- 2025/09/16 掲載
「これで終わったらダメ」修羅場のガバクラ移行、次の「ガバメントAI」で生きる教訓は(2/2)
高すぎるコストはこのまま?「来年以降」を左右するポイント
ガバクラ移行を進める自治体にとって、最も深刻な課題の1つが移行および運用にかかる高額なコストである。前編でも触れたように、「当初想定を大幅に超えるコストになった」との声が続出しており、特に期限が目前に迫る今、「費用対効果」よりも「とにかく間に合わせる」ことが優先され、いったんは採算性が二の次にされがちだ。「2025年度中にどうしても移行を終えなければならないという圧力があるため、必要以上のスペックで契約せざるを得なかったり、過剰な設計になってしまっているところもあります。しかし、これはアプリケーションを刷新したベンダーにとっては、安定稼働のためにリスクヘッジした結果でもあると言えます。クラウドはスケーラブルな一方で、オーバースペックになるとムダなコストがかさみます。その最適化をどう進めるかが、移行後、2年目以降の持続性を左右するポイントです」(中島氏)
そのためにも、まずは「モニタリングの仕組み作り」が必要だと中島氏は強調する。ガバクラ運用の実態を来年度いっぱいかけて可視化し、どこにムダがあるのか、何を削減できるのかを検証することで、初めて適切な再設計が可能になるという。
「初めに一括で購入する方法から、支払い間隔が短くなったからこそ、クラウドでは継続的な見直しが必須です」(中島氏)
自治体がメリットを得るには「2つの課題」を乗り越えよ
もう1つの課題は、自治体内におけるデジタルリテラシーの不足である。多くの自治体では、提示された見積もりが妥当かどうかの判断が難しく、ベンダーとの対話も一方的になりがちだ。「多くの自治体ではITに精通している職員が必ずいるとも限らないため、『この見積もりのどこにムダがあるのか』という判断は難易度が高すぎます。特にクラウドとなると、難易度は一気に高くなります。だからこそ、デジタル人材の育成や外部からの招聘(しょうへい)が必要になります。しかし、官公庁の人事制度は(不正や癒着などを防ぐ目的で)異動が前提とされており、デジタル分野の人材を継続的に育成するのが難しい。外部人材を招くにしても、『誰が本当に信頼できるのか』という判断に迷い、うまくマッチングできない現実があるように思えます」(中島氏)
コスト最適化と人材確保──この2つの課題をクリアできなければ、制度としての持続性も、自治体にとっての実質的なメリットも見えないまま、時間だけが過ぎていくと言わざるを得ない。このようなデジタル人材の育成支援や外部招聘などの依頼が、自治体だけに限らず、企業からも中島氏のもとへ多く来ていることからも、需要の高さがうかがえる。
「実際にはアドバイザー制度を活用して、自治体負担なしで研修の講師としてお呼びいただき、その内容やその人自身を見て、継続して依頼するかどうかを決めるような運用で、まず呼んでみようということで、マッチングの問題を解消してもらっています」(中島氏)
総務省からも「市町村のCIO補佐官等の任用等に係る地方財政措置」として、このような人材を確保するための支援が得られるようになっている。
ガバクラ移行プロジェクトで得た「ほぼ唯一の財産」
ガバクラ移行の期限まで残り7カ月弱。これまで述べてきたように、制度上の制約や財政的な課題が山積する中、今後の取り組みは「自分ごととしてどう向き合うか」にかかっている。中島氏は、「政府、自治体、ベンダーそれぞれが信頼と対話を軸に動けるかが最大のポイント」と改めて強調する。「特に制度推進側には、現場の苦労や限界を真摯(しんし)に受け止め、対話を通じて信頼関係を築いていく姿勢が必要です。自治体職員は、自分の担当範囲に閉じず、自分ごととして捉える意識が求められます」(中島氏)
中島氏が注目している自治体の1つが北九州市だ。同市では、ガバクラに依存せず、自前でAWSを活用したシステム運用を選択肢に含めるなど、独自の方向性を模索している。また、将来的にはプライベートクラウドの構築も視野に入れており、「自治体が自らの意思でデータを管理する」という本質に立ち返った動きとして関心を集めている。
一方で、東京都は個々の区市町村をいかにスムーズに移行させるかを重視し、現場と伴走する支援に力を入れている。また、広域支援を担うべき都道府県単位でも、形式的な対応にとどまらず、実質的なサポートを実施するところも出てきており、地域ごとの差が顕著になっているという。
「今回のプロジェクトにおいて、“唯一”と言っていいほどポジティブな財産は、各地の自治体や関係者が『試してみたこと』をフラットに、オープンに共有しているコミュニティの存在です。そこには利害を超えて、より良くしたいという純粋な思いがあります。こうした自発的なつながりこそが、プロジェクト全体の推進力になっていくと信じています」(中島氏)
このようなコミュニティが熱を帯びているうちに、今後に向けた体制作りを進めていく必要がありそうだ。自治体職員におけるデジタル人材の定義を設定し、それに向けたデジタル人材育成・外部招聘といった具体的な一歩を踏み出し始めなければならないだろう。
来たる「ガバメントAI」で“同じ混乱”を繰り返さないために
2026年3月に迫るガバクラ移行の期限。このプロジェクトをどう終えるかだけでなく、「その経験を未来にどうつなげるか」が今、問われている。中島氏は、「制度を超えた対話と学びの継承が不可欠」と訴える。「繰り返しになりますが、本質的に重要なのは、政府・自治体・ベンダーそれぞれの立場を尊重しながら、信頼関係とリスペクトを持って対話できる体制を築くことです。職員のデジタル理解を深めた上で、外部人材をうまく取り込める組織文化がなければ、移行だけでなく、その先も続きません」(中島氏)
現場の負荷を軽減するために導入されたはずのガバクラが、逆に職員の負担を増やしているようでは本末転倒である。この先、人員減が避けられない中、デジタル基盤の整備は今後ますます重要性を増す。その意味でも、今回のプロジェクトを一過性で終わらせず、次につなげる視点が必要だ。
実際、デジタル庁では自治体向けのAI基盤「ガバメントAI」(仮称)の構築に向けた取り組みを進めている。ここでも、クラウド同様に機密情報の扱いやユースケースの明確化など、慎重な議論と高いデジタルリテラシーが求められることになる。
「生成AIをどう使えば自治体業務の効率化につながるのか、そもそも何ができるのか。そうした実験と議論を自治体が自ら行える状態でなければ、また同じ混乱を繰り返すことになります。私自身も、今後も支援を通じて、自治体同士の協力体制や知見共有を後押ししていきたいと考えています」
この中島氏の言葉からは、今回の移行を“点”ではなく“線”として未来につなげていこうとする強い意志が感じられた。
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