- 2025/11/26 掲載
【単独】ビール大手がなぜミルク…? アサヒが「基礎科学者5人」と異色協業のワケ
連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典(理事長)が2017年、科学賞の賞金1億円を拠出し、日本の基礎科学振興を目的に設立した。
<財団の活動>
・現在の研究費のシステムでは支援がなされにくい独創的な研究や、すぐに役に立つことを謳えない地道な研究を進める基礎科学者の助成
・企業経営者・研究者、大学等研究者との勉強会・交流会の開催
・市民及び学生を対象とした基礎科学の普及啓発活動
本シリーズの特設ページ:https://www.ofsf.or.jp/SBC/2310.html
酵母細胞壁がミルクに、AQIの存在意義
アサヒクオリティーアンドイノベーションズ(以下、AQI)は、アサヒグループホールディングスが2019年に設立した中長期の研究・開発を担う独立研究子会社である。「アルコール関連」「ヘルス&ウェルネス」「サステナビリティ」「新規事業」の各重点領域での新しい商品や素材、基盤技術の創出に取り組んでいる。その役割は、社会課題の解決につながる研究・開発を通じて、新しい価値を創造することだ。ビジネスユニットから独立させた理由について、同社 代表取締役社長 永富 康司氏は次のように説明する。
設立から約5年が経過したが、「やはり意思決定のスピードが圧倒的に速く、自由度も高い」という。
具体的な成果も現れている。その1つが、グループの事業会社とAQIが共同開発した非動物性のミルクである「LIKE MILK(ライクミルク)」だ。これは、アレルギー特定原材料や動物性原材料を使用することなく作られた、牛乳と同等のたんぱく質・カルシウムを含む新しい飲料である。現在はテスト販売を終了し、2026年から全国販売を予定している。
「従来、グループ企業では酵母細胞の中身だけを抽出して酵母エキスとして販売する事業を展開していました。しかし、絞った後に残る細胞壁は活用が難しく、家畜の飼料にするなど、用途が限定的でした。ただ、食物繊維が豊富でタンパク質も多く含むなど、とても栄養価が高いことは分かっていましたので、研究を進めて、それを材料とする新しい飲料として開発したのがLIKE MILKです」(永富氏)
これまで十分に生かし切れていなかった材料を高付加価値の製品に生まれ変わらせ、牛乳アレルギーという社会課題の解決にも貢献。さらに高タンパクで豊富な食物繊維を含む新しい食品を世に送り出せたという意味では、「LIKE MILK」は、AQIの重要な成果の1つと言えるだろう。
このように、5年、10年という長いスパンでの研究・開発を重視・実践するAQIだが、同社は大学をはじめとする研究機関との連携・協力にも力を注いでいる。その取り組みの1つが、大隅財団が提供する企業向けのオープンイノベーション支援を活用し、基礎科学の研究者との協業を進めていることだ。 【次ページ】AQI全社員が参加した「刺激的なイベント」
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