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  • 2023/09/08 掲載

処理水問題で訪日観光に大影響、でも“元々”中国インバウンドは期待できなかったワケ

連載:「コロナ後のインバウンドの行方」

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東京電力福島第一原子力発電所の処理水の放出が始まり、中国から日本の観光ツアーにキャンセルが相次ぐなど、大きな影響が出ている。2023年8月10日、中国政府が日本への海外団体旅行を解禁したことで、訪日客増加が望まれたが、状況は厳しいだろう。ただ、処理水放出がなかったとしても、中国人訪日客の急増は期待できなかったと筆者は考える。それはなぜか。

執筆:東レ経営研究所 チーフアナリスト 永井知美

執筆:東レ経営研究所 チーフアナリスト 永井知美

東レ経営研究所 チーフアナリスト。東京大学文学部ロシア語・ロシア文学科卒業、山一証券経済研究所入社。1999年から東レ経営研究所。製造業、コンビニ、訪日観光等、幅広い分野をウォッチしている。 日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。金融庁企業会計審議会委員(企画調整部会。2005年1月~2015年1月)、内閣府統計委員会専門委員(2014年~2015年)、経済産業省新たなコンビニのあり方検討会委員(2019年~2020年)等を歴任。 共著に「図解即戦力 工作機械業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書」(技術評論社、2022年6月発刊)」。

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中国人訪日客に人気の高い宇奈月温泉
(写真:毎日新聞社/アフロ)

主役登場?ついに解禁された中国団体旅行

 2023年8月10日、中国政府が日本、欧米、韓国などへの海外団体旅行を解禁した。2020年1月、中国がコロナ禍により海外への団体旅行を禁止して以来、実に約3年半ぶりの団体旅行復活である。

 中国政府は、2023年2月以降、タイやロシアなど20カ国への海外団体旅行を許可し、同3月には40カ国を追加した。だが、政治・経済の両面で関係が悪化している米国、日本などは対象外となっていた。

 解禁を受け、「爆買い復活か」「これで2023年の訪日外国人旅行消費額は約2,000億円押し上げられる」などの景気のいい言辞も飛び交っていた。無理もない。コロナ前、中国人訪日客数は訪日客全体の約3割を占め、旅行消費額に至っては約4割を気前よく使ってくれる訪日外国人(インバウンド)の主役的存在だった(図表1)。

 だが、爆買い復活、旅行消費額大幅押し上げの見方に筆者は懐疑的である(理由は後述)。問題となっている、処理水放出がなかったとしてもだ。

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図表1:訪日外国人旅行消費額
(出典:国土交通省観光庁「訪日外国人消費動向調査」より筆者作成)

中国の旅行事情、国内旅行は大盛況

 本題に入る前にインバウンドの現状を整理すると、2023年1~7月の訪日客数は1,303万人とコロナ前(2019年1~7月)の約7割の水準に達している。けん引しているのは韓国、台湾、香港、米国である(図表2)。一方、中国はコロナ前の約2割の水準と、戻りが悪い。

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図表2:2023年1~7月の国・地域別訪日客とコロナ前に対する回復率
(出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2023年7月推計値)」より筆者作成)

 中国人はどこへ行ってしまったのだろうか。

 中国人は旅行をやめたわけではない。中国の国内旅行は大盛況である。ゼロコロナ政策の解除後、中国の国内旅行は力強く回復し、中国のゴールデンウイークともいわれる労働節(2023年の場合、5月1日のメーデーを挟んだ5日間)では、旅行者数、観光収入ともに、コロナ前の2019年比でプラスに転じた(中国・文化観光部による)。砂漠や遺跡観光で有名な寧夏回族自治区では、あまりに多くの観光客に酷使されたラクダが倒れて血へどを吐いたというニュースがSNSを賑(にぎ)わせたほどである。

 中国民用航空局によると、中国国内線の輸送能力も2023年5月時点でほぼコロナ前に回復している。一方、国際線の輸送能力は2019年の水準の半分以下にとどまっている。 【次ページ】処理水問題なくても、中国人訪日客が期待できない理由

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