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  • 2006/05/10 掲載

【やる気を考える】「動機付け」は“付けられる”のか?人のマネジメント  / 神戸大学大学院 金井壽宏教授

第1回 やる気を考える motivation

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私は、motivationの訳として、一般的に用いられる「動機付け」という言葉よりも、「やる気」のほうが好きだ。しかし、動機付けという訳も、誤っているというわけではない。今回は、マズローの欲求階層説に照らし合わせながら、動機付けの可能性とその限界について考えてみよう。

金井壽宏

金井壽宏

神戸大学大学院経営学研究科教授 

京都大学教育学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了後、
MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)、神戸大学で博士号(経営学)を取得。研究テーマは、変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメントなど多岐にわたる。著書には、『会社と個人を元気にするキャリア・カウンセリング』(編著、日本経済新聞社)など多数。

元からやる気満々の人に対して、「動機付け」という言葉は失礼だと思ったことはないだろうか。ビジネスの世界では、やる気を話題にするときに、よく動機付けという言葉が使われている。いつの間にか聞き慣れてしまったが、これは変だと思う。

ところがこの言葉は、専門的な心理学の書籍でも使用されている。心理学者が、motivationという言葉を動機付けと訳してきたからである。
 私は、「やる気」という大和言葉のほうがより自然でよいと思う。次回以降は、motivationの訳語として、動機付けではなく「やる気」や「意欲」という言葉を使いたい。
 動機付けという訳を擁護する人は、「英語でも、I am motivatedと表現するでしょう?」と言う。直訳すると、「私は、動機付けられた」という日本語になる。

 すると、You are highly motivatedという表現は、「あなたは、高度に動機付けられている」という訳になるのだろうか。「やる気満々だね」、「おまえよくがんばるなぁ」ぐらいが、日常的でよいのではないか。その語感も、能動的だ。
 外から動機付けられるのではなく、自ら何かに意欲を持ってがんばっている人の姿は美しい。しかし、その行動が「やらされている感覚」だったり、無理強いされた結果だったりすれば、“生き生き”とまではいかない。
 また、やっていることの意味合いを深いレベルで感じられなかったら、一生懸命にやろうという気持ちがあって、さらにとてもうまくできたとしても、長期的には空しい気持ちになることもある。


外から動機“付けられる”のは悪いことではない

 もっとも、外からくる目に見えるもの、例えばお金のために働いている場合などは別だ。I am motivated by moneyという表現は、動機がお金という報酬によって、外から付けられているというストレートな意味合いになる。
 前言を翻すようで恐縮だが、このように動機には外から「付けられる」という面も確かにあり、そのことは決して情けないことではない。
 人は、生物として外から、例えば水や食べ物がインプットされないと元気がわいてこない。闘志そのものは内側から出てくるにしても、やはり人には「誰かに認めてほしい」という気持ちがある。
動機を付ける側にとっては、付けるものがあって、働きかけられるというのは、能動的なことである。
 そう考えると、ちょっと無気力になっている人に働きかけられることを示すために使うなら、動機付けという言葉も悪くはない。


マズローが想定した欲求の階層人間の欲求を5段階で表す

 わが国でも最もよく知られるA.H.マズロー(Abraham H. Maslow)の欲求階層説をていねいに読みとると、motivationを動機付けと訳すのが“的外れ”ではないという意味が分かってくる。
マズローは、人の持つ欲求というものは階層をなし、よりベーシックな(より下位の)欲求が順次満たされていくことで、さらに上位の欲求が満たされると考えた。この階層において、生理的欲求のような下にくる欲求こそ、生きていくうえで不可欠という意味で、より基本的な欲求ということになる。
 マズローの欲求階層説は、図1のとおり、より基本的なものから、ピラミッドの上に向かって、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求(社会的欲求、または関係性への欲求)、他者からの承認と自尊心の欲求、自己実現の欲求という順に並べた三角形で説明される。
【マネジメント】やる気を考えるmotivation 神戸大学大学院 金井壽宏教授
(図1)よく見るマズローの欲求階層説


 階層性は、それほど厳密ではない。例外があるという指摘や、5段階も必要なのか(逆に、5段階で足りるのか)という批判もある。しかしマズローは、厳密に検証された仮説としてではなく、一つのものの見方としてこれを提示した。
 人とて“生き物”である。生理的に満たす必要のある欲求、例えばお腹が減ったらご飯を食べる、のどが渇いたら水を飲む、ということなしには、次の段階の安全の欲求も姿を現さない。衣食住足りて、所属と愛の欲求までが満たされて初めて、今度は何事かを成し遂げ、「そういうことができるのは、自分ならではだ!」という自尊心を満足させたいと望むようになる。
 そこまで満たされると、ついに最も高次の欲求として、自己実現の欲求が姿を現す。この欲求は、自分の可能性をとことん追求して自分らしい生き方、働き方をしたいという欲求だ。

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