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  • 2023/02/21 掲載

もうすぐ実用化?空飛ぶクルマの事例7選:大阪府・三重県・延岡市・JAL・ANA

連載:デジタル産業構造論

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先行する欧米に続き、日本でも具体的な活用が検討されてはじめた 空飛ぶクルマ。実用化が進む中で新たな市場が形成されつつある。こうした条件を踏まえ、いま空飛ぶクルマビジネスに関わる企業たちが急速に製品・サービス構築に向け動き始めている。本記事では、空飛ぶクルマにおける主要プレイヤー、注目の事例をまとめて解説する。

執筆:JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ 小宮昌人

執筆:JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ 小宮昌人

JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ プリンシパル/イノベーションストラテジスト、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員。

日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。22年8月より官民ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、22年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。

専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。

近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命(仮)』(日経BP)を出版予定。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。

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図表1:空飛ぶクルマの実現にとり新たに生まれるビジネス
(出典:大阪府)

空飛ぶクルマの主要プレイヤー

 空飛ぶクルマの市場を構成するプレイヤーとしては大きく下記に分類される。一例ではあるが、主なプレイヤーの動向について紹介したい。

・主要プレイヤー(1):機体メーカー
 空飛ぶクルマにおいて機体メーカーは重要な位置付けとなる。優れた機体を開発するとともに、その型式証明など各種の証明を取得していく当局対応も重要となる。

 プレイヤーとしては大きく専業スタートアップと、航空機系(ヘリコプター含む)企業に分かれ、自動車関連企業が提携を通じて事業機会を伺う構図だ。専業スタートアップに対して、既存の自動車企業など量産能力を持つ企業が連携して支援・連携を行うケースも活発化している。たとえば、トヨタとJOBY AVIATIONの連携や、スズキとSkyDriveの連携がそれにあたる。

 日本においてはもともと航空産業の部品産業が形成されているが、ボーイングやエアバスなど航空機の機体メーカーに対して納入するサプライヤーの立場の企業が多く、機体メーカーは一部にとどまっていた。こうした中、今後、空飛ぶクルマ産業が創出される中で、機体メーカーが生まれ日本の産業構造が転換していくことが期待されている。
■専業スタートアップ
<海外勢>
Volocopter(独)
JOBY AVIATION(米)
EHang(中) ベータテクノロジーズ(米〈双日が出資〉)
Vertical Aerospace(英〈丸紅が事業提携〉)

<日本勢>
・SkyDrive(スズキと連携)
・テトラアビエーション
・ホンダ
・エアロネクスト
・A.L.Iテクノロジーズ
■航空機企業
    航空機企業としては新規領域の転換とともに、自社として領域を確保する上でも展開を見せている。

  • AirbusはeVTOLのCityAirbus NextGenを開発し展開。2025年の認証獲得を目指している。日本においてはヒラタ学園と連携し空飛ぶクルマの運行ルート検証を行っている(神戸空港・関西空港・淡路島―大阪市内などを想定)。

  • Boeingは出資先のWiskを通じた機体開発、ビジネス開発を行っている

  • ジェット機を展開しているホンダはガスタービンと電動のハイブリッド型の検討

  • Bell Nexus(米/ヘリコプター大手)、川崎重工業などのヘリコプター大手による展開

・主要プレイヤー(2):部品企業
 既存の航空機・自動車産業同様に空飛ぶクルマの技術高度化においては部品メーカーの重要性が大きい。自動車のEV化と同様に、バッテリーやモーター、周辺インフラとしては充電設備なども重要なコンポーネントとなる。

 特に、複数のプロペラを高精度に制御する必要がある空飛ぶクルマにおいては、モーター企業の重要性が増している。日本においてはデンソーがハネウェルと空飛ぶクルマモーターを共同開発し展開するほか、インバーター展開を行っている。

・主要プレイヤー(3):ソフトウェア・シミュレーション・プラットフォーム
 主要プレイヤーとして、運航管理プラットフォームを担うプレイヤーの重要性が増している。たとえば、エアモビリティ社は空飛ぶクルマのナビゲーションプラットフォーム「Air-Navi」を展開している。

 これは、空飛ぶクルマが安全に運航するためのインフラプラットフォーム「AirMobility Service Collaboration Platform(ASCP)」の主要機能の一部である。利用者が目的地を入力し、ASCP上で気象データやバーティポート(離着陸場)情報などの諸条件から最適な飛行ルートを算出。ルート設定後、そのルートにおけるリスクを評点化し、利用者が当該飛行に手配されている保険内容を確認したり、必要に応じて最適な保険をキャッシュレスで購入したりすることで、安全な運航をサポートすることを目指している。実際に、AirNaviは三重県などと連携し、実証実験で活用されている。

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図表2:エアモビリティ社のAirNavi(左):AirNaviのイメージ画面(右):ASCPの機能
(出典:エアモビリティ)

・主要プレイヤー(4):離発着場
 空飛ぶクルマの実装にあたっては、離発着場の整備が重要となる。航空機のような滑走路がなくとも離発着ができるため、地上とともに、ビルの屋上(ヘリポート)などの活用が期待されている。

 ただし、その際には停車中に充電することが重要となるため、バッテリー充電設備が必要となる。離着陸場をいかにつくっていけるかが鍵となる。

 これらを進める上での鶏卵問題を打開する上でも、補助金などの支援などが求められる。ただし、支援金を検討する上で、ポートの離着陸費が決まっていないといった課題もある。

 また、建物の所有者、テナント、住民、自治体(市町村)の理解や連携が必要になるだろう。実際に、空の移動革命に向けた官民協議会においても「離着陸場ワーキンググループ(WG)」として個別ワーキンググループが設置されて議論がなされる。

 具体的な動きとして現在、SkyDriveは長大、大林組とともに、離発着上の標準モデルの設計のためのプロジェクトを実施するなど、取り組みが活発化しつつある状況だ。

・主要プレイヤー(5):管制
 空飛ぶクルマが実装される中で、複数の空飛ぶクルマが衝突しないように調整を図ることとともに、既存の航空機やヘリコプターなどとの運航スケジュールなどの調整も求められる。その観点で管制のあり方が重要となる。

 たとえば、航空交通管制システムのATC(Air Traffic Control)や、ドローンで整備が進んでいる無人航空機運航管理システムのUTM(Unmanned aircraft system Traffic Management)との連携が必須条件となるだろう。

 具体的な動きとしては、NECが航空・宇宙分野における航空管制システム・衛星運用システムなどで培ってきた管制技術や、無線通信技術、無人航空機の飛行制御技術の開発実績および重要インフラ分野でのサイバーセキュリティ対策のノウハウなどを空飛ぶクルマにおいても生かしていく考えだ。すでにSkyDriveとの出資連携とともに、空飛ぶクルマの試作機を開発し飛行実験を通じて管制システムの構築を図っている。

 記事の後半で紹介するJALも、今後管制システムをはじめとする空飛ぶクルマ運航を支えるプラットフォーマーとしての展開を図る予定だ。

・主要プレイヤー(6):サービス企業
 日本においてはJALや、ANAHDなどがサービス事業参入に向け本格的に検討を進めている。

 トヨタ×JOBY AVIATIONの連携もそれにあたる。地上の移動はトヨタが担う一方、空の移動はJOBY AVIATIONが担う形で、地上・空の移動を複合したMaaSを展開していくことが想定されている。

 今後、サービスとして定着・拡大していくためには、利用者のニーズを踏まえた持続的なビジネスモデルを成立させることが必要になる。

・主要プレイヤー(7):保険など
 空飛ぶクルマの実装は、新たな取り組みとなるためリスクを伴う。そのため、保険などのスキームで事業者のリスク低減や、何かあった際の補償を行う仕組みが重要となるのだ。

 たとえば、東京海上日動保険は、大阪での空飛ぶクルマによるエアタクシー事業性調査をSkyDrive、大林組、関西電力、近鉄グループホールディングスと行っている。同社としては大阪エリアにおける社会受容性調査の取りまとめとともに、空飛ぶクルマ保険の設計・開発に向けた検討を行っている。

・主要プレイヤー(8):政府・自治体
 空飛ぶクルマをはじめとする新しいテクノロジーにおいては政府・自治体の役割は非常に大きい。新しい技術を活用した産業コンセプトや、ビジネスモデル・スキームの提示や、産学官での連携の旗振り役、実証フィールドの提供など幅広い。

 大阪府・三重県・延岡市においても、国交省・経産省など国との連携のもと、空飛ぶクルマの検討にイニシアチブをもって展開している。ここからは、各プレイヤーの具体的な取り組みを紹介していく。

【次ページ】大阪府・三重県・延岡市・JAL・ANAHDの事例をまとめて解説

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