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  • 2022/08/16 掲載

「キャズム越え」はいつ? モバイル技術はどのように“社会化”したか

篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第149回)

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世界のモバイル通信加入総数は2016年に世界の総人口を上回り、2020年は83億加入に達した。この怒涛のような新技術の普及は、一体いつから加速したのだろうか。新しい財サービスの普及を分析するロジャーズのイノベーション普及理論に照らすと、新技術を率先して受け入れる少数の革新的な層とマジョリティとの間に横たわる深いミゾ(=キャズム)を越えられるか否かが重要だ。今回は、モバイル技術の普及がキャズムを越えたのがいつだったのかを、グローバルな視点で観察しよう。

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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イノベーション普及理論で「モバイル通信技術」を読み解く
(Photo/Getty Images)

世界の総人口を上回るモバイル技術の普及

 前回解説した「令和のレピュテーション・リスク」は、ICTがグローバルに普及したことで生まれた21世紀型のカントリー・リスクだ。その牽引(けんいん)役はモバイル通信技術で、ITUの統計によると、世界のモバイル通信は2020年に加入総数が83億に達した(図表1)。

画像
図表1:Mobile cellular subscriptions
(出所:World Bank, ITU World Telecommunication/ICT Indicators Databaseより筆者作成)

 これは同年の世界の総人口78億人を上回る。ちなみに、加入総数が世界の総人口を初めて上回ったのは2016年だ。もちろん、1人で複数のSIMを所有する加入者もいるため、世界中の「すべての」人々に1人ひとり行き渡っているわけではない。

 とはいえ、このモバイル通信を中核としたICTのグローバルな伝播の勢いが「情報の解像度」を高め、「サプライチェーンの可視化」と「CGM」による情報発信力に一役買ったのは間違いない。

 では、この怒涛のようなモバイル通信技術の普及は、一体いつを起点に始まり、世界的に加速していったのだろうか。今回は、イノベーションの普及理論としてよく知られる「ロジャーズのSカーブ」を適応して分析しよう。

ロジャーズのイノベーション普及理論とは

 ロジャーズのイノベーション普及理論とは、新しい財サービスが社会に受け入れられていく軌跡をイノベーター、アーリー・アダプター、アーリー・マジョリティ、レイト・マジョリティ、ラガードの5つの階層に区分し、S字カーブで描かれる累積普及率を意味付けしたものだ(図表2)。

画像
図表2:ロジャーズのSカーブ
(出所:Rogers (1962)、James(2016)等より筆者作成)

 このS字カーブは、新しい財サービスに対する各階層の購入態度を追うことで、新技術が社会に受け入れられていくプロセスを示している。新技術が、狭い意味の工学的な発見や発明として、局所的な現象で終わるのか、それとも広く社会に受け入れられ、革新の連鎖を生んでいくのか、「イノベーションの社会化」を表す軌跡といえる。

 この理論で、イノベーターは新しい財サービスを最初に受け入れるわずか2.5%の「進歩的」な層で、リスク許容度が高く、製品やサービスの「目新しさ」そのものを重視する。続く13.5%のアーリー・アダプターは、目新しさに加えて、財サービスの価値を賢明に取捨選択した上で、自らの見解を社会に伝導する「オピニオン・リーダー」だ。

 イノベーターとアーリー・アダプターを合わせた社会全体の16%の人々は、まだ誰も使っていない全く新しい財サービスを率先して受け入れ、利用していく革新的嗜好の層といえるだろう。

 重要なのは、この社会で少数の革新的嗜好の層に続いて、平均的な一般の人々(社会全体の約3分の2を占めるマジョリティ)が新しい財サービスを受け入れるか否かだ。

普及率のカギは50%より「キャズム」が横たわる16%

 イノベーションの普及理論は、様々な新市場の分析に応用され、普及率16%がイノベーション加速の閾値と認識されるようになった。なぜなら、多くの新製品、新サービスは、マジョリティへの普及前に姿を消しており、そこに深いミゾ(=キャズム)が横たわっているからだ(Moore [1991])。

 アーリー・アダプターに続く、社会の34%を形成するアーリー・マジョリティは、自ら先陣を切るわけではないが、他者が利用しはじめると、比較的早い段階で実用性を見極めるタイプの人々だ。この層が役立つと判断し受け入れると、社会全体の半分の人々に普及して「流行」となる。

 つまり、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティの間に横たわる「キャズム」を乗り越えることが、イノベーションの「社会化」でカギを握るわけだ。

 その後、社会の受け入れが過半になった段階で、雪崩を打つようにフォローする34%の人々がレイト・マジョリティだ。残りの16%はラガードと呼ばれ、新しい製品やサービスの受け入れに最後まで消極的で、最終段階になってようやく行き渡る層だ。

 では、世界のモバイル通信技術が「キャズム」を越えたのは、一体いつだったのだろうか。具体的に観察してみよう。

【次ページ】世界のモバイル普及はいつ「キャズム」を越えたか

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