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  • 2006/01/05 掲載

神戸大学大学院教授 金井壽宏氏:組織変革と変わらぬ基盤としての組織文化

~個人を貫くものと組織を貫くもの~

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昔は頑固じじいがいたものだ。最近は減ったように思える。折れないところ、変えてはならないところは決して変えない頑固さは大事だ。だから我々は、いざ頑固じじいがいなくなると寂しく感じてしまうものだ。そして、その頑固さが、成功の方程式に適合している時は言うことない。  かつて、宗教家で哲学者のラインハルト・ニーバーは、「変えてはならないものを受け入れる、心の冷静さを我に与えたまえ」「変えるべきものを変える、チャレンジする勇気を我に与えたまえ」「変えていくものと残すもの、その2つを見分ける英知を我に与えたまえ」という3つの相互に関連する願いを語った。
【マネジメント】神戸大学金井壽宏氏
神戸大学大学院経営学研究科教授 
金井壽宏
Kanai Toshihiro

京都大学教育学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了後、
MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)、神戸大学
で博士号(経営学)を取得。研究テーマは、変革型のリーダーシップ、
創造性となじむマネジメントなど多岐にわたる。著書には、『会社
と個人を元気にするキャリア・カウンセリング』(編著、日本経済新聞社)
など多数。

はじめに
3つのお祈りの言葉


昔は頑固じじいがいたものだ。最近は減ったように思える。折れないところ、変えては ならないところは決して変えない頑固さは大事だ。だから我々は、いざ頑固じじいがいな くなると寂しく感じてしまうものだ。
そして、その頑固さが、成功の方程式に適合している時は言うことない。  かつて、宗教家で哲学者のラインハルト・ニーバーは、

「変えてはならないものを受け入れる、
心の冷静さを我に与えたまえ」

「変えるべきものを変える、
チャレンジする勇気を我に与えたまえ」

「変えていくものと残すもの、
その2つを見分ける英知を我に与えたまえ」

という3つの相互に関連する願いを語った。
変革の時代だから、変えることばかりに目がいく。それはしかたがないが、本当にうま く変われる組織も個人も、実は変えてはならない原理・原則を大切にしているものだ。そ れは、組織にとっては経営理念であったり、個人にとっては座右の銘だったりする。そし て、この経営理念はここで論じる組織文化の1つのレベルであり価値観にかかわり、個人 の座右の銘は、しばしば人生やキャリアの拠り所となり、以下でふれることになるキャリ ア・アンカーにかかわっている。

上記の言葉は、変えてはいけない基軸をよく自覚しているからこそ、かえってしなやか に変われるというニーバーならではの逆説的で微妙な知恵を表す深い言葉である。同時に、 その気になれば、我々が毎日でも口にできるお祈りの言葉でもある。ちなみに、この3つ のお祈りは、アルコール中毒から立ち直ろうとする人たちの自助組織であるAA(Alcoholics Anonymous)の会合でも唱和されてきたことだ。
もちろん、企業組織はアル中の集まりではない。しかし、ワーカホリック(仕事中毒者) がいっぱいいて、それでもなんとか創造性を集団としても発揮したいと望んでいるなら、 この3つの願いを時には唱えてはいかがだろうか。

心ある変革が望まれるのは、何も企業組織だけではない。今、うまく変われないながら も変貌しつつある大学組織をみていても、変えてはいけないことを変えてしまう愚と、変 えてもいいことなのに変えない愚という両方のリスクがある。世の中には、テコの支点の ように不動点や基盤を守るからこそ、うまく大きな力が出て変革に従事できる組織がある。 それはいい頑固だ。しかし、変えてもいいどころか、ぜひ変えるべきだというシグナルが 外界からいっぱい出ているのに、社内の論理でそれを変えられないと皆が思い込んでしま って硬直的になってしまうなら、そちらは、悪い頑固だ。

このいい頑固と、悪い頑固にみられるように、どちら向きにも切れる両刃の剣にあたる ものが組織の中にも多数ある。無機質に硬い階層的な官僚制組織がそうかもしれないし、 一見ソフトな組織要因といわれる組織文化も両刃の剣の代表格のようなところがある。  これを読みながら、読者の皆さんの会社の組織文化、もしくは社風をぜひ診断し、分析 されることを希望したい。大切にすべきところは大切にして、変えるべきところには鉈を 振るう。組織文化を語ることは、組織の宝物をいかに扱うかということにかかわる。大事 にしすぎても困るし、決しておざなりには扱えない。

この微妙な論点をしっかりと把握するために、ここでは、組織文化論者の中心人物のひ とり、エドガー・H・シャインの所説にこだわってみたい。
ここでの記述は、シャインの枠組みに基づいて、創造と革新を目指す会社の組織文化や、 創造と革新の担い手となる個人のキャリアについて、わが国の企業で調査や研修を通じて 議論してきたことを踏まえて書かれているので、読者の皆さんも、ぜひ、組織文化とキャ リアを結びつけて診断し、創造と革新を招来するような組織変革をそれぞれの勤務先で目 指してほしい。



図1 個人が文化になじんでいくプロセス

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