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- 2024/09/04 掲載
オーバーツーリズム対策、観光税引き上げで閑古鳥の国・混雑でも納得の国の「差」とは
連載:「コロナ後のインバウンドの行方」
過去最高更新ペースで増加するインバウンド
訪日外国人(インバウンド)が過去最高更新ペースで増加している。2024年1~7月のインバウンドは、コロナ前の2019年1~7月比7.4%増の2,107万人。2024年通年では過去最高の3,188万人(2019年)を更新し、3,500万人を伺う勢いである(図表1)。2024年1~6月のインバウンド消費も2019年1~6月比61.5%増の3.9兆円と急増している。筆者は2024年7月、北海道を旅行したが、どこもかしこも観光客の過半がインバウンドで、美瑛でも札幌の大通公園でも登別の遊歩道でも外国語が飛び交っていた。函館朝市では、インバウンドの皆さんが1杯約2,000~6,000円の海鮮丼を景気よく注文していて、インバウンド消費の恩恵を目の当たりにした。
インバウンド消費は自動車に次ぐ「輸出産業」へ
インバウンド消費は、GDP統計(国民経済計算)の中で「サービス輸出」に分類される。「居ながら輸出」と表現されることもあるが、昨今の好調を受けて、2023年時点ですでに自動車、半導体等電子部品に次ぐ規模になっている(図表2)。2024年には自動車に次ぐ規模に拡大する可能性が高い。インバウンド消費は、(1)世界的に観光市場が拡大傾向にあり中長期的に成長が期待できること、(2)雇用増大や地域経済の活性化にもつながることから、政府もインバウンド誘致の旗を振ってきた。
だが、課題もある。1つは感染症の流行や地震、戦乱といった不測の事態で需要が急減する危険性があること、もう1つはオーバーツーリズムである。ここでは、オーバーツーリズムの状況とその対応策を考えたい。
日本のオーバーツーリズム、観光地住民の率直な感想
2024年7月、EYストラテジー・アンド・コンサルティングがオーバーツーリズムに関する分析を発表した。オーバーツーリズムが生じていると思われる日本の10地域(京都市、浅草がある東京都台東区、奈良市、旭川市、宮島がある広島県廿日市市など)、1,860名の住民を対象にアンケート調査を実施したものである。約6割が「豊かな生活を送るためにツーリズムは重要」と回答しているが、5割超が程度の差はあれオーバーツーリズムを感じていた。
地域別では京都市、台東区、奈良市、廿日市市の住民が、オーバーツーリズムを感じる比率が高かった。「バスや電車などの公共交通や道路が混雑して使いづらくなった」「観光客のマナー違反」「町がごみで汚れるなど公共サービスの劣化」など、日常生活に支障が出ていることを悪影響として挙げる人が多い。
観光客に水鉄砲をかけたバルセロナ市民
オーバーツーリズムは世界的な課題でもある。スペイン・バルセロナでは、2024年7月、オーバーツーリズムに抗議する住民デモ隊が観光客に水鉄砲をかけて抗議するという事件が発生した。バルセロナは観光地と住宅地が近く、渋滞、混雑、騒音に加え、民泊の急増で家賃高騰、住宅不足も引き起こしている。同市は民泊の事実上禁止や観光税の引き上げを打ち出している。
芋の子を洗うような大混雑となっているイタリアのベネチアは、中心部へのクルーズ船の出入りを禁止し、日帰り観光客へのベネチア入島税(特定日のみ5ユーロ)を課している。ただ、5ユーロは安すぎたようで、観光客はあまり減らなかった。ベネチアは、2025年に入島税を10ユーロに値上げすることを検討している。
ホテルの新設禁止、クルーズ船寄港数削減などを打ち出しているのがオランダのアムステルダムである。同市の魅力はレンブラントの「夜警」で有名な国立美術館、ゴッホ美術館、運河クルーズだけではない。「大麻は違法だが積極的には罰しない「非刑罰化」政策」を取っていることがある種の観光客をひきつけており、住民への粗暴な迷惑行為が後を絶たない。
このように、オーバーツーリズムが住民の日常生活を脅かしている観光地は少なくない。各国とも対策に知恵を絞っているが、現時点で主流の対策は次の4つである。 【次ページ】オーバーツーリズムの主流の4つの対策、模索する各国の動き
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