるのではなく、全社共通の施策として行うケースなどがあり、組織のタテとヨコの連携を重視し採用活動を行っています。
大久保氏:「数字を見よう」という話はしています。採用プロセスのファネル単位でどこに課題があるか、数字を元に話をするように心がけています。
DMMでは事業が多岐にわたっているので、Aの事業、Bの事業で違いはあれどサーバサイドエンジニアが欲しい点では同じというケースがあります。このときに、A事業の応募者で、採用は難しい人がいるけど、B事業ならマッチしそうだというように、事業横断での採用マッチングに取り組みはじめたところです。
事業部の判断は尊重しつつ、それを横断的に見る人が有機的に動いて、ほかの事業に紹介できるようなれば、社内に自発的な声が生まれ、会社全体として事業にマッチした人材が獲得できるのではないかと考えています。
二ノ宮氏:では、エンジニア採用の難しさや課題についてはどう感じていますか? 改善ポイントなどがあれば教えてください。
大久保氏:厳密な意味での「即戦力エンジニア」というのはいないと思っていて、入社前の環境、背景が異なるエンジニアが入社後、1週間で活躍できるかというとそれは無理な話です。ですから、事業部に「即戦力が欲しい」と言われたら「“即”というのはどの程度の期間か」というのをきちんと確認して合意するように配慮しています。
小林氏:採用にかけられるリソースには限りがあります。多くの優秀なエンジニアを採用したいですが、施策も無限に行えるわけではありません。採用活動は継続的な取り組みなので、施策に対する振り返り、改善のために何が必要かの検証、改善を繰り返していくことが大事だと思います。
【次ページ】DeNA、DMMそれぞれの「エンジニア採用で外せない3つのポイント」
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