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  • 2022/12/20 掲載

【経営幹部向け】DX教育の手法を解説、「ビジョンを示したら現場任せ」は間違い

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DXという言葉がもてはやされる一方で、DXへの経営幹部の関わり方に課題を感じています。数十年にわたって経済成長が低迷している日本では、今でも深刻な閉塞感が漂っていますが、このままでは、海外の先進企業にますます大きな差を付けられてしまうでしょう。この課題に対応するためには、経営幹部向けのDX教育が必須となります。本稿では、先行事例や具体的な方法をもとに、DXにより最大、最速で成り行き成長の限界を突破する、経営幹部向けDX教育の方法を紹介します。

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

大手コンサルティング会社を経て、現職。
製造業、情報サービス業などの、事業戦略、IT戦略、新規事業開発、業務革新、人材育成に関わるコンサルティングを行っている。
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 理事。
関連著書『正しい質問』アマゾン、『イノベーションのリアル』ビジネス+IT、『ダイレクト・コミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる 研究開発革新』日刊工業新聞、等

アクト・コンサルティング
Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp

photo
経営幹部にはDX教育が必要? その具体的な手法を解説
(Photo/Getty Images)

経営幹部教育のポイント

 前編では、DXで最大の効果を最速で得、それによって成り行き成長の限界を突破するには、経営幹部の役割が大きいこと。そのために、経営幹部向けDX教育が重要であることを示しました。ここからは、具体的な経営幹部向けDX教育の方法を紹介します。

・教育のポイント
1)解くべき「ビジネス課題」や「その解き方」など、本当に考えなければならないこと(本稿ではRQ:Right Questionと呼ぶ)を明確化し、これを真正面からとらえる、
2)達成すべき高い水準を定め、安直な答えで良しとせず、徹底的に考え、
3)こうして生み出した改革案に向けて関係者を方向付け、改革が実現できるまでリードし続ける
 これらは、技術技法ではありません。したがって、遂行プロセスやフォーマットやチェックリストを学ぶのではなく、考え方、考える水準、実践して何を獲得するかを学びます。上記ポイントは、経営幹部で構成するチームで、あるいは経営幹部とその部下で構成したチームで、実際の「ビジネス課題」を対象に実践する中で習得していきます。

・経営幹部とは誰か
 ここで、経営幹部向けDX教育の「経営幹部」とは誰か、という問題があります。

 前編で示した、自社開発比率を下げることによる開発効率やスピードアップ、プラットフォームを用いたグローバルな成長、データ分析の文化風土の確立などは、経営者自ら考えるべきことでしょう。しかし、現実はもっと多様です。

 ある企業で、新規事業開発に関わる改革が行われました。当初これを主導したのは、新規事業開発本部の企画部長でした。

 この企業では、同業や類似業界の新規事業は誰が開発したかを調査し、成功した新規事業開発の大半が事業責任者以上によるものであることを突き止めました。また、ここ10年の成功した新規事業のほとんどが、奇をてらった新しい分野ではなく、既存事業の延長線上や周辺領域で、M&Aを軸にして行われていることが分かりました。事業経営をやったことがない新規事業開発本部の中間管理職と事業責任者、どちらが新規事業を開発できるか、考えてみれば答えは明らかでした。

 ただし、この企業の経営者は、事業責任者は短中期業績に責任を持ち、新規事業は新規事業開発本部が作るものだと信じていました。

 そこで企画部長は、新規事業開発本部長に調査結果を示し、弊社をコンサルタントとして、経営企画担当役員を巻き込み、最終的に新規事業開発本部を解体。新規事業を事業責任者の責任で開発する体制を作り上げました。

 後に新規事業開発本部長は、本部長クラスが経営者全員を変えることを「ミドルアップ」と呼びました。

 本稿で紹介する経営幹部向けDX教育は、主に経営者に対して実施しています。しかし、本部長や部門長クラスに受講させている企業もあります。

 海外では、企業改革レベルのDXは、CEOや事業責任者によりトップダウンに進められることが多いと思います。しかし日本で、それを待つ間に、先行する海外競争相手との差が広がっていくこともあります。気が付いた者が、必要ならばミドルアップでDXを進めなければならない。逆に、現場第一線の情報を持つ本部長や部長クラスがミドルアップできることが、日本の強みとなるはずです。

本当に考えなければならないことを明確化し、真正面からとらえる

・「ビジネス課題」
 食品メーカーが、グローバルなデータベースを構築しました。国別の味などに関わる嗜好性やマーケティング上の訴求ポイントを蓄積し、製品開発やブランディングのための分析ができるものです。

 この企業は、海外企業のM&Aで規模を拡大してきましたが、食品はローカルな製品であり、味の好みもマーケティングのツボも国や地域で異なります。簡単にシナジーが出せないのです。

 そこで、グループに入れた企業群の製品力や技術力、市場に関わる知見を統合し、グローバルグループの総合力を高めるという「ビジネス課題」に直面。先のデータベースや分析システムは、テクノロジーを使ってこれを解決した結果でした。当然この企業は、データベース以外に、このビジネス課題解決のためのいくつもの施策を展開しています。

 解かなければならない「ビジネス課題」がない企業などありません。たとえばいかにしてB2Cを増やすかなど、デジタルテクノロジーを使って早期に対応せざるを得ない差し迫った課題を抱える企業もあるでしょう。

 一方中には、長年の課題でありながら、経営幹部がこれを真正面からとらえておらず、現場の問題として対処しているものもあります。先進国の中における日本企業の相対的に低い営業利益率などは、これにあたるでしょう。テクノロジーや、それを用いた企業改革方法は日々進化しています。経営幹部として解くべき「ビジネス課題」を定め、逃げずに(現場任せにせずに)考えることが重要です。

・「ビジネス課題の解決策」
 たとえば、世界の競争相手に並ぶ水準の営業利益率の達成は、多くの日本企業の「ビジネス課題」です。この解決策を原価低減と考え、現場でDXを駆使した施策を展開することは一手段でしょう。しかし、もっと高い視点広い視野で考えることで、革新的な解決策が得られる可能性があります。

 たとえば、ある海外素材メーカーでは、基本的に値引きしません。値引きには、正価からのディスカウントやサプライチェーンのサービスレベル向上、支払いサイトの延長など方法は多様ですが、これらをやらないのです。

 営業では、全員博士課程修了者を採用し、高度な知識に基づき、顧客に対して自社製品の価値最大化の提案を行います。社内には、これを可能とする各種知見がデータベース化され、また顧客側の加工機械をそろえ、顧客の工法の研究にも競争相手以上の投資をしています。

 その結果、高い製品力、提案力で顧客への提供価値を高め、値引きせずに売り、これによって得た原資を、高い製品力や提案力実現に再度配分しているのです。

 ここで重要なことは、「ビジネス課題の解決策」は、シンプルに語れるということです。「値引きをしない」「スペックを最適化する」、というようにシンプルに理路整然と「解決策」が語れない内に、デジタルテクノロジーを活用して現場の業務を改革しても、それは単に現場の知恵の集合体であり、経営幹部が考えるべき大きな効果を最速で得ることはできません。

 一方で「ビジネス課題の解決策」は、シンプルに理路整然と語れるので、常に考え、あるいは社内外専門家との議論の俎上に上げ、知恵を借りることができます。皆さんも経験があるはずです。革新的なアイデアは、社内で仕事中に出るとは限らない。ある時期、寝ても覚めても考えなければ、積年の「ビジネス課題」は解決できないのです。

・DXの普遍的構造とテクノロジーの関係
 DXには、考え実行すべき項目に、普遍的な構造が存在しています。筆者はこれを「RQ:Right Question」、経営幹部が自問自答すべき項目と呼んでいます。RQは考え方のフレームワークではなく、必死で考えて答えを出すべき項目です。

 たとえば戦略において、環境を強み・弱み・機会・脅威で整理するのはフレームワークであり、RQはこれらの分析から生み出す「どうやって継続して勝ち続けるのか」にあたります。

 RQの1番目は「ビジネス課題」です。これまで示した、M&A後のグローバルグループでの総合力をいかにして獲得するかとか、海外競争相手に並ぶ営業利益率をどのように実現するかなど、現場任せにせずに経営幹部が真正面からとらえて、逃げずに(安易に現場に任さず)考えるべき課題です。

 RQの2番目「ビジネス課題の解決策」は、前述の通り、シンプルに理路整然と語ることができる、説くべき課題を解決する方法です。

画像
DXにおけるRQの普遍的構造

 「ビジョン」は、「ビジネス課題の解決策」を実現するために、企業はどのように変わるかを示すもので、デジタルテクノロジーで作り上げるシステムのみならず、事業ポートフォリオやリソース配分、組織や業務プロセス、情報や人材レベルなど、「ビジネス課題の解決策」を実現するために必要な切り口で描きます。この中には、文化風土やリーダーシップも含まれます。

 たとえば、営業利益率向上という「ビジネス課題」に対し「ビジネス課題の解決策」を「値引きしない」とするなら、提供価値と競争環境などから妥当な価格を設定するシステムや、営業の人材レベルを博士課程修了者でそろえて技術的提案力を高める等のビジョンが描けます。今までそのような事業運用をしてこなかった場合は、「高い製品力により値引きはしない」文化風土を、組織トップのリーダーシップで定着させることがセットで必要になります。

 「実現課題と解決策」は、「ビジョン」と現状のギャップとその解消方法です。「ビジョン」は実現するまでは理想像ですので、現状とのギャップを打破して理想を実現するために解決すべき課題があります。実現課題は、現状維持が心地よいと思う社員からは、できない理由として示されることもあります。できない理由ではなく、知恵を出して解決する課題として解決策を考えることが必要です。

 経営幹部の中には、方向(ビジネス課題、ビジネス課題の解決策、ビジョン)は示したのだから「実現課題と解決策」は現場で考えろ、と思う人がいるかもしれませんが、これは間違いです。

 たとえばシステムの普及について考えてみましょう。グローバルグループの知見を共有する、コラボレーションを進めるシステムを作る場合、普及のための課題として、各国現地法人で社員プロフィールを全員登録するといった解決策は、考えてみると各国現地法人社長にしか実現できません。また、グローバルにこれを実現する責任は、各国現地法人の社長に指示が出せる、本社CEOになります。

 企業の中にはこのような基盤になる状況を「ベースサービス」と呼んで実行責任者、実現期限とともに明確化しているところがあります。まず経営幹部として、重要な実現課題と解決策を自分事として検討し、その後必要な指示を組織に展開することが重要です。

 RQの5番目「意思決定課題と解決策」については、後述します。

 先に示したとおり、RQの答えは本質を短く表現できるため、どこでも考えられます。DXで大きな効果を最速で出すためには、上記普遍構造に従って、答えが出るまで徹底的に考えることが必要です。

【次ページ】達成すべき高い水準を定め、安直な答えで良しとせず、徹底的に考える

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