前回みたように、ノースの枠組みに準じると、「制度」は明文化された憲法、一般の成文法、コモン・ロー、判例といった“フォーマル”なものから、商慣行、行動規範、文化的タブーといった“インフォーマル”なものまでが一体となって機能している。つまり、現実の社会は、歴史や文化や伝統を基盤とした「広い意味の制度」に則って営まれている。
こうした制度の多層性を踏まえて、現実の経済をグローバルに眺望すれば、歴史や伝統が単一でないさまざまな国民経済群が多元的に存在していることに気がつく。そして、歴史を振り返るとわかるように、「フォーマルなルールは政治的ないし司法上の決定の結果として一夜のうちに変化しうるけれども、(中略)インフォーマルな制約は計画的な政策にそれほど影響されない(
注1)」ことも多い。
ノースは、中南米の国々が19世紀の独立に際して、米国の憲法をそっくり取り入れたものの、その後はおよそ米国とは異なる社会を形成していった歴史的事実を引き合いに出して、制度の多層性と制度変化の多様性を強調している(
注2)。
ITに関しても同じことがいえそうだ。携帯電話が途上国でこれほど普及している要因のひとつは、プリペイド方式によるSIMカードの購入という課金と加入の容易さだ。アフリカなどでも、露店で野菜や雑貨を購入するのと同じ感覚で取引されている。だが、日本では、犯罪を誘発しかねないとの懸念などからプリペイド方式は一般的ではない。同じ技術でも、国や地域が変わると社会での受け入れられ方が異なるのだ。グローバルに普及する技術の普遍性が社会の多様性を照らし出す一例といえる。
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脚注
注1 North(1990)参照。
注2 North(1999)参照。