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コロナ禍で加速する遠隔医療
コロナ禍により世界的に遠隔医療の普及が加速しているのに対し、日本での普及は限定的なものにとどまっている。背景としては、法制度の問題が考えられる。
たとえば、日本においてはコロナの影響で2020年度に初診からの遠隔診療が特例として解禁されたものの、あくまでコロナ禍における一時的な措置となっている。また、診療報酬についても、対面診療よりも遠隔診療の方が保険点数も低く、医師の側に遠隔利用を導入するインセンティブがあまりないのが現状だ。
一方で、コロナ禍において露わになった日本の医療体制の非効率さや、高齢化の加速などを考えると、遅かれ早かれ、遠隔医療をはじめとした日本の医療業界のDXは避けて通ることができない課題であろう。そのため、本稿では、遠隔医療における最先端のヘルスケアスタートアップが、どのように事業展開を進めているかを紹介する。グローバルの遠隔医療のトレンドを把握することで、日本におけるヘルスケア領域のイノベーションを検討する上での一助になると幸いである。
遠隔医療の領域で多額の資金調達を行っているスタートアップの取り組みを見てみると、大きく下記の3つに分類することができる。
- A. 医療リソースの配分の最適化
- B. 特定領域への特化によるUX改善
- C. IoTデバイスによる疾患のモニタリング
以下、それぞれ各スタートアップの具体的な取り組みを交えて見ていこう。
A. 医療リソースの配分の最適化
医療リソースの不足は世界的な課題である。特に、米国では人口1000人あたり1人しかかかりつけ医がおらず、診療費用の高騰を招く原因にもなっている。ニューヨークを拠点とするK Healthは、AIと遠隔医療を組み合わせることで、医療リソースの配分を最適化し、こうした課題を解決しようとしている。
K Healthはユーザーに対してスマホアプリを提供しており、自身の健康状態が気なるユーザーは、まずはチャット画面を通じてAIの問診を受けることになる。3~4分の間に平均して21の質問に回答することで、AIが、推測される病気や、その治療法や処方箋などの情報をユーザーに提示する。
K HealthのAIアルゴリズムは、イスラエルの健康維持機構(HMO)や米国のMayo Clinic等から提供された過去20年・数十億件の健康データをベースに構築されており、症状を98%以上の精度で評価できるなど、非常に優れていることもポイントである。
ユーザーは、このAIチャットボットを無料で使用でき、更に医師の診療が必要と感じた場合にのみ、医師によるビデオチャットで遠隔診療を受けることができる。遠隔診療を行う場合にも、AIベースの診断結果をもとにやり取りができるため、診療の業務が効率化されていることもポイントである。このビデオチャットは月額12ドルのサブスクリプションで利用でき、必要に応じて対面の診断の紹介状や検査キットを手配してもらうことで、より高度な医療への橋渡しも行っている。
このように、K Healthは、「AI診断→遠隔診療→対面の診断」を、ユーザーの症状の重さに応じて使い分けることで、不要な来院を減らし、必要な患者にのみ、医療リソースを届けられるよう、リソース配分の最適化を行っている。また、医療リソースの最適化により安価のサービス提供を可能にしていることから、米国で最も人気を集める遠隔医療のアプリの1つとなっており、ユーザー数は400万人を超える。
「A. 医療リソースの配分の最適化」に取り組むスタートアップとしては、ほかにも、遠隔医療とリアルの診断をシームレスにつなぐことで、リソース配分を効率化するKry Healthや、救急医療の要請の電話を解析することで、緊急性の低い患者については遠隔医療サービスに転送し、救急医療のリソースを最適化するMD Allyなどの企業が存在する。
【次ページ】「特定領域への特化によるUX改善」「IoTデバイスによる疾患のモニタリング」
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