• 2022/06/10 掲載

【再掲・追悼】元ソニーCEO出井伸之氏対談:激変するB2Bマーケティング、「データドリブンの進化」で戦え

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(ソニーグループは6月7日、同社社長や会長兼グループ最高経営責任者(CEO)などを務めた出井伸之氏が2日に死去したと発表しました。追悼の意を込めて、ビジネス+ITが2016年7月に実施した出井氏の対談インタビューを再掲します。謹んでご冥福をお祈りします。肩書などはすべて当時のママです)米国に比べて10年遅れ、特にB2Bの分野ではその遅れがいっそう顕著なマーケティング後進国、日本。現在、クラウドをはじめとしたデジタルテクノロジーの発達で、データを有効に活用できる高度なマーケティングツールを、安価かつ日常的に取り扱える時代になり、その遅れが企業にとっての命取りになってきた。ソニーCEOとして世界で戦ってきたクオンタムリープ 代表取締役 ファウンダー&CEOの出井伸之氏と「リードデータ」を専門に取り扱うリードナーチャリング専用システム「クラウドサービスサスケ」のメーカーであるインターパーク 取締役COOの高井 伸 氏に、現代の企業にとってのマーケティングのあり方、そしてデータ活用について、話し合ってもらった。
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クオンタムリープ
代表取締役 ファウンダー&CEO
出井 伸之 氏

データは活用する側のスキルが求められる時代に突入した

──急速なテクノロジーの進化で、「デジタルマーケティング」が生み出されています。常に現役の経営者というお立場から、過去から現在にわたってマーケティングを見てきた出井さんはこの流れをどのように捉えていらっしゃいますか?

出井氏:「デジタルマーケティング」自体は、すでに世の中に浸透しつつあります。「インターネット」が言葉として使われなくなったように、この言葉も数年すればなくなるかもしれません。ただ、現在そのように表現されているのは、従来のいわゆる4大メディアを使った「マスマーケティング」の対義語という側面があるからだと思います。

 消費者がインターネットで検索すれば、その人が何に興味があるかがリアルタイムにわかります。個人情報がプラットフォームに取得され、データ解析が即座にできること、これはテレビを中心としたマスマーケティングの時代にはなかったことです。概念はあったものの、技術がなかったという言い方が正しいかもしれません。

 インターネットが普及し、世の中がデジタル化することで、製造もマーケティングも、より一人ひとりの趣味、嗜好を反映するように進化しています。それがデジタルマーケティングの本質ではないでしょうか。

高井氏:現代では、そのデータ解析技術は、ECのようなB2Cモデルだけではなく、B2Bモデルにも活かされてきています。ターゲットが個人単位ではなく、企業単位の概念になり、会社単位でのニーズや趣味、嗜好を細かく解析していくことが可能になりました。昨年はB2Bマーケティング元年と呼ばれ、対企業間取引におけるマーケティングの重要性が経営レベルで理解され、各社が積極的に取り組みはじめてきました。

出井氏:モノやサービスを開発するとき、どういう人、どういう企業が興味を持つのかを知ることは非常に重要です。データやテクノロジーの力を使って顧客を知ろうというのは、そのこと自体は、B2Cでも、B2Bでも同じです。

 ただコンシューマー向けのビジネスは、購入決定までのスパンで短いのに対して、B2Bビジネスの場合は購入意思決定の時間も長く、顧客としっかりとしたリレーションシップを構築する必要がありますので、手法としては大きく異なります。

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インターパーク
取締役COO
高井 伸 氏

──ソニーの社長だった頃のモノづくりには、データ活用はどの程度行われていたのですか。

出井氏: 作ったモノがどれだけ売れたかというデータを取り、市場規模や地域性、デザインの嗜好などを加味して、地域ごとに改良や最適化を繰り返しました。やりたい大枠の考え方は今とそんなに変わっていないと思います。

 ただ当時は、リアルタイムではないクローズなオフラインデータを活用しており、コストも莫大にかかっていたので、大企業にしかデータ活用ができない時代だったとも思います。また当時は理想を実現できるテクノロジーがなく、一貫した洞察が得られないという課題もありました。

高井氏:私たちは、「クラウドサービスサスケ」というB2Bマーケティングのクラウドツールベンダーです。システム提供だけではなく、マーケティングの中のひとつの工程リードナーチャリング手法や、テクノロジーによって生み出されるマーケティングデータ(リードデータ)の取り扱い方をコンサルティングという形でサポートしています。

 弊社をはじめ、B2C、B2B、活用方法、業種、規模などに合わせて専門性に特化したクラウドシステムが次々出現していますが、出井さんはクラウドにどのような感想をお持ちですか?

出井氏:クラウドサービスの普及というのは画期的なことです。それまで一部の大企業だけが利用できた、自前のクローズドなリソースがクラウドにより、ツールとしてオープンになり、小さな会社でもクラウドを使えば大企業並みのマーケティング展開が可能になりました。

 ただ技術の進化が早い分、テクノロジーがもたらす圧倒的なビッグデータを使いこなす企業サイドの力量が必要となる時代になったとも言えます。今は多くの企業が情報に飲まれるだけで、情報を使いこなせていないのが現状ではないでしょうか。

マーケティングは、口であり、手であり、耳である。

出井氏:企業をひとつの生命体と考えるなら、マーケティングは「モノゴト」から直接刺激を受ける手や口、目や鼻ということになるでしょう。データの処理は脳ですが、インプットは五感に関わるものです。外と触れる触媒がいわゆる企業にとってのマーケティングです。体で想像していただくとおわかりのように、それは企業の生命線となる部分です。

 情報を集めて価値を生むことは、グーグルが何で利益を上げているか、時価総額が評価されているかを見れば明らかです。ですから、ビジネスにどれだけ情報が紐付いているかを見なければ、正しい経営判断ができないのです。

 マスからソーシャルに移り変わり、需要が細分化され、消費者の嗜好の変化が速くなっているので、市場のニーズをピンポイントで捉えることは日々難しくなってきています。

 したがって、現場も経営サイドも、自社のデータの活用方法をもっと研究する必要がありますし、取り扱い方法を学んでいく、マーケティングデータに対する意識をより強くして必要があります。

高井氏:おっしゃる通りで、マーケティングの「根幹」は情報です。データの質や、データドリブンと一括りにいっても、これはパッケージ化されたものではなく「その正しさ」は、企業ごとに一社一社異なると思います。

 そのため、自社に合わせた情報の取り扱い方法のチューニングや最適化を行っていくことが必要です。私たちはこれを「情報をデザインする」と呼んでいます。何が必要で、何が不必要か、情報に優先順位を付けてデータをモノのように組み立てていく考え方が大切です。

 国内の企業は部署の縦割り構造になっているケースが非常に多いので、「そのデータを活かすのがマーケティング部単体の仕事だよね?」みたいな考え方で、部署をまたいだ協力体制がとれない社風の会社が非常に多いです。よく言われるのが営業部との部署間の軋轢です。

 しかし、今や小手先の方針で扱えるほど簡単な情報ではないのです。部署単位ではなくて、経営方針として、会社全体一丸となってマーケティングのビッグデータをどのように活かしていくのかを考えていかないとダメだと日々感じています。

出井氏:日本の企業は垂直統合型の組織体系がベースで、インターネットサービスのように、横に連携していくという考えが薄いと思います。これは、もしかしたら日本が先行してきたがゆえのジレンマといえるかもしれません。インフラ、企業グループ、独自の規格など、既存のシステムが整備され尽くしたからこそ、それを打ち破る新しいシステムができない。それがここ5年くらいの流れではないでしょうか。

【次ページ】現代のマーケティングは、市場調査・集客・育成の3種類と定義ができる

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