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  • 2023/01/25 掲載

再配達で「年2億時間&1,000億円」がムダに…? それでも“タダ”が続くおかしな理由

連載:「日本の物流現場から」

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「運送業なんて、もはやオワコンだよ…」。そんなSNS投稿を見ると心が痛い。たしかに、ドライバー不足や物流の2024年問題など、解決の気配もなく何年も経過していく現状を見れば、愚痴りたくもなる。諸問題の打開策として期待されるのは運賃の値上げだが、これまた改善の兆しがない。ECが活況を呈する今だからこそ、いっそ時間指定や再配達を有料化すれば良いと言う人もいる。しかし実は1990年代初頭、時間指定配送は有料であり、運送会社における収益改善の鍵であると期待されていた。なぜ無料になったのか、運送業界の現状を踏まえつつ解説する。

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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トラック運送業界はオワコンと化してしまったのか
(Photo/Getty Images)

バブル崩壊後の期待の商品「時間指定配送」

 「時間を付加価値としてとらえるところから、時間指定配達サービスが商品化された。今年に入っても新規参入組が相次いでおり、新時代の商品として着実に市場を拡大している」。これは1989年8月発行の業界誌「流通設計」の一文である。1980年代末から90年代初頭にかけて、路線便各社は時間指定配送サービスに参入していった。

 佐川急便は、1985年2月から「TOP便」なる法人向け時間指定配送サービスを展開。時間指定料金は東京近郊で1個2,000円だった。岡山県貨物運送は、1989年4月からハートタイムジャスト便を展開(注)。午前8時までの時間指定が貨物1個10キロまでで2,500円、午前9時までの時間指定で2,000円だった。

注) 流通設計(1989年8月号)

 西濃運輸は1991年4月から、全国主要都市を対象に翌日午前9時までに配送するカンガルースーパー9と、翌日午前10時までのカンガルースーパー10を開始した(注)。1993年、西濃運輸の担当者は「(時間指定配送は)付加価値も高い分、利益率も高い。だから拡販していきたい」と業界誌のインタビューで答えている。当時はバブル崩壊の景気後退期であったにも関わらず、売上は前年比1桁アップと、担当者らの期待も大きかっただろう。

注) 流通設計(1993年6月号)

 ほかにも、日本通運のスーパーペリカン便、ヤマト運輸の宅急便タイムサービス、福山通運の8エキスプレス・9エキスプレスなど、多くの路線便事業者が時間指定配送サービスを展開した。

宅配の時間指定を無料化した「ヤマト運輸」の不安

 これらの時間指定サービスは、基本的に法人向けの配送サービスであった。個人宅向けの宅配サービスにおいて、時間指定配送サービスを無料化したのがヤマト運輸だ。

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宅配でも時間指定サービスを無料化したヤマト運輸はどんな不安を抱えていたのか
(Photo/Getty Images)

 1997年秋、ヤマト運輸東北支社が個人宅向けの時間指定配送サービスのテスト運用を行った。当時のヤマト運輸担当者は、「翌日配達は他社も追随している。これに代わるものが欲しかった」と答えている(注)

注) 日経ビジネス(1999年7月26日号)

 そしてヤマト運輸は1998年3月から、東京、関東、南東北エリアを対象に宅急便の時間指定お届けサービスを無料で開始。1999年、担当者は「料金を取るならば他社でもできる」と強気の発言をしている。

 1998年、ヤマト運輸の宅急便取扱個数は約7億8000万個であり、宅配便2位の日本通運(当時は日本通運もペリカン便という宅配便サービスを展開していた)の約2.1倍、約38%のシェアを握っていた。

 もちろん、無料化の理由としてシェア拡大は大きかっただろう。一方で「時間指定の加算料金として100円取ると、利用率は40%減る」という。これは当時ヤマト運輸のセールスドライバーが、個人3000人、法人1500社に対して行ったヒアリングの結果だそうだ(注)

注) 週刊ダイヤモンド(1998年10月31日号)

 ヤマト運輸は法人向けの時間指定配送において、当時300円~1,800円の加算料金を得ていた。しかしそのヤマト運輸をしてでも、宅配(個人向け)における時間指定サービスの有料化には不安があったのだろう。結果、佐川急便などの競合他社も宅配の時間指定配送サービスを無料化したのはご存じのとおりである。

 それだけではなく、期待の新星だったはずの法人向けサービスにおいても、今や時間指定は無料になってしまった。さらに言えば、混載便配送や、同一荷主による複数カ所配送といったチャーター便など、路線便以外の配送でも時間指定料金を収受できていないケースが多発している。

【次ページ】無料の時間指定、戦犯は本当にヤマト運輸なのか?

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