デジタルの向こうにあるもの
まず日本の皆さんにお伝えしたいのが、私にとってITとデジタルとはまったく別のものであるということです。
「IT(Information Technology、情報技術)」とは機械と機械をつなぐものであり、「デジタル(Digital)」とは人と人をつなぐものです。
この説明は、実は日本の皆さんのために作りました。私は2016年から台湾で「デジタル担当大臣」をしていますが、日本で私のことが報道される時、「IT大臣」と記載されることが多かったので、その違いを説明したいと思ったのです。「IT」だと2文字で済みますので、もしかしたら文字数が短く済むという理由からかもしれませんが、私にとってその意味はまったく異なるものなのです。
私にとっての「デジタル」を知ってもらうために、まずは私のジョブディスクリプション(職務記述書)をご紹介します。
When we see “internet of things", let's make it an internet of beings.
When we see “virtual reality", let's make it a shared reality.
When we see “machine learning", let's make it collaborative learning.
When we see “user experience", let's make it about human experience.
When we hear “the singularity may be near", let us remember: the plurality is here.
「モノのインターネット」を見たら、「人のインターネット」に変えていこう。
「バーチャルリアリティ(仮想現実)」を見たら、「共有現実」に変えていこう。
「マシンラーニング(機械学習)」を見たら、「協業学習」に変えていこう。
「ユーザー体験」を見たら、「人間体験」に変えていこう。
「シンギュラリティ(技術的特異点)が近い」と聞いたら思い出そう。「プルーラリティ(複数性)」がすでにここにあることを。
「モノのインターネット」は、「IoT」とも呼ばれ、モノとモノ同士がコミュニケーションをとるためのネットワークです。でも、実際には、モノの向こうには「人」がいるはずです。
同じように、たとえ「仮想現実」であっても、私たちにとってそれは「共有体験ができる現実」です。「機械が学習する」のを、私たち人間がともに学習していくこともできるはずですし、「ユーザー体験」といっても、それは人間である私たち自身の体験です。
「シンギュラリティ」でAIが人間を超えるのではないかといわれることもありますが、一方で私たちはそれぞれの個性を発揮しながら「多様性」の中を生きています。
こんなふうに、デジタル化は決してデジタル単独で進むのではなく、
その向こうには私たち人間がいるのだということです。
【次ページ】デジタルのコアバリューは、人と人をつなぐこと