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  • 2022/03/16

オードリー・タン氏がDXで重視した「たった1つの技術」

いまや「デジタル先進国」と呼ばれるようになった台湾。同国のデジタル担当大臣は何を重視し、どのような取り組みを進めてきたでしょうか。取り組みでは7年で台湾を躍進に導いたオードリー・タン氏が重視した技術があったと言います。『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』より一部抜粋して紹介します。

語り:オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)、執筆:近藤弥生子(こんどう・やえこ)

語り:オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)、執筆:近藤弥生子(こんどう・やえこ)

オードリー・タン
台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)、現役プログラマー。1981年4月18日台湾台北市生まれ。15歳で中学校を中退し、スタートアップ企業を設立。19歳の時にはシリコンバレーでソフトウエア会社を起業。2005年、トランスジェンダーであることを公表(現在は「無性別」)。アップルやBenQなどのコンサルタントに就任したのち、2016年10月より、蔡英文政権でデジタル担当の政務委員(無任所閣僚)として、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣。2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムや「ショートメッセージ実聯制」を構築、台湾の防疫対策に大きく貢献。デジタル民主主義の象徴として、世界にその存在を知られる。

近藤弥生子
台湾在住の編集・ノンフィクションライター。1980年福岡生まれ・茨城育ち。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾へ移住。現地のデジタルマーケティング企業で約6年間、日系企業の台湾進出をサポートする。2019年に日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を設立。雑誌『&Premium』『Pen』等で台湾について連載。オードリー氏への取材やコーディネートを多数手がけ、著書数冊を上梓。オフィシャルサイト「心跳台湾」。

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台湾 デジタル担当大臣
オードリー・タン氏
(写真:AFP/アフロ)

台湾政府内で推進した「デジタルトランスフォーメーション(DX)」

 2021年、日本でデジタル庁が設立された関係で、私が依頼された取材や講演のテーマに「デジタルトランスフォーメーション(DX)」関連のものが増えました。日本でも非常に関心が高まっているということですね。

 私が台湾でデジタル担当大臣として推進しているミッションの一つに「オープンガバメント(開かれた政府)」があり、その中で行った施策のうち、最もDXの基礎に直結するのが、「Open API(注)で政府をオープンにすること」だといってよいでしょう。正確には当時の張善政(ちょうぜんせい)行政院副院長が構想を描き、ジャクリーン・ツァイ(蔡玉玲)前大臣が法律方面を任されていて、私は2016年に入閣する前、2014年頃から、ジャクリーン前大臣のリバースメンター(若手が年長者に助言すること。逆メンターともいう)に就任し、ともに推進していました。すでに台湾の各省庁では、多くの「Open API」が提供されています。

注:Open API(オープンエー・ピー・アイ)API(Application Programming Interface、外部から接続するための仕様や手続きなどのインターフェース)を公開(オープン)し、外部から連携できるようにすること。

 「オープンガバメント」は4段階に分けられます。

 1段階目は政府の資料やデータを開放する「オープンデータ」、2段階目は開放された後に何か意見がないか問いかける「市民参加」、3段階目がそれらに政府が回答する「説明責任」、そして4段階目が“3段階目で誰かのことを忘れていないか”を探す「インクルージョン」です。

 「Open API」は、その第1段階「オープンデータ」に位置づけられます。政府が行っていることを、民間側でもより発展させられるようにするわけです。

 例として、日本でもよく知られている台湾の〈マスクマップ〉が挙げられます。

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今やデジタル先進国と呼ばれるまでに至った台湾
(Photo/Getty Images)

 コロナ禍初期の台湾でマスクの在庫が足りなくなった時、政府はマスクの在庫を「Open API」で公開しました。それを利用してシビックハッカーコミュニティの仲間たちとともにわずか3日間で作りあげたのが、全台湾に6000以上ある販売拠点のマスクの在庫が30秒ごとに更新される〈マスクマップ〉です。


 この〈マスクマップ〉は、1000人以上のシビックハッカー(社会問題の解決に取り組む民間のエンジニア)らによって、さらにLINEボットやテレグラム、SiriやGoogleアシスタントなど、130以上のアプリケーションへと応用されていきました。公務員である私がまずスピーディにバージョン1を作ったことは、「抛磚引玉(ほうせんいんぎょく、ことわざ。自らが粗い詩や未成熟な意見をはじめに出すことで、多くの優れた反響を引き出すこと)」であるということがいえます。

 従来、政府案件はコンペに参加しないと、民間側で必要なデータさえ手にすることができず、何かを作ることはできませんでした。それが今では多くのデータが「Open API」で提供されています。これは、コンペで案件を勝ち取ったベンダーに対して、成果物もまた「Open API」で公開するよう政府側からも要求することができるということです。作ったものを批判する人がいても「データはここにあります。あなたがやってみてください」と言うことができます。

 だから今、誰も部長(大臣に相当)たちに対して、これまでのように「なぜこのようにしないんですか」「なぜあのようにしないんですか」と問い詰めなくなりました。疑問を持つ人は、自分自身の手で疑問を解決できるようになったからです。

 もちろん「Open API」を推進し始めたばかりの頃は、多くの省庁が自分たちのデータを外部のベンダーに商業利用させることのメリットを理解できずにいました。「ベンダーはそれによってビジネスチャンスが増えるかもしれないが、公務員側にとって何か価値があるのだろうか?」と。

 けれど現在は違います。皆が「多くの人々が自分に質問しに来たとしても、自分は一度だけ回答すればよく、しかも自分が一度何かを発表しただけで、人々はそれを見た後にお互いに討論するから、自分は時間をそこに割かなくて済む。そしてたくさんの人に向けて何度も話すうち、うっかり相違が生じることもなくなる」というのが最大のメリットであると、しっかり理解しています。

 つまり、オープンにすることで、公務員側が何度も重複して回答する時間と労力を節約できるようになっただけでなく、クリエイティビティのある人を制限するものがなくなったということですね。これは日本の皆さんにも参考にしていただけるのではないでしょうか。

【次ページ】日本のDXの課題「2025年の崖」をどう乗り越えるか

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