- 2026/08/24 06:10 掲載
山田玲司が超解説、『殺し屋1』『ヒミズ』も…90年代後半に「暗い作品」爆増したワケ
東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在し、日本コンテンツ(カードゲーム、アニメ、ゲーム、プロレス、音楽、イベント)の海外展開を担当する。早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、シンガポール南洋工科大学非常勤講師も歴任。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。『推しエコノミー「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(日経BP)、『オタク経済圏創世記』(日経BP)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書)など著書多数。
バブル崩壊で激変?エヴァ誕生の1996年に起きた「暗転」
――山田玲司さんは『Bバージン』の大ヒットにより、広く世の中に知られていくことになります。そうした絶頂期を経て、その後、『Bバージン』はどうなっていったのでしょうか?山田玲司(以下、山田)氏:『Bバージン』は、1997年に連載を終了しています。ちょうど、時代がバブル崩壊とともにどんどん落ち込んでいく頃です。
ターニングポイントは1995年でした。ちょうど上向きの時代が一変して、僕も「日本の底が抜けた」という感覚を持ちました。当時は、『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ放送は1995~1996年)が話題になった年でもありましたし、日本が違う国になっていくような感覚を持っていました。
ヤンサンもスピリッツも暗澹(あんたん)とした雰囲気の作品が増え、露悪的な表現もはびこる。僕はそれが嫌で嫌でしょうがなかった。
――たしかに世紀末でしたね。1999年のノストラダムスの大予言なんかもありましたし…。
山田氏:その時期に、周りのみんなも変わっていったんですよ。たとえば、山本英夫(1968年~)も同じヤンサンで『おカマ白書』(1989~1991年)なんかをやってたのに、その暗い時代の空気感を自分の作風に下ろして『新・のぞき屋』(1993~1997年)とか『殺し屋1』(1998~2001年)とかを描くようになるわけです。
望月峯太郎(1964年~)も同世代ですよ。彼だって『ドラゴンヘッド』(1994~1999年)を描いていたら、時代が彼に追いついてきた。古谷実も『行け!稲中卓球部』(1993~1996年)を楽しくバカ話で描いてたのに、どんどんディープな話になっていった(『グリーンヒル』〈1999~2000年〉、『ヒミズ』〈2001~2002年〉)。
『殺し屋1』ら暗い作品がなぜ激増?売れる作品の大事な条件
――『殺し屋1』は衝撃の作品でした。どんな怖い方が描いているのかなと思って、震えて読んでましたが…。山田氏:実は山本くんは、割とフツーのお兄ちゃんだったんですよ。その暗い作風に変わっていった周りの作家たちも、みんな本当はいい人たちなんです。
「みんな死んだ方がいいんだ」「残酷なことがリアルなんだ」という「時代の空気」にシンクロして、読者が何を求めているかに同調できた作家と作品だけが選ばれていく。それが結果として売れるということなんだと思います。
本当に時代の移り変わりを表しているように、チャラチャラした漫画を描いていた連中が、1990年代後半にみんな闇に向かっていく時代だったんです。
――ずっと同じ作風、同じ技を続ける、という作家もいたのでしょうか?
山田氏:もちろんいたかもしれませんが、時代の空気感を察知していた人だけが残った、という感じだと思います。
もちろん変えられなかった作家も多くいますし、それでファンが付いていった稀有(けう)な事例もあるけど、僕の感覚だと、徐々にそうした作品は選ばれなくなっていくんだと思います。僕もその1人なのかもしれません。
どこかで、「そんな残酷な話、わざわざ描かなくていいじゃん」と思っていたんでしょうね。大学生のバカなノリノリ青春時代を描いた『Bバージン』も、1995年頃を境に時代がガラリと変わり、皆が暗闇に突入していく中で、あまりウケなくなっていくんです。
――漫画家さんって、そのように時代の空気を下ろして作品を描くのが一般的なんでしょうか?もっと内的な、自分自身を作品に落とし込んで描くものかと思ってました。
山田氏:僕ら漫画家の多くは、皆何か本質的なことを表現しなければならないと思っているんです。そうすると自然と、今の時代性とか社会的環境を下ろして、そこに同化していかないといけない。僕自身もカメレオンのように何回も「脱皮」してますし、僕にとっては1997年は、ある意味、別人になった年でもあります。
そうやって時代に影響されながらも本質を突き詰めようとするせいか、柿内芳文くん(『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』などベストセラーを連発する編集者、現STOKE代表で山田氏の長年の盟友)にも、よく「山田さんは漫画家というより思想家ですね」と言われますから。 【次ページ】暗い時代の作品──『アガペイズ』『NG』ら製作の裏側
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