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  • 2025/10/02 掲載

年収「億クラス」のAI人材vs取り残される4億の学生、教育現場の「深刻すぎる」大問題

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ChatGPTは使えるけど、これで本当に大丈夫なのか──そんな不安を抱えているのはあなただけじゃない。世界の学生の86%が同じ気持ちを抱える一方で、AIスキルを持つ人材の年収は「億クラス」に跳ね上がっている。なぜこんなにもスキル格差が広がってしまったのか。教育現場の窮状から企業の意外な実態まで、その深刻な背景を探っていくと、ある構造的な問題が浮かび上がってきた。本記事では、こうした課題とともに、日本のビジネスパーソンも今すぐ始められる実践的な学びの方法を紹介する。
執筆:細谷 元

細谷 元

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

  構成:ビジネス+IT編集部
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世界の学生の86%がAI時代への準備不足を感じているという
(Photo/Shutterstock.com)

世界中の若者たちが抱える「AI不安」

 「ChatGPTは使えるけど、これで本当に大丈夫なのか」──そんな不安を抱えているのは、あなただけではない。世界の学生の86%が「AI時代の職場に対する準備ができていない」と感じているという衝撃的なデータが、世界ユース技能デー10周年イベントで明らかになった。

 パリとニューヨークで同時開催された国連主催の同イベントは、「AIとデジタルスキルで若者をエンパワーする」をテーマに掲げた。しかし浮き彫りになったのは、エンパワーどころか約4億5千万人の若者が適切なスキル不足により労働市場から取り残されているという厳しい現実だった。

 現場の声はさらに切実だった。WorldSkills Champions Trustのアジア代表シュエタ・ラタンプラ氏は、教師たちも最新ツールに精通した実践者になる必要があると指摘。教育する側も急速な変化に追いつけていない窮状を訴えた。

 ニューヨークでは、SkillsUSAで金メダルを獲得したオードリー・ノリス氏が若者世代の複雑な心情を代弁した。AIに過度に依存すれば学習意欲を失うリスクがある一方で、AIを適切に活用できなければ取り残されるというジレンマを語っている。

 Global Student Forumも重要な指摘をしている。技術習得だけでは不十分で、倫理的にテクノロジーを理解し、変化を主導できる包括的な教育が必要だという。AIをツールとしてだけでなく、その社会的影響まで理解できる人材育成の重要性を強調した。

 アンソロピックのダリオ・モアデイCEOもAIの急速な普及により、今後1~5年以内に新卒レベルのホワイトカラー職が半数消滅すると指摘する。

 これらの声が示すのは、単純な「スキル不足」では片付けられない構造的な問題だ。デジタルデバイドは技術へのアクセス格差だけでなく、批判的思考力や倫理観を含む教育格差として顕在化している。企業が求めるスキルと教育現場が提供する内容のギャップ、そしてその背景にある複雑な要因が、若者たちの将来への不安を増幅させている。

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【続きを読む】アクセンチュアなどの今すぐ始められるAI学習プログラム
(Photo: Bangla press / Shutterstock.com)

教育と現場のギャップが生む「AI格差」

 AIスキルに関して、企業と教育機関の間に横たわる溝は想像以上に深い。Cengage Groupの調査によれば、大学新卒者の55%が「教育プログラムは生成AIツールの使用について準備してくれなかった」と回答。さらに4人に3人が「新技術を扱うための追加トレーニングが必要」と感じている状況が浮き彫りとなったのだ。

 この断絶は給与格差という形で如実に現れている。PwCの調査では、AI関連スキルを持つ労働者の賃金プレミアムは前年の25%から56%へと倍増。機械学習エンジニアの給与中央値は17万5,000ドル(約2,600万円)に達し、メタ社に至っては超知能研究所向けトップ人材の報酬が1,000万~2,000万ドル(約15億~30億円)に膨れ上がっている。

 では、企業は具体的にどんなスキルを求めているのか。LinkedInのデータによると、2025年に最も需要が高いスキルは「AIリテラシー」だった。これは単なるツールの使い方ではなく、AIのビジネスプロセスへの戦略的影響を理解する能力を指す。これに呼応し、オンライン学習プラットフォームCourseraでは生成AIスキル需要が前年比866%という驚異的な増加を記録した。

 一方で、企業内での研修体制も追いついていない。BambooHRの調査では、77%の企業がAI使用を許可しているにもかかわらず、実際に研修を提供しているのはわずか32%にとどまることが判明した。管理職以上の50%が研修を受ける一方で、現場の従業員では23%にとどまるという。

 日本企業の状況も深刻だ。PwC Japanの5カ国比較調査によれば、日本のAI活用効果が「期待を上回る」企業の割合は米英の1/4、ドイツ・中国の半分という結果になった。効果を上げている企業は経営トップ主導で推進し、CAIO(AI最高責任者)を配置しているケースが6割に上るが、そうした体制を整える企業は限定的だ。

 日本の製造業に目を向けると、キャディの調査では、 AIを拡大活用する際の課題として約3割が「AI人材・スキル不足」を最大の課題として挙げた。これは「データ収集・整備不足」(13.9%)の倍の回答率となる。製造現場では膨大なデータが点在しているものの、それをAIで活用できる形に整備し、分析できる人材が圧倒的に不足している状況が判明した。 【次ページ】なぜ日本企業はAI活用で出遅れるのか
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