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  • 2023/02/01 掲載

立案者が再考する「Society5.0」の本質、科学イノベーション政策はどうあるべきか

SIC戦略フォーラム

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東北大学名誉教授 原山優子氏がSIC戦略セミナーに登場し、「Society5.0を再考する」と題した講演を行った。「総合科学技術・イノベーション会議」(旧「総合科学技術会議」)に2013年から5年間常勤として携わり、まさに「Society5.0」の立ち上げの議論の中にいた原山氏がSociety5.0というフレーズの成り立ち、真の狙いを語る。
執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。CodeIQ MAGAZINEにも寄稿。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)、共編著に『オウンドメディアのつくりかた』(BNN新社)および『エンジニアのためのデザイン思考入門』(翔泳社)がある。

画像
Society5.0のイメージ
(出典:内閣府)

科学技術イノベーション政策の出発点

 「Society5.0」は科学技術基本計画の第5期(2016年度-2020年度)に登場した言葉だ。「狩猟」「農耕」「工業」「情報」と人類がこれまで歩んできた社会、その次の、第5の新たな社会を技術革新(イノベーション)によって生み出すというコンセプトを表している。Society5.0は、現在も日本が進める科学技術政策をリードするキーフレーズになっている。

 そもそもの前提知識として「科学技術イノベーション政策とは何か」というところからひも解いていこう。ひとことで言えば、「科学(S)は現象を知る、理解すること」、「技術(T)は科学を応用、改変、加工、活用すること」、「イノベーション(I)は応用と同時に"新しい"を現実にする(ビジネス展開を含めて)こと」。

 この、科学(S)と技術(T)、そしてイノベーション(I)は、「科学的な知見があって、それを応用することによって技術が生まれて、その技術をビジネス化することがイノベーション」だとリニアな関係性で捉えられることが多い。しかし、現実的な事象を捉えようとするときに、こうしたリニアモデルではなかなか説明できないケースが多いと原山氏は指摘する。科学と技術、イノベーションは緩やかにつながってはいるが、必ずしも流れは一方通行ではなく、行ったり来たりがあるものと捉えるべきだろうと。

 必ずしも1つのモデルで示されるものではなく、そのときどき、個々の事象において科学、技術、イノベーションの関係性というものがどうなっているかを見ることが重要だということになる。

 その科学(S)と技術(T)、そしてイノベーション(I)を取りまとめ、推進していこうということで科学技術政策が編まれてきたわけだが、そのモチベーションには大きく次の3つがある。

(1)経済成長の原動力
(2)社会的&地球規模課題への対応
(3)豊かさの源泉

 経済成長の原動力という面から始まって、近年になると、そこに社会的・地球規模の課題への対応が加わる。たとえば環境負荷に関わる社会課題を解決するソリューションを生み出すために科学技術イノベーションをドライブしなければいけないという議論がされるという流れだ。

 さらに今、「何を持って豊かなのか」という豊かさの定義が議論の中に含まれるようになっている。「豊かさ」には多様な解釈があるが、経済成長だけではない社会的な豊かさ、人間的な豊かさも含めて、その源泉となるものとして科学技術イノベーションを捉えようとしているのだ。

 これらのモチベーションと呼応し科学技術政策の方向性も、分野を特定してそこに投資していくことによってさまざまなところに広げていくという「技術分野型」から「課題解決型」へと徐々にシフトしていく。課題解決型、つまり地球規模の課題へいかに対応していくかという軸だ。それには包括的にものごとを捉える必要があり、分野の枠、セクターの枠、府省の枠、組織の壁などにはとらわれない形でサポートしていかなければならないという流れである。対象となるイノベーションに関しても同様で、何らかのステージに限定した話ではない。

 この課題解決型にシフトしたことにより、政策のツールに関しても、研究開発への投資だけではなく、他のツール(たとえば制度改革やルール作りなど)も含めた政策の組み合わせが重要視されるようになっていく。

 現在はどうなっているかというと、さらに「ミッション志向型」(誘発型)の導入が試みられている。「Mission-oriented Innovation Policies(MOIPs)」(ミッション志向型イノベーション政策)は、政府が主導的にイノベーションを誘導するのではなく、政府と市民が大きな課題を共有しながら、それに向かって動きを出すことによってイノベーションを生み出そうというもの。さまざまなアクターが知恵を絞り、また協力体制を組み、その中でさまざまなイノベーションが生まれるであろうことを期待する考え方だ。ヨーロッパが主体的にMOIPsな政策立案を進めており、ここ数年日本も取り組んでいる(たとえばムーンショット型研究開発制度など)。

 このように、科学技術政策はさまざまなアプローチで取り組まれてきたわけだが、その難しさには、1つ、国の政策ということでまず「投資効果は何か」を明確にしなければならないという点がある。政策として推したことによってどういう変化があるのか。期待される効果は何か。経済、社会に対するインパクトだけではなく、科学的知識、技術的基盤をソースとする人的資本の形成、知的資本への形成といった面でいかに効果があるのか。こうした要素を測る必要があるのだが、測定して数値化することが難しい要素も多々ある。それが政策立案の難しさにつながっている。

 また、国としての競争力を強化するという面を切り離すことができない。競争力というロジックで見たとき、科学的な優位性、技術的な優位性、また経済活動における優位性を目指すことになるわけだが、特に科学に近いところでは「国」という概念で測ることが難しい。もちろん経済活動においても、企業体そのものがグローバルに展開している中、国としての競争力だけではなかなか測り得ないところがある。

 計画や目標管理はしても、それにとらわれすぎては実質的な効果が出ないというジレンマもある。

 科学技術イノベーションの特性として「100を投資したら絶対に100の効果がある」とは言えないわけで、さまざまな波及効果が想定できる部分と想定外のものが出てくる部分を承知の上で政策を進めることになる。結果が伴わないところに対してどうするかという議論とともに、そもそも政府がやるべきことは何かということを常に問いただすことが必要なのだと原山氏は述べる。

【次ページ】科学技術基本計画と「Society5.0」の登場

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