- 2026/08/23 07:10 掲載
「もう少し安くなりませんか」にどう返す? キーエンス流“値引き交渉術”
1991年、兵庫生まれ。慶應義塾大学大学院卒。大学院卒業後、キーエンスに新卒入社。研修時は部内同期でトップクラスの成績(基礎テスト1位、技術テスト3位)を収めるも、配属後は一転して成果が出ず、2年目には最低評価を受け、どん底を経験する。そこからプライドを捨て、電話や質問の1つひとつを徹底的に研究。「凡人がいかにして成果を出すか」という再現性にこだわり抜いた結果、同下期に新商品販売ランキングで全国トップ10に2度入賞。才能に頼らず、泥くさい工夫ではい上がるための営業メソッドを確立。
Xアカウント:https://x.com/asahi_sales
中編はこちら(この記事は後編です)
「安易な」値引きが、商談と顧客との関係を壊す
商談も大詰め、後はクロージングだけ。その営業にとって最も緊張が走る最後の瞬間に、顧客から投げかけられる悪魔の言葉。「もう少し、安くなりませんか?」……わかります。値引きしたくなりますよね? この一言を突きつけられると、
「ここで値引かなければ、今までの苦労がすべて水の泡になるのではないか」と、不安に駆られる気持ちは痛いほど理解できます。
「この商談を失ってしまうのではないか」
ただ、結論から言います。
その不安に負けて、そう簡単に値引かないでください。あなたが良かれと思って差し出したその「値引き」は、その商談を、そしてあなたと顧客との未来の関係性を取り返しのつかない形で破壊する毒になりかねないからです。
一度の値引きが「価格競争」の引き金になる理由
なぜ安易な値引きが「罪」なのか。それは、あなたの製品が持つ「価値」をあなた自身が否定することに他ならないからです。あなたが商談で懸命にプレゼンし、デモを行い、顧客の課題に寄り添って積み上げてきたはずの「ソリューションの価値」。そのすべてを、最後の最後で「実は、その価格ほどの価値はありませんでした」と白状する行為ともなりうるのが、この値引きなのです。
その結果、顧客との関係性に明確な「上下」が生まれます。あなたは「パートナー」から「下請け業者」に転落し、顧客は「買ってあげた」という優位な立場に立ちます。
そして、この悪夢は一度では終わりません。一度でも「言えば安くなる」という成功体験を与えてしまうと、その顧客は高確率で近い将来また値引き要求をしてきます。あなたは「この会社はいつも最後は安くしてくれる」という不名誉なラベリングを貼られてしまうのです。
結果として顧客は、あなたの製品を「価値」ではなく「価格」で判断するようになります。そうなれば最後、競合他社と「どちらがより安くできるか」という、地獄の価格競争に引きずり込まれることは必定です。
値引きするなら「譲歩」ではなく「価値交換」にする
もちろん、値引くことがすべて「悪」だと言っているのではありません。戦略的な価格提示はときにビジネスを加速させます。重要なのは、顧客にその「重み」を理解してもらうことです。
「これは本来あり得ない、御社だけの特別な対応である」という重みを。
もし本当に予算の都合などで値引かざるを得ない状況になったなら、絶対に「タダ」で譲歩してはいけません。
必ず、以下の交換条件を提示し、顧客にも一歩コミットしてもらいましょう。
- 時期をコントロールさせてもらう
- 「承知いたしました。その代わり、今月中のご契約を確約いただけますか?」
- 台数 or オプションを追加してもらう
- 「この価格は、あと2台追加(or 上位プラン)をご契約いただける場合の特別パッケージです」
- 別部署のキーマンを紹介してもらう
- 「ぜひ、同じ課題をお持ちの○○部の部長さまにご紹介いただけないでしょうか」
- 事例になってもらう
- 「導入後、ぜひ成功事例として弊社Webサイトでのインタビューにご協力ください」
- 長期契約をしてもらう
- 「通常1年契約のところ、3年間の継続契約をお約束いただけるのであれば、この価格で対応します」
このように、こちらが差し出す価格という価値に対して、相手からも納期、取引量、新規リード、広告効果、LTV(顧客生涯価値)といった相応の価値を譲歩してもらう──これにより、関係性は対等になります。これは「お願いして値引いてもらう」のではなく、「双方の利益を最大化するためのビジネス交渉」なのです。
【次ページ】顧客の値引き要求の「本気度」を見抜く、1つの質問
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