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  • 2023/05/17 掲載

官公庁の「ChatGPT導入」はリスク大? IT未熟国の安易な挑戦がトラブルを招くかもしれない理由

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対話型AIであるChatGPTが急速に普及していることを受けて、官公庁が対話型AIの活用に前のめりになっている。社会全体としてAIを積極活用すること自体は良いことだが、日本の官公庁は諸外国と比較して著しくIT化が遅れている。ITに対して未熟な組織がAIを安易に活用すると思わぬ結果を招くこともあり、慎重な対応が求められる。複数システムの連携や情報漏えい対策など、最低限の課題をこなすことを優先すべきだろう。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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官公庁が対話型AIの活用を検討しているが、ITに対して未熟な組織がAIを安易に活用すれば、思わぬ結果を招く可能性もある…
(Photo/Shutterstock.com)

日本の行政組織はそもそもIT化自体が出来ていない

 このところ、ChatGPTを行政事務に応用しようという動きが顕著となっている。一部の官庁や自治体では慎重な姿勢を示しているが、総じて前のめりと言って良いだろう。

 日本の行政組織は基本的にIT化に消極的である。コロナ対策の不備で明らかになったように、日本の行政組織はシステム間の連携が出来ておらず、諸外国のように所得水準から給付金を自動的に計算し、口座に資金を振り込むといった政策が実施できない。

 一部ではマイナンバーカードの普及が遅れていることが原因と指摘する声もあるが、情報システムの仕組みを少しでも理解している人であれば、この主張が明確な誤りであることが分かるはずだ。マイナンバー自体はすでに全国民に振られており、すべてのインフラは整った状態にある。支援策の受け付けや資金の支払いがスムーズに進まないのは、システム間連携の不備が原因であり、データの標準化という情報化の基礎が出来ていないことが背景にある。

 頑なまでにIT化に消極的だった日本の行政組織が、ChatGPTに対しては異様なまでに前のめりという状況には不可解さを感じざるを得ない。行政のシステム化に積極的だった欧州諸国が、ChatGPTの利用に対しては慎重姿勢を示している現状を考えると対照的だ。

 筆者は以前から日本の企業や行政はもっと積極的にITを導入すべきと主張してきた立場であり、AIについても人手不足の切り札として積極的に活用する必要があると訴えてきた。だが、ある種のブームに乗ったようなChatGPTに対するスタンスには危惧を感じている。

 ChatGPTに代表される対話型AIは、人工知能という名前にはなっているが、人間と同様の価値観や思考を持っているわけではなく、単語と単語(厳密にはより細分化されたトークンとトークン)の関係性をネット上にある膨大な文書の中から学習し、あたかも自然な言葉であるかのように連続させているだけのツールである。

 したがって対話型AIを正しく運用するには、適切なデータセットをAIに学習させるとともに、生成してきたアウトプットの活用についても厳格なルールを定めることが重要である。特に行政機関の場合、個人情報や安全保障上重要な情報などセンシティブなデータを扱う必要性があり、一般論としてAIの活用については民間より慎重になるべき組織と言って良い。

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これまでIT化に消極的だった日本の行政組織が、ChatGPTに対しては異様なまでに前のめりという状況には不可解さを感じざるを得ない
(Photo/Shutterstock.com)

ITを使いこなすには順序が必要

 さらに言えばChatGPTはOpenAI社という外国企業が提供しているものであり、同社のインフラやアルゴリズムの詳細は外部に公開されていない。このためChatGPTに入力した情報が、今後どのような形で活用されるのかは現時点ではわからない。

 一連のリスクについて考えた場合、対話型AIの活用について検討を進める必要はあるものの、即座に行政事務に活用するのは性急とみて良いだろう。特に日本の場合、行政組織がIT化に対して十分な体制やスキルを有していないという問題があり、さらにリスクが大きい。残念なことにITというのは、進化の過程というものがあり、確実にITを使いこなすには一定のステップを踏む必要がある。

 かつて企業などの組織では、紙を使って体系的に情報の分類や整理が行われていた。情報や文書を分類整理する数学的手法はすべて紙の時代に出来上がったものである。

 その後、大型コンピューターが登場し、大量の情報処理が行われるようになった。さらに90年代に入ってパソコンが普及し、個人の生産性向上にまで対象領域が拡大した。同時にシステムのオープン化が進み、各システムが互いに連携し、さらに多くの情報を扱うようになった。

 90年代の半ば以降、インターネットが急激に普及したことにより、デジタル情報が一般社会にまで拡張され、いわゆるネット空間が構築されるようになった。この段階において大きな影響力を持ったのが米グーグルに代表される検索エンジンである。ChatGPTのような対話型AIは、ビジネス的には従来型検索エンジンの延長線上に存在し、場合によっては検索エンジンを置き換えてしまう可能性を秘めた存在である。

 こうしたIT分野における進化の過程を考えた場合、基本的な情報管理ができていない組織が、いきなり対話型AIを活用することにはかなり無理がある。

 昨年5月、岩手県釜石市で、市民およそ3万2000人分の個人情報が漏えいするという恐ろしい事案があった。漏えいした情報には所得や税金の滞納情報や各種減免措置の情報も含まれており、しかもそれを職員が興味本位で不正に閲覧し、税金を滞納している住民を揶揄するという極めて悪質なものだった。 【次ページ】未熟な組織がAIを活用するリスクは大きい

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