- 2026/08/20 07:00 掲載
ASI「人間の1万倍」は本当か…孫正義・アルトマンが語らない、AI進化“締切2030年”
AI・脳科学研究者。博士(工学)。株式会社オンギガンツ代表取締役。大和大学情報学部特任教授/AIメタバースラボ所長。
脳が環境をどのように認識し、判断するかを専門とし、特に、現場でデータが揃わず、想定外が起こるなかで判断を迫られる状況──「無限定環境」における認識技術を研究。
海洋領域ではソーナー画像を用いた水中脅威検知で国際学会 MAST、IEEE Oceansに登壇。宇宙分野でも軌道間輸送網の最適化検討プロジェクトに参画するなど、国家レベルの技術課題に取り組む。
一方で、日本を代表する多数企業の経営幹部向け研修を担当。AI を単なるツール導入ではなく、国家・産業構造の変化を踏まえた経営戦略として再設計する支援を行っている。
著書に『AI覇権戦争』『人工知能の哲学』(東海大学出版部)ほか多数。
AGIの定義は、誰も行っていない
2024年、ソフトバンクグループ代表取締役の孫正義氏が「人間並みの汎用人工知能、すなわちAGIは2~3年で実現する。その1万倍の知能をもつ超知能、ASIは10年以内に来る」と宣言し、AGI/ASIは多くのビジネスパーソンの関心事になりました(注1)。同様の言説は、OpenAIのサム・アルトマン氏らも行っています。毎日AIを使うなかで、どこか不安を覚える人も多いでしょう。ですが研究者として冷静にお伝えするなら、ニュースで語られるAGIもASIもシンギュラリティも、ほとんどが実は定義すらなされていないのです。
興味深いことに、宣言した当人たちも定義を行っていません。孫氏自身、講演で「いつ、何倍になるのかには定義がない。明確に言える人は誰もいない」と誠実に前置きしたうえで、敢えて『1万倍』と言い切っています。牽引する側も、明確な基準を持っていないのです。
そんな中2025年、AGIに関する明確な数字が発表されました。当時最新のGPT-5を「AGI達成度57%」とするものです(注3)。100%までの道筋が見えたように感じますが、研究史を読み解くと、基準となるはずの物差し自体が常に動いてきたのです。ここに、研究者たちすら気付けなかった「たった1つの盲点」があります。
AIの「知能」を測る物差しが動き続けた70年
実は、研究者の間でも「知能」の物差しは定まっていません。知能を“測る”70年の試みを一枚の表にまとめました。1950年のチューリング以来、物差しは時代とともに動き続けています。なぜでしょうか。
研究者が「これを実現すれば知能では」と仮説を立てて開発するたび、人間には当たり前のことができないという「盲点」が見つかり、外からパッチ当てのように埋め続けてきたからです。
筆者が『なぜ人工知能はまだ「人を越えられない」のか? そびえ立つ「意味の理解」の壁』などの記事で過去に指摘してきた通り、人間にとっての当たり前をAIが実現することは容易ではなく、それを外から埋めようとしても、限界があるのです。そして、その限界を端的に表すキーワードが「自己言及」という専門用語です。
[表1]知能を“外から”測ろうとした70年──物差しの系譜と、こぼれ落ち続けた一点
| 年 | 誰が | 物差し | 盲点 |
| 1950 | チューリング[4a] | 人間と区別できなければ知能 | 中身は問わない。「バレなければ知能」 |
| 2007 | レッグ&ハッター[4b] | あらゆる環境で目標達成する力を数式化 | 環境そのものを定義し直す働きは式の外 |
| 2019 | ショレ(注5) | ARC=初見パズルで地頭を測る | 初見で「何を正解とするか」決め直す部分は測れず(後にARC-AGI-3で先鋭化) |
| 2023 | モリスら[4c] | 性能×汎用性でAGIを5段階格付け | 「段位」は外から与える枠組み |
| 2025 | ヘンドリックスら注3 | CHC理論で10領域に分解し採点(GPT-5=57%) | 「覚えておく力」の領域は最新AIでも0点 |
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