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  • 2021/11/05 掲載

手術ロボット「Vicarious Surgical」が医療革新、ゲイツやシュミット出資企業の正体

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360度カメラや可動範囲の大きなロボットアームなどを備え、外科手術の効率化することを目指す手術ロボットを開発する企業が「Vicarious Surgical(ヴィカリアス・サージカル)」だ。3Dプリンターを使って製造コストを削減し、従来の手術ロボットよりも持ち運びが容易になっているほか、手術ロボットとして初めてFDA(米国食品医薬品局)のブレイクスルーデバイスの指定を受けた。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やグーグル元CEOのエリック・シュミット氏らの出資を受け、2021年にはSPACで上場を果たした同社について、スペインの医療系ベンチャーに所属する著者が解説する。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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2014年に創業されたVicarious Surgical
(出典:Vicarious Surgical)

医療ロボットのユニコーン企業

 Vicarious Surgicalは2014年、MIT(マサチューセッツ工科大学)の卒業生であるAdam Sachs、Sammy Khalifa、Dr. Barry Greeneによって米国で創業された手術ロボット企業だ。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、グーグル元CEOのエリック・シュミット氏などが2018年から2020年にかけて行われたシリーズAの投資に参加したことでも注目をされた。

 さらに、2021年にはSPAC(特別買収目的会社)を通してニューヨーク証券取引所への上場を果たした(ティッカーシンボル:RBOT)。香港に拠点を置くD8 Holdingsが上場企業を設立した上、Vicarious Surgicalを買収する流れとなった。評価額はユニコーン企業に相当する11億ドルとなり、上場で4億2500万ドルを調達した。上場後、株価は10~12ドル程度で推移しており、時価総額はおよそ12億ドルに達している。

 SPACは従来の上場手続きに比べ、上場前の準備に対する負担が少なく、多額の資本を要する事業を営むスタートアップ企業からの利用が増えている。ロボットの製造や、規制対応にかかる時間や予算がかさむVicarious Surgicalにとって、SPACによる上場は製品販売に至るプロセスを早めるのに役立つと考えられる。

手術ロボットの台頭と課題

 手術ロボットは2000年頃から利用が広がったとされる。腹部に空けた小さな穴から挿入した手術器具と内視鏡を医師が操作する腹腔(ふくくう)鏡手術は、ロボット手術の代表例だ。これにより、以前の開腹手術に比べ、患者への負担が少なくなった。

 ただ、この手術ロボットにも課題があり、導入に関するコストが高い点と、医師が操作技術を習得するトレーニングに負担が高い点が指摘されてきた。小さな穴をあけて器具を操作するため複雑さが増し、医師は手術のたびに操作手順を確認する必要がある。また、器具の可動範囲に限界があり、行える手術に制限があった。

 また、手術ロボットのシステム自体が大きいため、専用の部屋を用意する必要があり、設置から維持に関わるコスト増を招く。稼働していないときは占有された部屋が利用できないので、資本効率に悪い影響があるのも課題だ。そのため、予算が潤沢にない病院や、救急センターでは導入が難しいとされる。結果として、ロボットを使わない開腹手術をせざるを得ない。

可動範囲の広いロボットアームで手術を容易に

 これらの課題に対して、Vicarious Surgicalは新世代のテクノロジーを活用し、より自由度の高いロボット手術を確立しようとしている。開腹して手術したのと同じような操作が行えるよう、同社のロボットアームは、360度が見渡せるカメラと2本の手術器具を備えている。各ロボットアームに28個のセンサーがつき、人間の肩から手首を模した形状をしているのが特徴だ。

画像
Vicarious Surgicalの手術ロボット
(出典:Vicarious Surgical)

 手術を実施する際、医師は体内に挿入された4Kカメラの映像を見ながらコントローラーを操作し、ロボットアームを動かす。精度の高い操作、あるいは、オートフォーカスやライティングを備えたカメラによって、誤って体内を傷つけるリスクを低減する。

 同社のロボットアームは1.5センチ幅の穴から腹部へ挿入できる。従来の1.8センチよりも小さくなるので、患者への負担も軽減できるのが利点だ。また、医師がカメラの映像を確認してロボットアームを操作するシステム全体を含めて、物理的にサイズが小さく、移動させて設置するのも容易となった。

 さらにVR(仮想技術)の導入も試みている。VRゴーグルをかけた医師が360度カメラの映像を閲覧し、あたかも体内でその状態を診断できるよう没入的な体験を提供する。

 これらの技術を生かして、参入する分野として腹壁ヘルニアに注力してきた。米国だけで毎年200万件の手術が行われており、腹部への複雑な手術を要する分野である。今後、実績を重ねるごとに、異なるヘルニア手術や、その他の手術へと応用される見込みだ。

【次ページ】3Dプリント技術など活用、システム単価はどのぐらい減少?

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