• 2022/01/08 掲載

伝わる文章を書ける人だけが知っている「フックが9割」の法則

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ビジネスを進めるのは得意でも、頭の中にふわっとあることを文章に書くのは苦手、そんなビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。一人でできる仕事は限られており、多くの場合は他人と連携しながら仕事をしなければなりません。そのためには口頭で伝えることも大事ですが、文章を書く能力が果たす役割も大きいでしょう。では、自分の頭の中にあることを正しく文章にして、人を動かすにはどうすればいいのでしょうか。明治大学 文学部の教授で、数えきれないほどベストセラーを世に送り出している齋藤 孝氏によれば、「いい文章」には共通点があると言います。齋藤先生に解説してもらいました。

執筆:明治大学 文学部 教授 齋藤 孝

執筆:明治大学 文学部 教授 齋藤 孝

齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著者、文化人として多くのメディアに登場。主な著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)をはじめ、『三色ボールペンで読む日本語』『子どもの語彙力を伸ばすのは、親の務めです。』(KADOKAWA)、『質問力』(筑摩書房)、『1分で大切なことを伝える技術』(PHP新書)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『1分間孫子の兵法』『知性の磨き方』(SBクリエイティブ)など多数。『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)は18万部、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)は30万部を突破するベストセラーに。著書発行部数は1000万部を超える。NHK「にほんごであそぼ」総合指導。

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※本記事は『書ける人だけが手にするもの』を再構成したものです。

書けるかどうかは、「フック」が9割

・「いい文章」の共通点
 文章を書く動機は、ひとつではありません。

 「考えたこと、感じたことを人に伝えて分かち合いたい」という思いが動機になることもあれば、「自分の存在を人に認めてほしい」という一種の承認欲求のようなものを動機として書くことに臨む人もいるでしょう。

 はたまた、特に誰かに読まれることは意識せず、「自分の思考や感情を整理したい」という動機をもって文章を書く人もいるはずです。

 「人に伝えたい」「認められたい」「自分を知りたい」。

 このような思いはすべて、文章を書くための前向きなエネルギーとして働くものです。

 とはいえ、いくら書きたい気持ちがあっても、その勢いだけで「いい文章」が書けるかといえば、もちろんそういうわけではありません。

 いい文章というのは、いってみれば、美味しい料理のようなものです。

 料理を美味しく作りたいと思えば、さまざまに工夫して食材に手を加える必要があるように、文章を磨きたいなら、書き方に工夫をすることが欠かせません。

 書くことで人の心を動かしたり、自分の頭の中をすっきりと晴れやかにしたいなら、やはりそれ相応のコツを身につける必要があるのです。

 どのように工夫すればいいのか──この章では、いい文章を書くためのコツについて紹介していきますが、そのすべてに共通することがひとつあります。

 それは、いい文章には必ず「フック」があるということです。

・「読み飛ばせない引っかかり」をつけよう
 ここでいう文章のフックとは「素通りすることができない引っかかり」のことです。

 大きく3種類に分けて説明しましょう。

 ひとつめは、「読む人の関心を引っかけるフック」です。

 みなさんは、書店をブラブラしているときに、ふと気になる本を見つけて足を止めるということがありませんか。タイトルやキャッチコピーの文言に目がとまり、思わず手にとってしまう。このときの感覚こそが、このひとつめのフックです。

 私自身、自分の本を書く際には、まず「本書のフックは何だろう」と考えます。せっかく本を世に送り出すなら、より多くの人に読んでもらいたい。それこそ「『ピーター・パン』に登場するフック船長の鍵型の手」のように、読者の心が引っかかるような仕掛けをしなければ、本を手にとってもらえません。

 ですから、担当編集者とは、本のテーマだけでなく「何をフックとすべきか」についても綿密に話し合います。それが明確になったところで執筆がスタートするというわけです。

 2つめは、「文章の構成上のフック」です。

 その日あったこと、考えたことなどを、ただ順を追って書いた文章は、単なる記録文で終わってしまいます。もちろん、記録文にはそれなりの役割がありますが、とりとめもなく書かれた文章は、往々にしてテーマも結論も伝わりづらいものになりがちです。

 これでは、文章を書くことで他者に何か伝えたり、自分の内面を明らかにしたりすることは難しいでしょう。本書で「書く」ことの目的としているもの―他者とより深くつながると同時に、自分という人間を再発見する力を身につけることにはならないのです。

 書くことを通じて、こうした力を身につけるには、きちんと構成された文章を書けるようになる必要があります。そこで効力を発揮するのが、この2つめのフックなのです。

 構成上のフックは、文章の内容をつなぐ鎹(かすがい)です。ひとつのフックに引っかかるものを集めてきてつなげることで、内容に一本筋が通り、主張が伝わりやすい文章になるというわけです。

 そして3つめのフックは、「自分の心を引っかけるフック」です。

 これは、言い換えれば「なぜ、それについて書きたいと思ったのか」ということです。この3つめのフックは、実は、文章を書く上でもっとも本質的なフックといえます。

 文章を書こうというとき、たいていは、「なんだか、これについて考えようとするとモヤモヤする」「モヤモヤするから考えてみたい」というところから始まります。

 そして、そのモヤモヤの正体を言語化していくというのが文章を書くというプロセスであり、晴れてそのモヤモヤが解消したときには、まさに雲が晴れたかのように頭の中がすっきりします。これは、自分という人間の内面が、またひとつ、くっきりとした輪郭をもって発見できたという快感でもあります。

 「これについて書きたい」と思ったのは、その対象の何かに、自分の心が引っかかったからにほかなりません。

 はたしてそれは何なのか。この正体を突き止めること、つまり自分にとって「素通りすることができない引っかかり」が何なのかを明らかにすることが、書くことの出発点であり到達点でもあるといっていいでしょう。

 文章を書くときには、これらの「フック」を軸に考えを巡らせてみると、文章を通して深めるべきポイントがはっきりと見えてきます。書くための軸が決まれば、文章を書くことは格段に進めやすくなるのです。

 そして、伝えたいポイントや構成のポイントが明確な文章というのは、一種の「型」として見ていくこともできます。一見ランダムにつづられているようなエッセイなどの文章であっても、フックに注目しながら文章をひも解いてみると、その全体像を明確に把握することができるからです。

 それではこれから、具体的な「フック」と「文章の型」を手がかりとして、いい文章を書くための方法を探っていきましょう。

「?」で始まり、「!」で終える文章術

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『書ける人だけが手にするもの』
画像をクリックすると購入ページに移動します
・「自分なりの問い」を立ててみよう
 どのようなフックを設定し、そのフックで何を引っかけていくのか。

 最初に紹介したいのは、その形状からしてフックになっている「?」です。

 つまり、自分なりの「問いを立てる」ということです。

 「なぜ?」「何を?」「どのように?」「どこで?」「誰が?」などといったハテナマークがいったん頭の中に浮かべば、誰でもその答えを探したくなるでしょう。

 最初に問いを立てれば、それがフックとなって、さまざまな思考や情報を引っかけはじめます。こうして文章の材料が揃い、構成の見通しが立っていくわけです。

 この問いのフックは、「読者の関心を引っかけるフック」としても機能します。

 「読者の関心を引く」というと、ついテーマの斬新さや表現のオリジナリティなどを求めがちかもしれませんが、この「問い」のフックは、そのような突飛なアイデアを必要としないのもいいところです。

 シンプルでありながら効果的、幅広く応用がきくフックだといえるでしょう。

 この「問い」のフックは、「○○はなぜ△△なのか、あなたは考えたことがありますか?」というように文章の冒頭で問いかけると、よりその効果を発揮します。

 読み手が最初に目にするのは、当然ながら文章の1行目です。そこで読者の心のひだに引っかけることができれば、その先も読んでもらえる確率は高くなります。

「なぜ○○は△△なのか?」と問われたら、読んでいる人も「たしかに、なんでだろう?」と思います。その答えが気になるあまり、読者は先を急ぎたくなるというわけです。

【次ページ】・「問い」のフックで、「答え」を引っかける

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