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- 2025/09/11 掲載
「デジタル破産」寸前も…ガバクラ移行「努力義務にする必要あった?」と言われる惨状
1993年早稲田大学第一文学部卒業後、ぎょうせい入社。地方行政をテーマとした月刊誌の編集者として、IT政策や産業振興、防災、技術開発、まちおこし、医療/福祉などのテーマを中心に携わる。2001年に日本能率協会マネジメントセンター入社。国際経済や生産技術、人材育成、電子政府・自治体などをテーマとした書籍やムックを企画・編集。2004年、IDG Japan入社。月刊「CIO Magazine」の編集者として、企業の経営とITとの連携を主眼に活動。リスクマネジメント、コンプライアンス、セキュリティ、クラウドコンピューティング等をテーマに、紙媒体とWeb、イベントを複合した企画を数多く展開。2007年より同誌副編集長。2010年8月、タマク設立、代表取締役に就任。エンタープライズIT、地方行政、企業経営、流通業、医療などを中心フィールドに、出版媒体やインターネット媒体等での執筆/編集/企画を行っている。
見積もりが突きつけた現実……自治体の対応は分岐点へ
ガバメントクラウド(以下、ガバクラ)への移行と自治体システムの標準化が進められる中、現場の状況は依然として混乱を極めている。2025年4月にデジタル庁が発表した資料によれば、移行スケジュールを確定している自治体は全体の約83%に上るが、実際に移行を終えた自治体はまだごく一部にとどまり、大半はこれから本格的な移行フェーズに突入するという状況にある。
こうした中で、各自治体にとって大きな転機となったのが、移行後コストの見積もりが出そろったことである。前回のインタビューから約半年が経過した今、中島氏は現場で起きている変化をこう語る。
「コストが具体化したことで、切迫感が一気に増しています。その結果、自治体ごとに対応が分かれ始めている印象です。予算が足りないと明確に認識しているところもあれば、内部留保を切り崩すしかないと悩むケースもあります。デジタル破産と庁内で揶揄されていると悩まれているのをお聞きすることも少なくありません。そもそも予算構成の理解が曖昧で、従来のようにベンダーに費用を支払っていれば良く、クラウド利用料をデジタル庁経由で支払うことを認識していないというような状況ですら見受けられることもあります」(中島氏)
予算を確保したものの、「これで十分なのか」「これで漏れがないのか」「今から何ができるのか」と不安を抱える自治体も多く、そうした迷いから中島氏のもとへの相談は明らかに増加しているという。
「今まさに、クラウドと自治体業務のシステムをどう組み合わせるべきかを真剣に考えなければならない段階に来ています。そうした中、増加したランニングコストの継続的支払いの不安や、データ連携の事業者感調整の困難さに『とにかく稼働が安定するかどうかが不安』という声が強まってきています」(中島氏)
“先生不在”の料理教室で続く「カレーライス作り」
実際、すでに2024年度末に移行を完了した一部自治体も存在するが、そこでも少なからぬ苦労があったという。「導入を早めに進めた自治体でも、多くの試行錯誤がありました。2025年度中に移行を進める自治体が大半を占める中で、同様の課題に直面するケースは今後さらに増えると見ています」(中島氏)
自治体の負荷を高めている要因として、各自治体がシステム全体を構築しなければならない状況を「カレーライスが出てくると思って入ったら料理教室だった」と語り、大反響を呼んだ中島氏。現場で続く混乱をこう指摘する。
「カレーライスを食べたいがために料理教室に入ったものの、先生がおらず、結局試行錯誤してカレーライスを作っている状態が続いています。でも、料理教室のオーナーは『美味しいカレーライスを提供します』と引き続き宣伝をして、先生がいないことを解決する見込みがありません」(中島氏)
“先生不在”で各々が試行錯誤を続ける状況で、自治体ごとの差は広がりつつあるという。
「危機意識を持っている自治体は、自ら情報収集に動いています。逆に、表面化したコスト増の課題については直面して気づいたものの、データ連携の調整ごとの困難さや今後の最適化についての問題にまだ気付けていない自治体がいるのも確かです。そもそも料理教室の先生がいないため、見積もりの高騰や移行後の運用に不安を持ち、『一体どうすればいいのか』という、概要レベルから具体的な実装の相談まで幅広く寄せられています」(中島氏) 【次ページ】なぜこうなった? 複雑化させている「2つの政策」
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