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- 2024/06/07 掲載
スポーツ中継はテレビから“完全に”消えるのか? DAZNらによる放映権「縄張り争い」
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。
放映権料“爆増”はテレビ局の自業自得?
テレビ朝日が5億円とも言われる全英オープンの放映権料を支払えず撤退した現在では信じられないかもしれないが、NHKも含めた日本の放送業者はバブル時代やそれに続く20年ほどの間は、放映権獲得のためのカネに糸目をつけなかった。金離れが良かったため、価格底上げの犯人的な立場でもあり、今日の状況を招いた自業自得の面がある。
ただ実はCS放送のゴルフネットワーク(通称ゴルチャン)では、引き続き全英オープンゴルフ選手権を観ることができる。しかし、これら代替視聴方法である衛星放送やケーブルテレビ、動画ストリーミングの大部分は有料であり、誰もが等しく楽しめる無料の地上波における「ユニバーサル・アクセス」とは性格が異なる。
こうした有料チャンネルの台頭は、下の図1に示したような要因が密接に関連しながら循環して起きた現象だ。
各国で放送業者や通信業者を縛っていた規制が撤廃され、商業主義的なスポーツのあり方が解禁された。これに伴い、有料化されたスポーツイベント視聴料の高騰、そして平等で広範なコンテンツへのアクセス制限が起こるのは、必然であったわけだ。
日本の場合はこれに加えて、テレビ局の体力低下や、1ドル=150円を超えた円安で、「ない袖は振れぬ」状況に至ったのである。
動画サブスクが台頭できたワケ
米プロ野球リーグのMLBや、プロバスケットボールリーグのNBA、プロアメリカンフットボールリーグのNFLをはじめ、各種プロ・アマ・学生スポーツの裾野が広い米国での放映権料の動きは、世界のテレビ局や衛星放送、ケーブルテレビ、動画ストリーミングにおけるスポーツ視聴のあり方と価格決定に大きな影響をもたらす。まず米国には、MLBやNFL、NBAなど大手リーグに加盟する地元チームの試合放映権を持つ「リージョナル・スポーツ・ネットワーク」と呼ばれる地域スポーツ専門チャンネルが存在する。
この専門チャンネルは、自局制作のスポーツ番組を中継する権利を、卸業者のようにしてケーブルテレビや衛星放送業者に販売している(図2)。そのようにして稼いだ資金を、放映権料としてスポーツリーグやチームにより多く払うことで、地上波との試合中継競争に打ち勝ってきた。
たとえばNBAの放映権料は、2014年に締結された複数年契約で(9年間の総額)240億ドル(約3.6兆円)だったものが、2024年の更新で(11年間の総額)750億ドル(約11.4兆円)以上へと爆上がりする。スポーツは儲かるコンテンツであるため、リーグやチームなど売り手が強気に出られるのだ。
だが調査企業の米nScreenMediaの調べでは、10年前には全米で1億以上の世帯がケーブルテレビ等に加入していたものが、2023年12月末には5730万世帯にまで減少している(図3)。

ケーブルテレビからの収入が減り、破綻する専門チャンネルも出て、さすがのリージョナル・スポーツ・ネットワークも、従来のように放映権料を支払えなくなっている。こうした中、ケーブルも衛星放送も受信しない、「コードカット」をした世帯の数は2023年12月末に7390万と、ケーブル加入世帯を大きく上回っている。この空白を埋める存在が求められている。
ここで登場したのが、英ダゾーン(DAZN)のような新手のプラットフォームや、動画ストリーミングのサブスクを手掛ける米テック大手である。

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