• 2026/01/26 掲載

AI推論とは?「40兆円市場」の勝者は?エヌビディアやグーグル「AIの主戦場」徹底解説

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AI推論とは、学習済みのAIモデルを導入し、エッジ(端末側)環境やクラウド環境でリアルタイムに予測や意思決定を行うプロセスです。この記事では、世界的な市場調査会社MarketsandMarkets社の市場調査レポート「AI推論の世界市場:コンピュート別、メモリ別、ネットワーク別、展開別、用途別、エンドユーザー別、地域別 - 2030年までの予測」を基に、「AIの主戦場」とも言えるAI推論の世界市場および日本市場についてわかりやすく解説します。
編集協力:グローバルインフォメーション

グローバルインフォメーション

世界の主要調査会社200社と正規代理店販売契約を結び、日本をはじめとする世界各所で市場調査レポートを提供している。レポートの取扱数は13カテゴリ30万点におよぶ。レポート販売のほか、提携先への委託調査の仲介や、生成AIを搭載したビジネス分析プラットフォームを取り扱う。
企業URL:https://www.gii.co.jp/

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AI推論市場の全体像をわかりやすく解説
(出典:プレスリリース、投資家向けプレゼンテーション、専門家へのインタビュー、MarketsandMarketsの分析を基に編集部作図)

AI推論とは? 30秒でわかる「学習」との違い

 AI推論(Inference)とは、学習済みのAIモデルに新しいデータを入力し、予測・分類・生成といった結果を出す処理を指します。

 たとえば、需要予測であれば「来週どの商品が何個売れるか」を返し、画像検査であれば「不良かどうか」を判定します。生成AIの場合は、「回答文」や「要約文」を返す処理が推論です。言い換えれば、推論はAIを“動かす”工程であり、ビジネス成果に直結する実践フェーズといえます。

 一方、AI学習(Training)とは、過去のデータを用いてモデルの重み(パラメータ)を更新し、精度を高めていく工程です。学習が「モデルを作る」作業だとすれば、推論は「モデルを回す」作業になります。

 企業のAI活用において、この違いを混同するとPoC(概念実証)の段階で止まってしまいます。現場で成果が出ないAIプロジェクトの多くは、モデル精度“だけ”では解決しないケースが多く、推論の設計(遅延、コスト、データ制約、運用体制)の部分で行き詰まっているのが実情です。

学習と推論の違い
項目 AI学習(Training) AI推論(Inference)
目的 モデルの精度を上げる 現場で結果を返す
処理 重い(反復計算) 連続(リクエスト毎)
主な論点 データ品質、学習手法 遅延、コスト、運用

なぜ今、AI推論が重要視されているのか?

 企業がAI活用を加速させる中で、AI推論エンジンは処理を効率的に実行するために、もはや不可欠な存在になりつつあります。自動運転、医療診断、製造業における予知保全といった分野を中心に、AI推論市場は力強い成長を見せています。加えて、生成AIの普及により、チャット応答や文書要約といった推論処理そのものが、業務に組み込まれるケースが急増していることも大きな要因です。

 とりわけ近年は、リアルタイム性への要求の高まりが、AI推論の重要性を一段と押し上げています。低遅延処理、コスト効率、データプライバシーが重視されるにつれて、「エッジAI推論」も重要性が増しています。これに伴い関連各社は、ハードウェアとソフトウェアの最適化や、推論処理に特化したアクセラレータの開発に注力しています。

 市場の主要プレーヤーである、エヌビディア、インテル、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などは、推論性能を意識した新しいチップを相次いで投入しています。またAWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのクラウドサービスプロバイダー(CSP)も、生成AIや画像認識など幅広いアプリケーションを支える専用のAI推論サービスを提供しています。

 AIモデルの複雑化やユースケースの多様化に伴い、推論処理の負荷は増大し、性能・拡張性・運用効率を両立する推論基盤へのニーズは、今後数年間で急増すると見込まれます。

  • 主な応用例:
    自動運転、医療診断、製造業における予知保全、チャット応答や文書要約
  • 主なプレーヤー:
    エヌビディア、インテル、アマゾン、マイクロソフト、グーグル

市場規模は「5年で2.4倍」、拡大支える背景

 世界のAI推論の市場規模は2025年の1,061億5,000万米ドル(約16兆8,300億円)から、2030年には2,549億8,000万米ドル(約40兆4,400億円)に拡大する見通しで、その間の年平均成長率(CAGR)は19.2%と堅調に推移すると予測されています。

 この目覚ましい発展の背景にあるのは、技術の進歩、リアルタイムAIアプリケーションに対する需要の高まり、医療や金融、自動車、クラウドコンピューティングといった幅広い産業分野での導入拡大です。

 AI推論は、学習済みの機械学習モデルが新たなデータに基づいて予測や意思決定を行うプロセスであり、最新のAI実装においては、モデルの性能以上に、推論をいかに安定して回せるかが、成否を分ける運用の要といえるでしょう。

2030年「CSP」が世界を席巻、主要3社のインフラ競争

 AI推論市場はエンドユーザー別に見ると、消費者/CSP/企業/政府機関の4つに分類できます。中でもCSPの世界市場シェアが大きく、2025年には652億2,000万米ドル(約10兆3,400億円)、2030年には1,483億3,000万米ドル(約23兆5,200億円)規模に達すると予測されています。

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エンドユーザー別ではCSPが世界市場を席巻
(出典:プレスリリース、投資家向けプレゼンテーション、専門家へのインタビュー、MarketsandMarketsの分析を基に編集部作図)

 CSPは、企業や開発者がオンプレミスで高額なインフラ投資をすることなく、大規模かつ高度なAI推論タスクを即座に実行できる環境を提供しています。これにより、専用ハードウェア、高速ネットワーク、拡張性の高いストレージへの投資がCSPを中心に加速しました。

 企業側にとっても、AIワークロードを効率的かつ費用対効果の高い方法で展開できる点は大きな魅力です。拡張性と運用の柔軟性を備えたクラウド基盤が、AI導入における技術的・金銭的な障壁を大きく引き下げたことが、市場拡大を後押ししています。

 さらに、大手CSP間の競争激化も、この流れに拍車をかけています。主力企業はデータセンターを拡張し、より高度なAIワークロードを支援するインフラを強化しています。

 たとえば、マイクロソフトが2024年5月に発表した、タイでAIとクラウドの新インフラを開発する計画はその一例であり、その後も東南アジアでもデータセンター投資を進め、クラウドAI基盤の増強を続けています。さらに、グーグルのTPU v4やAWS InferentiaのAIチップのように、ハードウェアベンダーと提携してカスタムAIアクセラレータを共同開発する動きもあり、CSPは高度に最適化された推論パフォーマンスを提供できるようになっています。

 このような競争は、継続的なイノベーションとAIサービスの品質向上を促し、業界全体でCSPを「拡張的かつ効率的な、AI推論を導入する際の中心的存在」として位置付けるでしょう。以下では、CSPをはじめとする主要エンドユーザーごとに、その役割と動向を整理します。

■クラウドサービスプロバイダー(CSP)
 日本のCSPは、リアルタイムAIサービスの需要拡大を背景に、AI推論ソリューションを積極的に導入しています。NTTコミュニケーションズのような国内CSPのみならず、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった日本で事業展開する世界のハイパースケーラーも、生成AI、自然言語処理、画像認識などのサービスを支える強力な推論エンジンを導入中です。

 また、これらのCSPは、半導体メーカーやインフラベンダーと協力し、AI推論に特化したハードウェアの統合も進めています。これにより、企業や開発者に提供されるAIアプリケーション全体で、低遅延な処理性能を確保できるようになるでしょう。

■企業
 自動車、製造、小売、物流など、さまざまな業界の日本企業が、自動化、品質管理、顧客サービスの向上を目的にAI推論を活用する動きが加速しています。たとえば、トヨタのような大手メーカーは、生産ライン上でのリアルタイムの欠陥検出にエッジ推論機能の活用が進みつつあります。

 一方で、小売企業はAI搭載のチャットボットやパーソナライズされたマーケティングツールを導入しています。ほかにも、AI推論は企業のサイバーセキュリティ、リアルタイムの不正検知、サプライチェーンの最適化においても重要な役割を担っており、業務効率の向上と競争力の強化に貢献しています。

■政府・公共機関
 日本の政府機関や公共機関は、AI推論を活用してスマートシティプロジェクト、災害予測システム、公共安全対策の高度化を推進しています。

 エッジでのAI推論が普及すれば、交通センサー、監視カメラ、IoTデバイスからのリアルタイムデータをローカルで処理し、瞬時の意思決定ができるため、都市のモビリティと緊急対応の質を強化可能です。日本の総務省や経済産業省は、インフラ監視、住民サービス、政策立案におけるAI推論モデルの導入に向けた実証プログラムを積極的に支援しており、デジタルガバナンスにおけるAI推論の重要性を強調しています。

「GPU」が圧倒的主役、AI推論を支える中核技術に

 チップ別に見ると、GPUセグメントが世界市場で最大のシェアを占め、2025年の761億1,000万米ドルから2030年には1,621億2,000万米ドル規模に成長すると予想されています。

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GPUが世界市場の最大シェア
(出典:プレスリリース、投資家向けプレゼンテーション、専門家へのインタビュー、MarketsandMarketsの分析を基に編集部作図)

 GPUが市場をけん引している最大の理由は、並列処理能力とハイスループット(大量データを高速に処理する性能)の高さにあります。もともとはグラフィックのレンダリング用に設計されたGPUですが、今ではAIインフラの中核として、大規模な推論タスクを効率よく処理できる計算資源となりました。特に、ディープ・ニューラル・ネットワークやトランスフォーマ・ベース・アーキテクチャーなど、計算負荷の高いモデルでも力を発揮します。

 GPUの主な利点の1つは、特定用途向けプロセッサと比べて汎用性が高く、幅広いAIフレームワークとアプリケーションをサポートできる点も強みです。メモリ帯域幅やコア構造、ソフトウェア・スタック(エヌビディアのCUDAやcuDNNなど)の進化により、AIタスク向けに最適化され続けているGPUは、推論用途でも採用が進んでいます。

 エヌビディアをはじめとするベンダーは、推論用に特化した次世代GPUプラットフォームの開発に多額の投資を行っています。たとえば、NVIDIA H100 Tensor Core GPUは、推論の処理能力と処理待ち時間を大幅に改善しており、医療、金融、自律システムなどのリアルタイム性が求められる用途での活用が見込まれます。また、クラウドサービスプロバイダーやハイパースケーラー各社も、高性能GPUをAIインフラに統合、エンドユーザーがオンデマンドで強力な推論機能にアクセスできるようにしています。

 AI導入が各業界で広がる中、性能と柔軟性を兼ね備えたハードウェアへの需要は、今後ますます高まるでしょう。GPUは速度、拡張性、ソフトウェア対応のバランスが優れており、クラウドデータセンターからエンタープライズAIスタック、エッジ環境など幅広い現場で、AI推論エコシステムの要として役割を果たし続けるとみられます。

メモリでは「HBM」が主役に。性能左右する“もう1つの中核”

 AI推論の性能を左右する要素は、もはや演算能力だけではなく、メモリ帯域に移りつつあります。

 メモリ別に見ると、高帯域幅メモリ(HBM)が最大のシェアを占め、AI推論市場の主力メモリになると見込まれています。大規模言語モデルや画像認識、リアルタイム分析など、AI推論のワークロードがデータ集約的になる中、HBMは高性能計算を支える重要な技術として存在感を高めています。

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メモリ別では、HBMが世界市場最大シェアへ
(出典:プレスリリース、投資家向けプレゼンテーション、専門家へのインタビュー、MarketsandMarketsの分析を基に編集部作図)

 HBMは、垂直積層構造を採用することによって、高いデータ転送速度と低遅延を実現しています。この構造では、メモリ帯域のボトルネックを最小化し、推論処理をよりスムーズかつ迅速に実行可能なため、AIアクセラレータやGPUに最適です。その結果、HBMは速度、電力効率、スペースの最適化が求められるシステムにおいて、選ばれるメモリになりつつあります。

 こうした技術的優位性を背景に、主力ベンダーはAI向けチップへのHBM統合を加速させています。たとえば、HBM3を活用したエヌビディアのH100 GPUや、高度なHBM構成を搭載したAMDのMI300Xは、その象徴的な例です。また、SKハイニックスやサムスン電子などの半導体企業も、HBMの生産を拡大しており、AIインフラ開発におけるHBMの重要性を裏付けています。

 さらに、CSPやAIハードウェアメーカーが、拡張性と効率性に優れた推論ワークロードへの投資を強めていることも、HBM普及を後押ししています。AIアプリケーションの規模が拡大し、最小限のエネルギー消費でリアルタイムのパフォーマンスが求められる中、HBMは従来型メモリに対して明確な優位性を発揮します。高速で低遅延なメモリアクセスを実現するHBMは、AI推論のバリューチェーンにおける基盤技術としての地位を確立しています。 【次ページ】日本のAI推論戦略は? エヌビディア×経産省「ABCI 3.0」が担う役割
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