- 2026/06/02 掲載
「書類だけ回して」消えた16億円…上場企業も見逃したKDDI傘下発の“架空循環取引”(2/2)
担当者は面識なし…最大取引先との“薄すぎる関係”
そもそも、設立間もない小規模会社から月数億円規模の取引が始まること自体、相当な異変であるはずです。報告書によれば、下流代理店(C社)のg氏が2020年3月に同社を設立した直後、VC社のce氏に対し「3月より新たにC社を設立させていただきます。a氏経由で今後ますますお世話になると思います。」とメッセージを送ったとされます。GP社⇒VC社⇒C社の商流開始は2021年12月頃。設立間もない小規模会社であるC社が、VC社の最大の下流取引先となりました。2025年11月の取引終了まで、本調査でもC社からは回答が得られず、ヒアリングも実施できないまま終わっています。報告書はVC社とC社の関係を「希薄」と表現し、全期間を通じてj氏がg氏と会ったのはa氏の紹介による1回のみで、ce氏はg氏と面識すらなかったと記しています。
顔の見えない最大取引先と、月数億円の取引が淡々と回っていたわけですから、たまりません。
しかも、これだけ規模の大きい取引が、VC社内ではj氏とce氏のわずか2人でほぼ完結していました。報告書はこの属人化を、こう総括しています。
「担当者自身が気づかないまま不正取引に組み込まれた場合においても、社内での早期発見が構造的に困難になる」
そして2023年11月、VC社は東京証券取引所グロース市場に上場します。本件取引の依存度は上場準備時から主幹事証券会社にも指摘されていましたが、依存度をリスクとして開示する対応にとどまり、取引の実在性検証には踏み込めなかったのです。
転機は2025年10月、KDDIの会計監査人から架空循環取引の可能性が指摘されたことでした。同年12月19日、j氏はa氏から「本件GP取引は架空循環取引であること、架空循環取引であることがKDDI社内で露見した」という電話を受けます。報告書はVC社の認識について、「VC社担当者が外部者と共謀して不適切な取引を行った事実はないこと」「VC社担当者に不適切取引であることの認識があったとは認められないこと」と結論づけました。
一方で、報告書は別の一文も残しています。取引金額が極めて高額になっていたこと、VC社が多額の利益を上げていたこと、a氏がGP社内でVC社側と異なる説明をしていたことなど、これらにVC社のj氏が違和感を抱き、健全な懐疑心を持って追求と共有をしていれば、「本件取引の問題点についてより早期に顕出されていた可能性はある」というのです。果たして「巻き込まれた」で済む話でしょうか。
「取引の実在性」をどう確かめる? 報告書が残した問い
報告書の発生原因分析は、こう始まります。「とはいえ、視点をVC社に絞って検証した場合、最大の原因は、VC社が仲介取引として関与した本件取引において、取引の実在性を独立して検証する手段を実質的に有していなかった点にある」
VC社代表取締役社長の新谷晃人氏は月額報酬の65%減額(12カ月間)、取締役の大坂谷優介氏は56%減額(12カ月間)を自主的に申し出ました。本件取引の停止に伴い、2026年2月期決算発表は延期となっています。
意図的不正は認定されない。それでも約16億円の売上は取り消され、上場わずか2年の主力取引を失う。「巻き込まれた」と「責任を負う」の間に、何が起きていたのでしょうか。
報告書を読みながら、筆者がどうしても頭から離れないのは、報告書冒頭近くに置かれた、a氏の最初の依頼の一文です。
「発注書や請求書等の必要関係書類の授受、及び代金支払関係のみ対応してほしい」
約7年4カ月の間続いた約999億円の入金と約982億円の支払が、書類の授受と代金支払いだけで回ってしまったという事実は、マーケティングDXを掲げる上場企業の業務システムにとって、今最も向き合うべき盲点であると感じずにはいられません。
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