• 2022/03/16 掲載

オードリー・タン氏がDXで重視した「たった1つの技術」(2/2)

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日本のDXの課題「2025年の崖」をどう乗り越えるか

 日本の経済産業省が2018年に発表したDXレポートによると、日本の金融や鉄道、電力会社といった多くのインフラシステムが二十数年前に作られたものであり、当時はオープンソースを採用していたわけでもないため、その構造が複雑化し、老朽化して、ブラックボックス化しているとの指摘がありました。そのため、新しい世代のエンジニアたちがそのシステムについて学びたいとも思わなくなっていると。そうした事情からシステムのメンテナンスが困難になり、2025年には経済損失が最大12兆円と、現在の3倍にまで膨れ上がる「崖がある」と書かれているとのことです。

 私はこれには二つの側面があると思います。

 一つは、従来のシステムは、若い方が学びたいと思えば学べるということです。メインフレーム(基幹システムなどに用いられる大型コンピュータシステム)などのシステムは、現在でもあなたがパソコンやクラウドから接続して、その環境に慣れ親しむことができます。

 私は以前、銀行のコンサルタントをしていたことがあります。当時メンテナンスしていたのはどれも20~30年前のとても古いシステムでしたが、私は自分の環境内でそれらを再現することができましたから、銀行のオフィスまで行って高価なシステムを使う必要がありませんでした。私は比較的リーズナブルなシステム上でそれらを試すことができ──もちろん速度はとても劣るのですが──、開発環境を自分でコントロールすることができました。

 ですから、若い人も「絶対にそれらを学びたくない」とは限らないと思います。最大の問題は、“一般の若いエンジニアたちに実際の環境を体験させてあげられる方法を持ち合わせていない”ということです。だから若い人たちが学びたくなくなるといった状況が生まれてしまうのです。

 ですが、先ほどもお話しした通り、私はこうした学習環境はまだ再現できると思っています。たとえば「UNIX」はとても古い技術ですが、現在でも多くのスマートフォンやノートパソコンを動かしているのは「UNIX」系のOSです。若い人たちが学びたくないわけではなく、必要なのは彼らが学ぶことのできる環境なのです。

 もう一つの側面は、巨大なシステムにとって、最も重要視されるのは安定性であるということです。新しいニーズが訪れた時、既存のシステムの安定性を犠牲にしなければそれらに対応するシステムが確立できないように思われているかもしれませんが、前述した学習環境の問題をある程度解決できたなら、「Open API」を採用することでこれらの課題は解決できるようになります。

 つまり、「Open API」とは、基礎の部分は安定させたまま、一種のオープン式のコンセント差込口のように、さまざまなインプットとアウトプットを行うことができるということです。この方法であれば、若い人たちに思う存分創造力を発揮してもらうことができます。

 それはまるで、電力システムを安定させなければならない中で、あなたが差し込もうとしているのができたばかりの新しい装置だったとしても、電力システムそのものを変えることなく、変圧器によって110Vや220Vといった電圧に変え、新しいアイテムをサポートすることに似ています。私たちは、ソフトウェア上でもAPIによって同様のことを行えるのです。

 昔はターミナルでシステムを管理するしかなかったのが、APIを変えるだけで、皆が必要とする「スマートフォンに最適化したWebサイト」を表示させることができます。もし皆がもうWebサイトを見なくなり、対話ができるチャットbotやVRを使いたいというなら、それも問題なく可能です。

 「Open API」は、金融業の「FinTech(金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、最新テクノロジーを採用した金融サービスを指す)」が発展する中で、業界を超えて広く使われるようになった概念です。台湾の金融業界にもすでに多くの「Open API」が見られます。銀行の基幹システムを使わなくとも、利用者は口座の残高を確認したり、振り込みなどを行うことができます。

 エンジニアにとっても、従来だったらどこかの銀行に入行しなければ能力を発揮できなかったのが、現在では一度コードを書きさえすれば、異なる銀行のAPIにつなげて会計管理ソフトウェアを開発するといったことができるようになりました。

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『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』
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 もちろん基幹システムが安定していることや、安全性の確保が必要という条件はありますが、角度を変えて見てみると、あなたが銀行の利用者だった場合、きっと嬉しいはずですよね。銀行が変わるのを待たずして、モバイル決済など最新の最も便利な方法で、慣れ親しんだ銀行を利用できるのですから。

 「Open API」がなければ、システムインテグレーターたちの中で、20~30年の経験を持つベテランと、VRやbotを使いこなす若い人たちの創造力が絶えず争うことになっていたでしょう。

 すべてオープンにしたからこそ、さまざまな人が創造力を発揮して便利なサービスを作りあげ、役所の仕事も減ったといえるかもしれません。
※本記事は『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』を再構成したものです。

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