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  • 2022/03/09 掲載

オードリー・タン氏が日本人のために「デジタルとITはまったく別物」と語る理由

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コロナ禍で国の役割が増し、ワクチン接種をはじめとするさまざまな施策を進める中で、世界中から注目が集めたのが台湾のシステムでした。それを主導したのが、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏です。そのタン氏は日本人のために「デジタルとITは別物」と説明したといいます。なぜ、タン氏はこの2つを分けて語ったのでしょうか? 『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』より一部抜粋して紹介します。
語り:オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)、執筆:近藤弥生子(こんどう・やえこ)

語り:オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)、執筆:近藤弥生子(こんどう・やえこ)

オードリー・タン
台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)、現役プログラマー。1981年4月18日台湾台北市生まれ。15歳で中学校を中退し、スタートアップ企業を設立。19歳の時にはシリコンバレーでソフトウエア会社を起業。2005年、トランスジェンダーであることを公表(現在は「無性別」)。アップルやBenQなどのコンサルタントに就任したのち、2016年10月より、蔡英文政権でデジタル担当の政務委員(無任所閣僚)として、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣。2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムや「ショートメッセージ実聯制」を構築、台湾の防疫対策に大きく貢献。デジタル民主主義の象徴として、世界にその存在を知られる。

近藤弥生子
台湾在住の編集・ノンフィクションライター。1980年福岡生まれ・茨城育ち。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾へ移住。現地のデジタルマーケティング企業で約6年間、日系企業の台湾進出をサポートする。2019年に日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を設立。雑誌『&Premium』『Pen』等で台湾について連載。オードリー氏への取材やコーディネートを多数手がけ、著書数冊を上梓。オフィシャルサイト「心跳台湾」。

photo
台湾 デジタル担当大臣
オードリー・タン氏

「OPEN BOOK 閱讀誌」提供、撮影/KRIS KANG

デジタルの向こうにあるもの

 まず日本の皆さんにお伝えしたいのが、私にとってITとデジタルとはまったく別のものであるということです。

 「IT(Information Technology、情報技術)」とは機械と機械をつなぐものであり、「デジタル(Digital)」とは人と人をつなぐものです。

 この説明は、実は日本の皆さんのために作りました。私は2016年から台湾で「デジタル担当大臣」をしていますが、日本で私のことが報道される時、「IT大臣」と記載されることが多かったので、その違いを説明したいと思ったのです。「IT」だと2文字で済みますので、もしかしたら文字数が短く済むという理由からかもしれませんが、私にとってその意味はまったく異なるものなのです。

 私にとっての「デジタル」を知ってもらうために、まずは私のジョブディスクリプション(職務記述書)をご紹介します。

When we see “internet of things", let's make it an internet of beings.
When we see “virtual reality", let's make it a shared reality.
When we see “machine learning", let's make it collaborative learning.
When we see “user experience", let's make it about human experience.
When we hear “the singularity may be near", let us remember: the plurality is here.
「モノのインターネット」を見たら、「人のインターネット」に変えていこう。
「バーチャルリアリティ(仮想現実)」を見たら、「共有現実」に変えていこう。
「マシンラーニング(機械学習)」を見たら、「協業学習」に変えていこう。
「ユーザー体験」を見たら、「人間体験」に変えていこう。
「シンギュラリティ(技術的特異点)が近い」と聞いたら思い出そう。「プルーラリティ(複数性)」がすでにここにあることを。

 「モノのインターネット」は、「IoT」とも呼ばれ、モノとモノ同士がコミュニケーションをとるためのネットワークです。でも、実際には、モノの向こうには「人」がいるはずです。

 同じように、たとえ「仮想現実」であっても、私たちにとってそれは「共有体験ができる現実」です。「機械が学習する」のを、私たち人間がともに学習していくこともできるはずですし、「ユーザー体験」といっても、それは人間である私たち自身の体験です。

画像
今やデジタル先進国と呼ばれるまでに至った台湾
(Photo/Getty Images)

 「シンギュラリティ」でAIが人間を超えるのではないかといわれることもありますが、一方で私たちはそれぞれの個性を発揮しながら「多様性」の中を生きています。

 こんなふうに、デジタル化は決してデジタル単独で進むのではなく、その向こうには私たち人間がいるのだということです。

【次ページ】デジタルのコアバリューは、人と人をつなぐこと
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