• 2025/11/14 掲載

「うわっ…あの資料どこだっけ…」がようやく終了、グーグルの新AIの威力とKDDIの役割(2/2)

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データは国内に──KDDIが提供する「日本仕様」のAI環境

 Gemini Enterpriseを含め海外のクラウドサービスは便利だが、「うちの会社のデータ、本当に大丈夫?」という不安は拭えない。これが日本がAIで出遅れている要因の1つになっている。

 この状況も大きく変わりつつある。

 KDDIとGoogle Cloud Japanは2025年4月、AI技術における協業に合意。GeminiモデルをKDDIの国内インフラに統合し、2025年度から提供を開始すると表明したのだ。

 大阪府堺市に建設中の「大阪堺データセンター」をはじめとする国内施設にGeminiモデルを組み込み、国内企業向けに提供する。このデータセンターは2026年1月末から稼働を開始し、4月には企業や組織向けの受け入れを開始する予定となっている。施設にはエヌビディア製のGPUが搭載され、高性能なAI処理基盤として機能する。

 この取り組みは、データの保存場所や処理速度を日本仕様に最適化できる点で大きな意味を持つ。データが物理的に日本国内に留まることで、法令順守やセキュリティ面での安心感が高まるからだ。実際、グーグルは8月、オンプレミス環境でGeminiを稼働させる「Google Distributed Cloud」の提供を開始し、KDDIもその初期採用企業として名を連ねている。

 KDDIの責任者は、「グーグルクラウドとの提携により、最先端のGeminiモデルを統合できる。これにより日本企業や消費者の特定のパフォーマンス要件、データの所在地、規制上のニーズに対応可能になる」と語っている

 さらにKDDIは10月、グーグルと「責任あるAI」に関する合意を締結。2026年春にコンテンツ提供者の許諾を得た情報のみを表示するAI検索サービスを立ち上げる計画も明らかにした。著作権侵害を巡る懸念が高まる中、権利保護を重視する姿勢を打ち出すことで、国内企業の安心感を高める狙いだ。

 うした動きは、Gemini Enterpriseの国内展開の可能性を示唆するもの。KDDIは現時点でGeminiモデルの国内ホスティングを表明しているが、このインフラ基盤が整えば、Geminiモデルをベースとする国内向けに特化したエンタープライズサービス提供も現実味を帯びてくる。

「データはどこに?」が死活問題に──地政学リスクで高まる主権意識

 日本企業のAI導入は、米国と比べて明らかに慎重だ。だが、それは消極的というより、リスク管理と段階的な検証を重視する日本企業の特性によるところが大きい。

 GMOリサーチが2025年5月に実施した調査によれば、日本のビジネスパーソンの31.2%が業務で生成AIを使用しており、約7割が利用拡大の意向を示している。しかし、企業の4割以上が明確な全社方針を持たず、組織的な枠組みはまだ形成途上だ。

 まずハードルとなっているのは、人材とガバナンス。金融セクターを対象にしたブロードリッジの調査では、回答者の38%が社内のAIスキルとツールの不足を最大の障壁として挙げた。レガシーシステムとの統合の難しさも25%近くが指摘し、ガバナンスや意思決定プロセスの課題も浮き彫りとなった。日本では技術そのものより、人材育成と統治体制の整備こそが導入の鍵を握る。

 一方、セキュリティとデータ所在地への強い懸念も大きなハードルの1つだ。GMO調査では、44.3%が精度への不安を、34.9%がセキュリティへの懸念を表明。金融業界では、サイバーセキュリティが技術パートナー選定の最優先事項に挙げられている。

 また、地政学的な緊張の高まりによる影響も無視できない。これがデータ主権への関心をさらに押し上げているからだ。ピュアストレージと豪シドニー工科大学による日本を含めた9カ国調査では、業界リーダーの92%が地政学的変化によりデータ主権リスクが増大していると回答。100%がサービス中断の可能性を含む主権リスクを認識し、データの所在地を再考せざるを得ない状況にあると答えた。データ主権は、もはやコンプライアンスの問題ではなく、競争力や顧客信頼に直結する経営課題となっている。

 KDDIによる国内インフラ提供は、こうした日本企業の懸念に正面から応える試みだ。データが物理的に国内に留まることで、法規制への対応が容易になり、心理的なハードルも下がる。導入が遅れていた日本企業にとって、信頼できる国内基盤の存在は、AI活用に踏み出す重要な後押しとなる可能性を秘める。

「うちには合わない」は過去の話──部門ごとにカスタマイズできるAI

 国内では「うちの業務にはAIは合わない」という消極的な声も少なくない。

 ただ、Gemini Enterpriseなど企業向けAIプラットフォームは日進月歩で進化しており、その可能性を試さないことが大きな機会損失につながるリスクもある。

 たとえば、Gemini Enterpriseには、コーディング不要でエージェントを構築できるノーコード機能が実装されており、マーケティングや財務など非技術部門の従業員でも簡単にカスタムエージェントを作成できるようになった。

 マーケティング部門なら、新製品発表用のキャンペーンを自動化するAIエージェントなどの構築が考えられるだろう。企業データに安全に接続できるエージェントが製品詳細を即座に理解し、承認済みのロゴやブランド画像といったクリエイティブ資産にアクセス。ブランドに沿ったキャンペーンアイデアをソーシャルメディア用のコピーやビジュアルモックアップとともに生成するといった具合だ。

 業務プロセス全体の自動化も視野に入る。単一のタスクではなく、複数のシステムをまたぐ複雑なワークフローを調整できるためだ。実際、オーストラリアのマッコーリー銀行では、グーグルクラウドのAIを活用して効率的なデジタルセルフサービス機能を実現。ヘルプセンター検索でセルフサービスに誘導されるユーザーが38%増加し、顧客保護のための誤検知アラートを40%削減した。

 エージェント作成は白紙から始める必要もない。Gemini Enterpriseには、高度な調査を行う「Deep Research」やデータサイエンス用エージェントなど、グーグルが事前構築した専門エージェント群が用意されている。さらにエージェントマーケットプレイスを通じ、パートナー企業が提供する数千の検証済みエージェントを検索し、フィルタリングして導入することも可能だ。

 実際の活用例を見れば、その威力は明らかだ。ブラジルのバンコBVでは、リレーションシップマネージャーが内部の分析システムやビジネスインテリジェンスシステムからコンテキストを得るエージェントを活用し、数時間かかっていた作業を自動化することに成功。顧客との関係構築に多くの時間を割けるようになったという。法務AI企業のハーベイは、Geminiを使って深いコンテキスト理解を備えた法務AIを提供し、契約分析やコンプライアンス業務で弁護士の効率を大幅に向上させている。

 KDDIによる国内インフラ整備に加え、今後見込まれるグーグルによる国内企業向けのエンタープライズAIサービスの登場。これらが国内企業のAI活用をどこまで加速させるのか。今後の動向が注視される。

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