- 2025/10/25 掲載
英語学習はもう不要?リアルタイムAI翻訳が超えた「0.8秒」の壁(2/2)
月30分まで無料、日本語翻訳の実力は?
デスクトップアプリ(Mac/Windows対応)を通じて、Google Meet、Zoom、Discord、Slack、Microsoft Teamsなど主要なビデオ会議ツールと連携できる点も強みだ。30以上の言語に対応し、話者の母国語を選択した言語でリアルタイムに聞くことができる。料金は月30分まで無料で、それ以上は月額25ドル(約3,700円)から利用可能となっている。同社ウェブサイト上のデモ動画で、英語から複数言語(日本語を含む)へのリアルタイム翻訳の質を確認可能だ。
ただし、日本語への翻訳は、ところどころ聞きづらい部分があり、改善の余地ありというのが第一印象となった。たとえば、「スタートアップ」という単語が、「スター、トアップ」と発音されるなど、単語認識の問題が散見された。とはいえ、会話の全体像を把握するには十分な品質を保っていると言える。
専門用語もクリア、日本の国際イベントでも活躍のAI翻訳とは
AI(リアルタイム)翻訳は、日本でも着実に広がりを見せている。2025年6月18日から20日にかけて東京ビッグサイトで開催された「JAPAN Energy Summit & Exhibition 2025」では、フリットジャパンのAI同時通訳サービス「Live Translation」が全ステージに導入された。
このサミットは、エネルギー業界のグローバルリーダーや政府関係者、投資家が集結し、日本の新エネルギー戦略や脱炭素政策を議論する国際会議だ。参加者の多国籍化が進む中、専門用語や政策談話など高度な理解が求められる場面が増加していた。
フリットジャパンのAIリアルタイム翻訳サービス「Live Translation」は、メインモニターに英語と日本語の内容を常時投影し、参加者はQRコードをスキャンするだけで個人デバイスに翻訳を表示できる仕組みとなっている。登録不要で38カ国語に対応し、最大5言語が混在するパネルディスカッションでも対応可能という柔軟性を持つという。
同様の事例は、エンターテインメント分野でも見られる。2025年3月に開催されたアニメの祭典「AnimeJapan 2025」では、VoicePingのリアルタイムAI翻訳が採用された。イベント運営を担当したソニー・ミュージックソリューションズの担当者によると、コロナ禍終息後、海外からの来場者数が急増。ビジネスデーのセミナーでは、日本語で行われるプレゼンテーションを世界各国からの参加者が母国語で理解できる環境を整備することが急務になっていたという。
この事例では、特化型AI翻訳の重要性が示された。
同イベントでは、アニメのキャラクター名や作品タイトルなど専門用語が頻出するため、汎用的なAI翻訳ツールでは対応できないことが懸念されていた。そこで、事前に用語集をCSVファイルで準備することで、固有名詞の翻訳精度を大幅に向上させることに成功したという。現場スタッフからは「翻訳速度が非常に速く、専門用語も正確に国際表記で表示された」と高い評価を得ている。
大手企業におけるAIリアルタイム翻訳の活用も加速している。みずほ証券は2025年1月、グローバル投資銀行部門で「ポケトーク ライブ通訳」を採用することを発表した。海外21拠点を持つ同社では、英語だけでなく中国語、ベトナム語、ドイツ語、フランス語など多言語でのコミュニケーションが日常的に発生。オンライン会議だけでなく、対面会議でもリアルタイム翻訳のニーズが高まっていたという。同部門責任者は「音声認識精度と翻訳精度が非常に高く、ブラウザベースで事前インストールも不要。日本語のみの会議でも議事録作成ツールとして便利に活用している」と導入効果を語っている。
AI翻訳の弱み、プロが語る「危険すぎる利用場面」と失敗例
国内外で利用が進むAI翻訳ツールだが、リスクがない訳ではない。便利な反面、その弱点を知らないと予想外の問題を招くことになる。プロの翻訳者らを対象にした最新調査から、AI翻訳ツールの強みと弱みが浮かび上がった。
プロ翻訳者らが最も利用しているのは、ニューラル機械翻訳で59%。これにAI搭載の翻訳メモリ(43%)、自動ポストエディティング(21%)が続く。
活用シーンとして多いのは、技術的な文書やFAQなどの翻訳だ。多くの翻訳者が指摘するところでは、AI翻訳がその威力を発揮するのは、こうした定型的な内容だという、
一方で、創造性や文脈理解が求められる場面では限界が露呈。ある翻訳者は「文単位では数年前と比べて大幅に改善されたが、テキスト全体、特に技術的な内容では、徹底的な見直しなしには危険な結果になりかねない」と指摘している。
具体的な失敗例も報告されている。アマゾンがスウェーデン市場に参入した際、1億5000万点以上の商品説明を機械翻訳に依存した結果、深刻な誤訳が発生。菜種油を意味する「rapeseed oil」が「valdtakt olja(rape oil=暴行油)」と訳されたほか、シリコン製の焼き型の説明には「チョコレート、糞便、ガチョウの水、パン」に適していると訳される事態が発生した。
AIの限界は創造的なコンテンツで特に顕著にあらわれる。米髭剃りブランドDollar Shave Clubのスローガン「Shave time. Shave money.」(時間も金も削れ)をChatGPTで多言語翻訳したテストでは、言葉遊びの巧みさが完全に失われ、各言語で平凡な直訳になってしまうことが判明。さらに「Four important words to remember: you are not alone(覚えておくべき4つの重要な言葉:あなたは一人ではない)」という文章の翻訳では、各言語で正確に4単語(you are not alone)に訳すべきところ、語数が言語によってばらばらになるという基本的な構造理解の欠如も露呈している。
こうしたAIの弱点を補うための対策も見えつつある。現時点で最も効果的とされるアプローチは「AI+人間」の協働モデルだ。ECサイトでは、商品説明の初稿作成にAIを活用しつつ、重要なメッセージング部分は人間が調整する仕組みを導入。SaaS企業はヘルプセンター記事の翻訳を高速化する一方、UIコピーやオンボーディングフローは専門家が確認する体制を構築している。
Zoom会議?イベント?文書?用途で選ぶAI翻訳10選
実際のビジネスシーンでは、用途によって最適なAI翻訳ツールが異なる。以下、代表的なツールの特徴と活用場面を整理した。1. Palabra AI
遅延800ミリ秒のリアルタイム音声翻訳。30以上の言語に対応し、Google MeetやZoomなど主要ビデオ会議ツールと連携。月額25ドル(約3,700円)から。動画配信サービスへの対応も予定されており、グローバル会議に最適。
2. Google Meet リアルタイム翻訳
2025年5月より実装。英語とスペイン語から開始し、イタリア語、ドイツ語、ポルトガル語へ順次拡大。話者の声質や表現を保持しながら翻訳。Google Workspace利用企業には追加コスト不要な点が魅力。
3. Soniox API
60以上の言語でリアルタイム翻訳を実現。話者認識機能と自動言語識別により、複数人が異なる言語で話す場面にも対応。開発者向けAPIとして提供され、カスタマイズ性が高い。価格は、リアルタイム入力(音声)100万トークンあたり2ドル、リアルタイム出力(テキスト)100万トークンあたり4ドル。
4. ポケトーク ライブ通訳
10言語の音声を74言語へリアルタイム翻訳。ブラウザベースで専用ソフト不要。議事録ツールとしても利用可能で、みずほ証券など大手企業が採用。オンライン・対面両方で使える汎用性の高さが特徴。月額3,300円から利用できる。
5. Flitto Live Translation
38カ国語に対応し、最大5言語の同時翻訳が可能。QRコードスキャンで登録不要、省スペース設計でイベント会場での利用に適している。JAPAN Energy Summit 2025で全ステージ導入の実績。セッション数、オーディエンス数、言語数で価格は異なる。
6. VoicePing
イベントに特化し、専門用語の事前登録で精度向上を実現。AnimeJapanで2年連続採用され、キャラクター名など固有名詞の正確な翻訳で評価を獲得。月額6,325円から利用可能。
7. DeepL
文書翻訳に強みを持ち、ニューラル機械翻訳の精度で定評。APIも提供し、大量の文書処理に適している。個人プラン8.74ドル(約1,290円)から利用可能。
8. ChatGPT
汎用的な翻訳が可能だが、文脈理解や創造的表現に限界。言葉遊びや構造的な翻訳では精度が落ちる傾向。簡単な翻訳タスクには便利だが、ビジネス用途では注意が必要。簡単な翻訳なら無料プランでも問題なし。有料プランは、月額20ドル(約3,000円)から。
9. Microsoft Translator
Office 365との統合でビジネス文書の翻訳に強み。Teamsとの連携も可能で、企業の既存インフラを活かせる点が利点。
10. Amazon Translate
大量のテキスト処理に適したクラウドベースのサービス。ただし、スウェーデン市場参入時の失敗例が示すように、品質管理なしでの利用はリスクが高い。
選定のポイントは用途の明確化だ。リアルタイム会議にはPalabraやポケトーク、イベントにはVoicePingやFlitto、文書翻訳にはDeepLといった使い分けが重要だ。どのツールも人間による確認・調整を前提とした活用が成功の鍵となる。
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